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苦手なことはしたくない、という子どもに私は何ができるのか

大抵の場合、得意なことと好きなことは重なっているものだと思う。スポーツが得意な人は、スポーツ好きであることが多い。うまくできて楽しいから好きなのだろうし、好きだからもっと練習してさらに得意になっていく。

同じことの裏返しで、不得意なことは好きではない、つまり、苦手なことはしたくないという心理もまた自然なことである

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最近、息子は、バスケットボールのクラスに通い始めた。仲の良い友達が数人参加するクラスなので、初回は喜び勇んで参加した。その日、迎えに行ったときは、頬を紅潮させて、試合の途中から抜け出してきたかのように興奮しながら笑顔で走って出てきた。クラスが終わってからも、友達とわいわいとふざけ合っていた。

だが、その日の夜、夕食のテーブルで隣に座っていた息子が浮かない声で私に言った。

「ママ、僕、バスケットボールのクラス、もう行きたくない。」

クラスを楽しんでいたとばかり思っていたので、私は息子の言葉を意外に思って理由を尋ねた。すると息子は、私にだけ聞こえるように、こそっと小さな声で、

僕はバスケットボールがうまくできないから。」

と言った。

クラスの中で、息子が周りの子に後れをとりながら、不器用に、でも一所懸命についていこうとする様子が私には瞬時に想像できて、ちょっと切ないような、なんともいえない気持ちになった。クラスでは常に体が一番小さく、運動能力が高いとは言えない息子にとって、体を使うことで同年齢の友達と同等にやり合うことは大変なことなのだろう。そして、その方面が得意ではないことに自分で気付いている。

私は、どう語りかければ、息子を勇気づけ、励ますことができるのか考えた。他人と比べなくていい、自分なりの挑戦を続けて、少しずつでも前に進んでいくことが大事なんだとわからせたかった

「誰かよりうまくできる必要なんてないのよ。君が、頑張って練習して、少しずつうまくなっていけばそれでいいんだよ。」

息子がこれまで練習を積み上げてできるようになったことを想起させながら話した。水泳や自転車のように、最初は難しくても、練習を続けたらきっと上達していくよ。息子の話に時々登場するバスケットボールが得意な友達だって、これまでにもクラスに通ったり、家で練習をしてきたから、あれだけできるようになったのだ、ということにも触れた。

いま振り返ってみると、これは大人の視線での発言だったなと思う。

「君は今よりうまくできるようになりたい?」

「ノー!」

息子は、やりたくないのだ。やりたくないことを頑張ってやれと言われて、どうしてやりたくないのにやらなければならないのか、と反発したのだろう。

それに、誰かから、「他人と比べなくていい」と言われて、ハイわかりましたと理解できる子どもは、たぶんいない。私自身を振り返ってみても、このことを本当に理解できたのは、大学生のときだったように思う。しかも、海外に出て、それまでの常識を覆される経験をしてやっと、そういうことかと合点がいった。(それでも、いまだに他人と比べて気持ちが沈む日がないわけではない。)

言葉で語りかけること、大事なことを繰り返し伝えることも大切だが、子どもが本当の意味でものごとを学ぶには、やはり自分で体験することが必要なんだろうと思う

そして今日は、そのバスケットボールのクラスの2回目がある日だったのだが、案の定、今朝はひと悶着があった。

「バスケットボールのクラスには行きたくない。」

最初は、「行きたくないんだけどな・・・」くらいのニュアンスだったのに、話をするうちに、「行きたくない」、「行かない」と断定的な言葉になっていった。

無理にでも行かせて、行ってみたら思ったより楽しかった、となることもあり得るが、ここは一旦引いてみることにした。

「バスケットボールは難しいよね。そんなに行きたくないなら、今日は無理に行かなくてもいいよ。でも、その代わり、この週末は、パパとママと一緒にバスケットボールの練習をしよう。」

「うん!」

息子の表情が、ぱっと明るくなった。そのときに、よくわかった。息子は、バスケットボールが嫌いなわけではないのだ。自分が周りの子たちよりうまくできないという状況に置かれたときの精神的苦痛が嫌なのであって。

苦手なことはしたくない、という単純な心理は、よくよく見てみると、「他人との比較」という呪縛にがっしりと絡まれていた。他人と比較することで、切磋琢磨し、頑張る力が湧くこともあるが、誰かよりうまくできるかできないかという基準で自分の価値を決めてしまうとしたら、それは違うと思う。この呪縛から解放されれば、どんなにか生きやすくなるだろう。できることなら今すぐ息子をこの呪縛から解放してやりたいが、こればかりは彼が自分で気付くほかに道はない。親として、私は何ができるか。大きなテーマである。

とりあえず、今週末は、息子とバスケットボールの練習を。



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