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【読書】『アルファベット荘事件』北山猛邦【物理トリックもストーリーも楽しむ】


先日読んだ『私たちが星座を盗んだ理由』(北山猛邦 著)が面白かったので、北山猛邦さんの他の作品も読みたいと思っていたところ、青崎有吾さんの以下のツイートと出会いました。


復刊されたばかりというタイミングにご縁を感じたこと、衝撃の物理トリックに興味を持ったことから、『アルファベット荘事件』を手に取りました。


💫『私たちが星座を盗んだ理由』の読書感想はこちらから↓


「創生の箱」とパーティ


プロローグの舞台は、西ドイツです。両親とともにホテルでのパーティに出席することになった小学生の男の子は、街で日本語を話す少女と出会い、一緒にパーティに向かいます。


彼らが出席するパーティは、「創生の箱」のパーティでした。「創生の箱」は、空の状態で鍵を閉めても、突然中に物が出現するという噂の箱で、パーティの最中、空を確認して鍵をかけた少し後に再び開けると、箱の中からバラバラ死体が現れたのです。


西ドイツでの出来事が描かれた後、舞台は十数年後の日本に移ります。


岩手県の山奥にある別荘へ、劇団の女優である美久月と後輩の未衣子、探偵のディは向かっていました。別荘の所有者である美術商の岩倉氏から、美貌で有名な美久月がパーティの招待を受けたのです。


その別荘は『アルファベット荘』と呼ばれ、屋敷の様々な場所にアルファベットの大きなオブジェが設置されているという特徴がありました。


加えて、岩倉氏が購入したという「創生の箱」も屋敷内にありました。そして、パーティに招待されたのは犯罪に関係する人ばかり、岩倉氏は不在、雪がひどくなってきているという状況の中、何らかの事件の発生が予感されます。


物理トリックもストーリーも楽しむ


このお話には、物理トリックとストーリーのどちらも楽しむことができる魅力があります。


まず、青崎有吾さんのツイートにあった物理トリックですが、青崎さんがおっしゃるとおり単純明快なものでした。あっさりしている、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、非常にわかりやすく、納得感がありました


次に、登場人物たちの掴めなさが印象的です。登場人物が個性的というと、アガサ・クリスティーの作品なども思い浮かびますが、あの登場人物たちは、癖があるけれどこういう人いるよね、いそうだよね、という現実感があります。


この作品の登場人物たちは、もっとふわっとした次元にいるのです。たとえば、ディ。不可能犯罪を解決するためだけに存在し、名前も過去も、他には何も持たない。「どういうことなんだろう」と不思議に思います。


他の人たちも、犯罪を研究していたり、犯罪解決のために動いていたり、性格も含め、その辺りにはいそうにない人物です。事件が起こるまでが比較的長く、一人ひとりが丁寧に描かれているので、事件は恋愛感情のもつれとか遺産相続問題とか、そういうシンプルな背景で起こるものではないのだろうな、と想像が膨らみました。


そして、全体を通じた、淡白な雰囲気も心に残りました。様々な感情が渦巻いたお話なのですが、空気はどこか無機質な感じなのです。物理トリックと知って読んだことや一面が雪の変わらない景色を想像したこと、上述の現実感のあまりない登場人物たちなどが原因なのかもしれません。


その淡白な雰囲気というベースがあるからこそ、エピローグは心に刺さりました



本日も記事をお読みいただき、ありがとうございました。
復刊された『アルファベット荘事件』、ぜひ手に取ってみてください。


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