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未知なる美味が集う、小樽の夜の至福。

「酒処 ふじりん」2020年11月28日(土)

列車の轟音、鄙びた商店街、静かに降り積もる雪。
知らない街だというのに、どこか懐かしいくせに、
賑わいのないそのどこかに、世界の没落を夢見る不埒な欲求を心の隙間に垣間見る。
歳を積み重ねるとは、そんな心象風景の繰り返しなのかもしれない。

謎めく小樽を巡る最後の店に入ると、意想外の混み様であった。
しかも客層は程々に若々しく、世界の没落など幻想に過ぎないことを教示しているようだ。
ともあれ、あらためてビールで身を引き締めた。
華やかな女将がお通しとともに現れた。
「刺身の盛り合わせ」とともに、今秋まだ食していない「さんま焼き」のメニューに目を奪われた。
「自家製〆サバ」はもちろん「活ほっき」と「しゃこ」の刺身は、食する直前まで際どい緊張感を有するも、ひとたび口に含むと、上質な香りを運んで独特の食感を携えてほくそ笑む。
「さんま焼き」の身の大きさと脂身も圧巻である。
容赦なく食べ干し、豊富な日本酒を愉しむのも程々に、
「ふぐひれ酒」を幾度となく飲み干しながら、「煮穴子」に挑みかかった。
煮穴子ときゅうりを海苔で巻いて食するスタイルは、まさに圧巻としか言いようがなく、さらに、「牛すじ煮込み」と「おでん」が体を熱量を上げていった。
決して主張が強過ぎずも、しっかりと具材に染み込む汁。
この絶妙の調和は、札幌でさえなかなか出会えるレベルではない。
とてつもない満足度と同時に、あるひとつの不満が不用意に沸き起こった。
それは一晩でこの店の味を知り尽くすことができないということである。
列車の旅を気取っておきながら、いざとなれば通える距離感である以上、幾度となく訪れ、多様なメニューを堪能しなければ、この不用意な不満は解消されることはない。
2020年という世界の歴史に刻まれるであろう年の暮れに、小樽で出会えた美味の数々。
2021年も再び小樽における未知なる美味を探求し、自らの歴史に刻むことを心に誓った…

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