そのマダミスはプレイヤーの体験をデザインしているか?
この記事は Boad Game Design Advent Calendar 2023 の12月10日の担当記事です。
はじめに
デジタル・アナログゲーム制作サークル GESA と申します。
私たちはゲーム会社の同僚で集まったサークルなので、みな業務でも休日でもゲームを作り続けています。
はじめてマーダーミステリーを作ったのは昨年で、今年のゲームマーケット秋で2作目を発表しました。
なぜマーダーミステリーを作ろうと思ったか
最初にマダミスを遊んだときは、こんな面白いゲームがあるんだ!と感動しました。
しかし、何作かマダミスをやっていくうちに、ゲームデザインがもったいないな、と思うようになりました。
具体的には以下のような点です。
メインの事件にあまり関わらないキャラにも役割を与えるために作られた(と思われる)サイドストーリーが、「事件の全貌を解き明かす」という一番面白い体験を損ねている
自分の秘密を隠すことを「点数」などでシステム的に命じられた場合、プレイヤーがしたい行動と矛盾が生じがちで体感が悪い
裏向きの調査カードを引くことの運要素が強いが、一度きりの体験で運要素を入れる必要性は薄い
これらは、「人数」や「ゲームシステム」などのというゲームの外堀の部分を先に決めてしまって、「本当にプレイヤーに与えたい体験 (= コンセプト)」と反してしまったことによる体験の悪さです。
(もちろん、そのような不満点のない素晴らしい作品も多いということは注釈しておきます)
では、どのようにゲームデザインをすればそのような体験の悪さを防げるのでしょうか?
この記事ではそれに対するアンサーとして、コンセプトを考えてゲームを作ろう!という話をしようと思います。
コンセプトとゲーム要素について
マダミス、ひいてはゲームを作る際には、コンセプトとゲーム要素を意識した方がよいでしょう。
それぞれ、以下のように定義します。
コンセプト:プレイヤーにどのような体験をさせたいかという目的
ゲーム要素:実際にゲームを構成する有形無形のすべての要素
コンセプト
「ドリルを買いに来た人は、ドリルではなく穴が欲しい」などと言ったりします。
では、ゲームを遊ぶ人は何を求めているのか?
それは体験です。
ゲームのコンセプトを決めるというのは、「このゲームを遊んだプレイヤーがどのような体験をするのか」を決めるということです。
価値観が揺さぶられる
ゲーム中の会話がとにかく盛り上がる
エンディングに向けて計画的に準備するのが楽しい
密談の緊張感がすごい
など、プレイヤーの感情に紐づいたものが良いでしょう。
ゲーム要素
ゲーム要素とは、カードや冊子などのコンポーネントから、密談の有無やトークン消費の仕組みなどのゲームルールまで、実際にゲームを構成するすべてのことです。
プレイヤーが実際に触れ合うのはゲーム要素です。
それぞれのゲーム要素がコンセプトを支えるようにデザインされていることによって、プレイヤーの体験がコンセプト通りのものになっていきます。
逆に、どれだけ良いコンセプトを打ち出したとしても、一つ一つのゲーム要素がそのコンセプトに沿っていない場合、プレイヤーの体験はコンセプト通りにはならないでしょう。
コンセプトを決めるメリット
1. ゲーム全体の軸が定まり、制作の指針になる
極端なことを言うと、ゲームはコンセプトなしでも作れます。
トランプゲームや一発ネタのゲームなどの単純なゲームの場合、一つ特徴的なシステムを考え付き、既存のゲームにその要素を足すことで、面白くなることもあるでしょう。
しかし、マダミスのような複雑なゲームでは、いろいろな要素が絡まりあうため、闇雲に作ると結局何をさせたいゲームなのかわからなくなっていく可能性が高いです。
コンセプトという、ゲーム制作における目標を立て、ゲーム要素をコンセプトに沿ったものにすることで、体験が明確にデザインされたゲームになっていくと思います。
2. どんなゲームか言いやすくなる
ゲームを人に紹介するときに、どのように説明するでしょうか。
例えばマーダーミステリーというジャンルを知らない人に紹介することを考えてみます。
ゲーム要素で表現する場合
「推理小説みたいな事件を解明するゲームなんだけど、プレイヤーが演じるキャラごとに別々の背景や目的があって、会話して、時には嘘をついたりしながら自分の目的を達成しようとするようなものだよ」
プレイヤー体験で表現する場合
