「VALORANT」のランクマッチが教えてくれる「ブースティング問題」の解決策
チーム対戦型のオンラインゲームには「ブースティング」という用語が存在する。
これはあるプレイヤーに対して、よりランクが高い(スキルが高い)プレイヤーが味方としてゲームに参加することで、片方の勝率を実際のスキルに見合わないレベルにまで上げてしまうことを指す。
勝率が上がることで、そのプレイヤーは高いスキルを持つプレイヤーとしてゲーム側から判断され、同じ高スキルプレイヤーが集まる試合にマッチングされるようになる。
当然、勝率が上がっただけでスキルが向上していないプレイヤーは、味方チームに対し不利を生みだしてしまうことが予想できるため、他プレイヤーの体験を著しく損ねてしまうだろう。
このことより、たとえ結果として勝率の上昇がみられなかったとしても、ブースティングは許されざる行為だ。
前振り(事情をご存じない方に向けて)
チーム対戦型オンラインゲーム「League of Legends」(以下、「LoL」)では、このブースティング問題が話題に上がっている。
中には当事者に対しての中傷や、以前の似た問題に目を向けたブラックジョークもみられたが、ここからは少しでも状況の改善につながることを祈って、他コンテンツにおける変化や傾向を紹介したい。
ここで取り上げる「VALORANT」について
タイトル通り、「5人のプレイヤーによるチーム同士の対戦」そして「勝率とスキルレベルを基にしたマッチングシステム」という共通点を持つ「VALORANT」に注目したい。
VALORANTはLoLと同じくriot gamesが開発、運営するチーム対戦型オンラインゲームだ。
戦略を重視する「MOBA」に分類されるLoLとは異なり、VALORANTは銃を扱う「FPS」に部類されるが、上記の通りオンラインマッチングとしては共通している部分が存在する。
VALORANTのランクマッチの変化
VALORANTは2021年11月中旬、パッチ3.10にて「コンペティティブキューでの5人プリメイドパーティーのランク制限」を「撤廃」したのだ。
単語に見慣れない方に説明すると、「コンペティティブ」とは「競技的」を意味するマッチングであり、試合結果によってRPと呼ばれる勝利点を獲得、または喪失する。
また、一定期間中に集めた勝利点に応じてアイアンからブロンズ、シルバーという風にランクが上がっていき、レディアントと呼ばれる上位グループへと到達することを目指す、LoLでいうところの「ランクマッチ」だ。
「5人プリメイドパーティー」とはゲーム内のマッチングシステムを使用せず、自分とその他の4人のメンバーであらかじめチームを組み、オンライン対戦へ参加する集団のことだ。
つまりVALORANTはあらかじめ5人チームを作り、対戦に参加するのであれば、その5人はどれだけスキルレベルが離れていても構わないとしたのだ。
一見この変更はブースティングを促すように見えるが、安心してほしい。
VALORANTはその他の要素で2つの制限を設定した。
第一に、プリメイドパーティーは、一般のオンラインマッチングシステムを利用して試合に参加する「ソロ」プレイヤー達とはマッチングできない点だ。つまりプリメイドパーティーの対戦相手は必ず他の5人組のプリメイドパーティーとなるということだ。
加えてこの時、各チームのメンバーが持つスキルが近くある必要があるため、条件を満たす対戦相手をゲームシステムが探し当てるにはより長い時間が必要になる。
第二に勝利点の変化量が少なくなるというものだ。この現象はパーティー内でのランクの差が基準以上に離れている場合に発生し、場合によっては最大90%のカットがはいるという。
この2つの制限には不自然な点が存在する。コンペティティブマッチとは、紹介した通り試合結果による勝利点を集めることが目標となるゲームシステムだ。当然より多くの勝利点を出来るだけ早いペースで獲得することが自身のランクを上げる近道となる。
しかし、上記の制限を受けたプレイヤー達は明らかに非効率的な環境でゲームをプレイすることになる。なぜVALORANTはこのような制限を新たに設けたのだろうか。
ランクマッチの楽しみ方の多様化
これらの変更の根拠として、riot gamesは同時に、自社による調査結果を示した。
それによると、『スマーフを行う最も一般的な理由は「ランク制限縛り無くフレンドとプレイしたいから」というもの』だという。
