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【読書】『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成【他人や自分を信じる勇気】


『六人の嘘つきな大学生』(浅倉秋成 著)を読みました。


一気読みでした。土曜日の夜中に、お風呂にkindle端末を持ち込んで読み始めたのですが、止まらなくなり、少し冷えたお湯の中で、最後まで読んでしまいました。気が付けば明け方になっていました。


こんなにも先が気になる本に出会えたことが、まずは嬉しかったです。


就活のグループディスカッション


若者に大人気のSNS、スピラを運営する、株式会社スピラリンクス。渋谷の大型商業ビルにおしゃれなオフィスを構えるこの企業が、ついに新卒総合職の採用を開始します。


5千人以上の学生の中で、最終選考に進んだのはたったの6人。1ヶ月間この6人で準備をし、スピラリンクスが実際に担当している案件と似たテーマについてグループディスカッションをする、というのが最後の課題でした。


グループディスカッションの出来によっては、6人全員に内定が出ることもあり得るとのことで、6人は互いの得意なところをいかし、足りないところを補い合いながら、チームワーク良く準備に勤しみます。


ところが、ある日突然、人事より、グループディスカッションの内容の変更が告げられます。東日本大震災の影響により、今年度の採用は一人にする、グループディスカッションの議題は、「6人の中で最も内定に相応しい人は誰か」にするというのです。


グループディスカッション当日、会場には、誰のものかわからない白い封筒が置いてありました。6人それぞれに宛てられた封筒の中には、他の誰かに関する告発文が入っていたのです。


他人や自分を信じる勇気


『六人の嘘つきな大学生』という題名にも関わらず、このお話からは、他人や自分を信じる勇気がもらえました。


ミステリーとして、様々な伏線が魅力的だったのはもちろんですが、「おそらく完全にいい人も、完全に悪い人もこの世にはいない」「一面だけを見て人を判断することほど、愚かなことはきっとない」という波多野の言葉が強く心に残りました。


大人になるにつれてわかってきたこと


人の様々な面を見ること、自分から見えていない部分を想像することの大切さは、大人になるにつれてわかってきたことです。


中学生の頃、学校でトラブルがあり、学年集会が開かれ、それについて皆で考えるということがありました。


明らかに故意と思われる状況で、学校の備品が壊されていました。どう思うかと何人かが指され、「皆で使うものを壊すのは良くない」「名乗り出て謝るべき」というような意見が出される中、ある先生が、「たしかに良くないことだけれど、その人がどうしてこんなことをしてしまったのか、何か悩んでいたのか、ストレスがあったのか、考えてみることも必要」というようなことをおっしゃったのです。


私は当時、その先生の言葉に素直に頷くことはできませんでした。家庭の事情を抱えてむしゃくしゃしていようと、友人関係に悩んでストレスを発散したかったのだろうと、「備品を壊す」のは明らかに悪いことであり、背景にどんな理由があるにせよ、「壊した生徒は悪い生徒」と思っていたのです。


まっすぐ育っていたと言えるのかもしれませんが、私には世の中の複雑さがまだ理解できていませんでした


しかし、大人になるにつれ、様々な人と出会って、視野を広げていきました。自身の努力で手に入れたと思っていたものも、周囲の環境に恵まれたおかげだとわかったり、世の中には努力ではどうしようもできないことがあると学んだり。そんな中、あのとき備品を壊した人も、その行為自体が許されるわけではありませんが、完全な悪人やどうしようもない生徒だったという訳ではなく、単に「そのとき弱さが出てしまった人」だったと理解しました。



社会に出た今は、良くないな、嫌だなと感じることがあっても、まずは決めつけず、その人が抱えるもの、言葉にはしなくても考えていることを想像したり、その人とコミュニケーションを重ねたりして、少しずつ理解を深めていくことの重要性を実感しています。


他人だけでなく、自分についても同じです。何か失敗してしまったとき、「これだから自分は駄目」と決めつける必要は全くなく、色々な自分がいることを認め、再び努力するなり、違う方向に舵を切るなりすれば良いのです。


このお話は、私の考えを肯定してくれた


このお話は、朝まで読み続けてしまう、最高に面白いミステリーという形をとって、これまで私が学んできたことについて、「その通りだよ」と肯定してくれたように感じます。


他の人の悪いところばかりが目についてしまう、他人を信じるのが怖いという方。嘘つきのお話を読んで、他人や自分を信じる勇気をもらうとはどういうことだろうと感じた方。ぜひ、この本を手に取ってみていただけたらと思います。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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