「推理小説の登場人物になったような体験ができるゲームだよ。それぞれのキャラごとに別々の背景や目的があるから、お互いに腹を探りあって会話するのが楽しいんだ」
同じことを言っているのですが、後者の方がどういう楽しさがあるのか伝わりやすいと思います。
コンセプト(=与えたいプレイヤー体験)が定まっているゲームは、体験ベースでの紹介がしやすいはずです。
マーダーミステリーにおける体験のデザイン
ここまではゲーム一般で成り立つことでしたが、次にマダミスならではのことを考えてみたいと思います。
まず、マーダーミステリーを定義しましょう。
この記事ではできるだけ広く、
「背景が与えられたキャラクターのロールプレイをしながら、各々の目的を達成しようとするゲーム」
と定義します。
実はこの時点で、ゲーム要素がいくつか要請されています。
各々のキャラクターの背景があること
ロールプレイが必要であること
各々の目的があること
まだコンセプトを決めていないのに、ゲーム要素が決まっていていいの?と思うかもしれませんが、決める順番は重要ではありません。
最終的にすべての要素がコンセプトに沿っていればいいのです。
逆に、これらの必須ゲーム要素が沿わないようなコンセプトは、マダミスのコンセプトとして適切でないことになります。
例えば、「全員平等な条件で実力のみが影響する頭脳戦を楽しむゲーム」のようなコンセプトの場合、キャラクターごとに別々の背景がある、というのはコンセプトに反する邪魔な要素になってしまいます。
コンセプトが悪いわけではありませんが、そのコンセプトを最大限活かすジャンルはマダミスではないと思います。
少し話がずれました。要するに、マダミスのコンセプトを立てるときには、マダミスが本来持つ面白さをどう拡張するかということを考えるのがよさそうです。
推理小説の登場人物になれる
情報の交換や共有などの戦略性を楽しむ
他のプレイヤーを説得して信用してもらう
秘密を隠すためにいい嘘を考える
などなど、マダミスが含んでいる面白さはたくさんあります。
そのうち、どこの部分にフィーチャーし、オリジナリティを入れるのかというのが、まさにゲームデザインの核、コンセプトとなると思います。
拙作のマダミス『それは透子の呪いのように』での例
実際に、私たちがこれまで作ったゲームがどのようなコンセプトなのか、紹介したいと思います。
『それは透子の呪いのように』のコンセプトは、「プレイヤー全員がひとつの物語を動かしている感覚になるゲーム」でした。
これは、初めに話したマダミスの不満点「メインストーリーにあまり関わらない人が出てしまう」を解決した上で、全員により深くメインストーリーに関わってほしいという気持ちを込めています。
さらに、このコンセプトを補強するために入れたゲーム要素がいくつかあります。
調査カードは必ず全員に公開する
(理由)必要な情報が隠されて、メインストーリーが進まずにゲームが終わってしまう可能性を排除した
アクションが書かれた調査カードがあり、調査フェーズ中にアクションが実行できて、それが状況を変化させる
(理由)プレイヤーが実際に何かのアクションをして調査をしているという体感を高め、より物語に入り込めるようにした
もちろん、これらの要素を入れることで失われてしまうものもあります。
調査カードを必ず公開にしたら、情報を隠す遊びや、誰かにだけ見せる際に見返りを要求する遊びなどが失われてしまうでしょう。
ですが、実はそれらの遊びはコンセプトとは関係がないのです。
どんなに一般的なシステムであっても、コンセプトに沿っていなければ、入れないほうが良いと判断しました。
その結果として、マダミスとしては一風変わったゲームデザインになり、twitterなどで感想を見ると賛否が分かれているようでした。
尖ったゲームデザインを絶賛している方もいれば、思ってたんと違う…という雰囲気のものも見受けられました。
本来はこんなコンセプトですよ、というのを周知したうえで販売するのが良いのですが、そこまで手が回りませんでした。これは、完全に広報的な部分での失敗ですので、経験として次回から生かしたいと思います。
まとめ
コンセプトとゲーム要素を分けて考えよう
ゲーム要素がコンセプトに沿っているか考えよう
マダミスが本来持つ面白さをもとにコンセプトを考えよう
考えたコンセプトを支えるゲーム要素を考えよう
個人的にコンセプトに沿って研ぎ澄まされたようなゲームが好きなので、そんなゲームが増えることを願っています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?