この調査結果からは、普段一人でゲーム内マッチングを利用し、毎試合見知らぬプレイヤーと試合を繰り広げ、勝利点を稼いで次のランクを目指す「ソロ」プレイヤーの行動原理とは大きく離れている印象を受ける。
調査の内容とこの変更を信じるのであれば、プリメイドパーティーを組むプレイヤーは、効率よくランクを上げることよりも、仲の良いフレンドと一緒にプレイすることを優先し、その結果スマーフ行為を行っていたということになる。
おそらく、「初心者プレイヤーに大差で勝利したい」といったような明らかな悪意を持ったプレイヤーも中には存在するだろう。もちろんそういったプレイヤーには別の対処が必要となる。
しかしそうではなく、純粋にフレンドと試合を楽しみたいという動機を基にするブースティング問題の解決には、希望が持てるように感じる。
先ほど紹介した通り、5人でパーティーを組んだチーム同士を戦わせることで各チームでの戦力差を合わせることができ、試合結果による勝利点の上下が抑えられていれば、プレイヤーが自身のスキルに見合わないランクに到達してしまうことも防げるだろう。
その上、「ランク制限縛り無くフレンドとプレイしたい」というプレイヤーの目的まで満たせるなら全く問題無い。
しかし、ここで1つの疑問が生まれる。
多くの対戦型オンラインゲームには、ランクの変動が起きないカジュアルマッチ(VALORANTでは「アンレート」)が存在する。どうして「フレンドとプレイしたい」彼らはカジュアルマッチではなく、わざわざランクマッチに向かうのだろうか?
「エンジョイ」と「ガチ」以外の分類
私の周りにもそういった意見が見られたが、個人的には「ソロとパーティー」、そして「カジュアルとコンペティティブ」の2つのプレイスタイルをそれぞれ別の軸で考えるべきではないか、と考える。
つまり、「ソロでコンペティティブ」な体験を求めるプレイヤーも、「パーティーでコンペティティブ」な試合を求めるチームも同時に存在するということだ。
この図では、もしソロプレイヤーとパーティーが同じ試合に参加しても、カジュアルマッチであれば問題なくプレイできることを示している。
なぜなら、カジュアルマッチでは勝利点の喪失というリスクが無く、試合そのものを楽しむことが一番の目的となるからだ。
もちろんあまりにも大きな実力差は、プレイの楽しさを削いでしまう恐れがあるが、多少のものであれば許さるだろう。
たとえ負けてしまっても味方が不利益を被るわけでもなく、そもそもカジュアルマッチではプレイヤーのランクは公開されない場合が多い。
しかし、自身のランクを上げる事をプレイの目標とし、試合の結果に左右されるランクマッチでは話は別だ。勝利を目的とするランクマッチでは、甘えやミスは少なくあるべきであり、チーム間の実力差は不公平感の原因となる。
勝利至上主義は行き過ぎるとプレイヤーへの攻撃につながるため、注意が必要だが、モラルを抜きに避けられるトラブルには対応策を取るべきだ。
「ランク制限縛り無くフレンドと(競技的な試合を)プレイしたい」という目標を持つプレイヤーと、「効率よくランクを上げたい」という目標を持つプレイヤーをひとまとめにせず、住み分けを行うことが重要ではないか。
VALORANTが行った変更も、そういった住み分けに向けた挑戦だと予想するが、LoLには既にそういった「コンペティティブ」な「パーティー」プレイの場が用意されている。
「フレックスキュー」と「clash」だ。
LoL日本コミュニティできること
説明を始めると長くなりそうなので、詳しくは公式サイトを確認してほしいが、要するにパーティープレイに向けたランクマッチとオンライン大会の話だ。
clashはサーバー周りの問題が解決されて、毎週大会を楽しむ人が増えてきて嬉しい限りだが、フレックスキュ―は正直影が薄い印象を受ける。
既存のサービスを発展させながら、コミュニティ主導の大会を充実させていくことが、「パーティー+コンペティティブ」のプレイヤーの居場所を作ることにつながり、ソロプレイヤーが遭うトラブルを防止することになるだろう。
まとめ(忙しい方に向けて)
「ランク」より「フレンドとの試合」を優先するプレイヤーが存在する
「ソロか、パーティーか」と「カジュアルか、そうでないか」は別の話
パーティー向けのゲームシステムと、コミュニティ大会の活用を
ちょっとだけ高めのコーヒーが買えるようになります。よろしくお願いします。