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コストコの特大ホットドッグがかすむくらい、心に沁みた話

誰かの優しいこころが伝わって胸にじんわりと沁みる。今日はそんな体験をしました。

買い物のついでに、もうお昼も食べちゃえということで、わたしたちはホットドッグとピザを注文しました。お昼時のコストコ。アメリカのコストコでも、ホットドッグはびっくりするほどの安さで、大人気のメニューです。

1.5ドルって!しかもドリンク付き

画面で注文して、番号が呼ばれるのを待ちます。受取り口付近は、同じように大きなカートに手を置きながら、自分の番号が呼ばれるのを待つ人たちで混雑しています。

わたしは、この人だかりの向こう側にあるテーブルのエリアに目を向けながら、無事に座れるだろうかと考えていました。とりあえずカートを置く場所を確保しないと。安さを取れば、優雅に食べるのはむり。世の常です。

10分くらい経って、やっと番号が呼ばれました。受取り口へ行くと、わたしの注文した3つの品が無造作に置かれています。茶色い無地の紙の袋が2つと、紙プレートにどさっと投げ入れられたかのようなピザ。係の人は、もう次の注文の準備に追われていて、勝手に持って行けって感じです。

実はアメリカのコストコでホットドッグを食べるのは初めてだったわたし。

茶色い袋の中には、何にも包まれていないホットドッグがそのまま入っていました。極限までコストを削減した結果こうなったといわんばかりの、ざらざらした茶色い紙の袋がいかにもコストコ。そして、ホットドッグがとにかくデカい。これ、カロリーと脂肪どうなってるんだろう。成分表示をみるのが怖い。いや、いまになってこんな心配をするのは、完全に後の祭り。

でも、そんなことより、まずはテーブルの確保です。わたしは、子どもたちをカートのところで待たせて、一人で席を探しに行きました。テーブルはすべて埋まっていますが、ところどころに、4人掛けのテーブルに1人で座っている人がいます。どの人もお連れを待っているように見えましたが、最悪2席確保できれば、詰めたら3人で座れるなとわたしは踏みました。

「ここ、空いてますか?」と聞いてまわります。すると、どの人も、あと2人来ます、とか、あと3人います、というのです。子どもたちを連れていなかったので、わたし1人かと思って、「大丈夫、ここ空いてるから座りなよ」と言ってくれる人もいたのですが、「子どもが2人一緒にいるんです」というと、ああそれじゃあちょっときついわね、となりました。

最後にきいたのは、女の人でした。その人は、テーブルに1人で座っていました。「ここ、空いていますか」と空席を指さして聞くと、ちょっと困った顔をして、「後で人がきます」と答えました。「こっちの2席が使えたらありがたいんですけど」とわたしがさらに言ったら、その人はちょっと沈黙して、言い淀みました。その様子を見た瞬間、わたしは、無理してテーブルに座らなくても、車まで行って食べればいいか、という気がして、「あ、大丈夫です。気にしないで。」といってその場を立ち去りました。

その後、ホットドッグにケチャップやらマスタードやらをかけているうちに、テーブルの一つが運良く空いて、結局、わたしたちは無事座って食べることができました。スペースを確保できて、良かった良かったと一息ついてから、特大ホットドッグ2つとチーズピザをほとんど平らげました。

さあ帰ろうと身支度をしていると、突然、後ろから声をかけられました。振り返ると、わたしがテーブルの空席について尋ねたときに言い淀んだ、あの女性でした。

あのね、わたし、さっきあなたをテーブルに座らせないようにしたつもりじゃなかったのよ。でも、申し訳なかったなと思って。ごめんなさいね

え。わたしは一瞬きょとんとしてしまいました。さっきの会話から、もう20分くらい経っています。わたしたちが、ホットドッグとピザにかじりついている間も、さっきの会話のことを心の片隅に留めて、気にしてくれていたのでしょうか。なによりも、その気持ちを、わざわざわたしのところまで来て、伝えてくれたことに驚きがあり、それから感動がありました。どこの誰かもわからないわたしに。そのまま打ち捨てたってなんの支障もないのに。

ごめんなさいなんてことは、全然ありません。でも、気にかけてくださって、ありがとう

わたしはそう言って、にっこりと笑顔を向けました。彼女はマスクをしていたので、顔の表情全体は見えなかったけれど、目じりを優しくさげて、それなら良かった、とでもいうように笑顔を返してくれました。

このところ、ちょっと荒んでいたわたしの心は、このご婦人のおかげで、ちょっと持ち直しました。大切に扱ってもらった感触が、静かに胸に残りました。


ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

《アメリカでの生活のことを書いています》

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