シュクメルリの話
人間が作った塔を崩し、言語をバラバラにする。
ヒョロヒョロの強盗がナイフを手に押しかけて来たので左の拳だけでボコボコにした。
犬が捨てられ氾濫した川に流されつつある。
上司の子供をパーキングエリアのトイレに閉じ込める。
わざと自動車にボールをぶつけて遊んでいた子供の親に録画した映像をみせて土下座させたし板金の見積もりを提出した。
老人の群れが幼稚園になだれ込み騒音反対と叫ぶ。
噛んできた犬を保健所に送る。
虫をたくさん踏みつける。
ビアジョッキで後ろの女の脳天をかち割る。
親父が芸能人なんだ。
天然水で溺死。
樹海で迷子になり婚約指輪をなくしました。
揺らすことが面白いと思ってそればかりする地球。
松屋のシュクメルリを食べたときに芽生えた感情を言葉に変換する装置にかけると、こう出るんだよ。と、おじいさんは笑って教えてくれました。細い紙に筆ペンで、かろうじて読める文字が書かれています。穴の空いた縁側。おじいさんの手にあるその装置は、死んだ鈴虫が入っている虫かごにしか見えません。泣き声。釘が2本飛び出ています。
ささくれの目立つ畳。おばあさんは僕の生まれる前に亡くなっています。削られた跡のあるおばあさんの仏壇。僕はいつもおじいさんの部屋に入れられます。夕暮れ。そうしてみんなは安心します。天井の模様。向こうの部屋で楽しくご飯を食べています。蝉の腹。
これをあげようね。甘くて美味しいんだ。とおじいさんは僕に差し出します。錆びた数本のネジです。ムカデ。ありがとう、と言って受け取り、口に含みます。ムカデ。髪の毛を収めた箱。おじいさんは満面の笑みで僕を見ます。僕は吐き気をこらえます。それはね、ネジだよ。食べられないんだよ、と教えてくれます。風鈴は割れていて鳴りません。けん玉の朱。ムカデ。
…
小さな葬祭会館に借りた、6畳の部屋にある粗末な祭壇に横たえられた、無表情のおじいさん。借り物のぼんぼりが熱により回ります。
僕をこの人の部屋に入れて安心していたあの人たちのことを、一生忘れません。
お前たちのことです。
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