見出し画像

夜なので小夜啼鳥のはなしを

 お久しぶりです。

 サヨナキドリってご存じでしょうか?そう、ナイチンゲールですね。アンデルセンの童話『夜鳴きうぐいす』にも登場します。

Da lød i det samme, tæt ved vinduet, den dejligste sang: Det var den lille, levende nattergal, der sad på grenen udenfor; den havde hørt om sin kejsers nød, og var derfor kommet at synge ham trøst og håb; og alt som den sang, blev skikkelserne mere og mere blege, blodet kom raskere og raskere i gang i kejserens svage lemmer, og Døden selv lyttede og sagde: "Bliv ved lille nattergal! bliv ved!"
 (Andersen, "Nattergalen" より引用)

 今日はこの鳥をゲルマン語で何というのか見て行きましょう。ちなみに学名(ラテン語)だと Luscinia megarhynchos です。-cinia の部分が canō <歌う> と同根ですね。ついでに-rhynchos の部分はギリシャ語由来で <嘴> の意味です。

 まず英語。これはそのままナイチンゲール、 nightingale ですね。なお、OED にはかの有名な看護師フローレス・ナイチンゲールの名字に由来する Nightingale <看護師>という単語が収録されています。

 次に同じく西ゲルマン語のドイツ語。 Nachtigall になります。そしてオランダ語では nachtegaal です。

 次にノルド語を見て行きましょう。スウェーデン語では näktergal 、(上記のデンマーク語や)ノルウェー語では nattergal です。実のところ、これらは同属別種の Luscinia luscinia を指すことが多いようなのですが、今回の記事で扱いたいのは言語的な話であって生物学的な話ではないので無視させてもらいます。実際、一般的な言語使用において俗名は学名と一対一に対応するというものでもありません(用法に揺れがあります)。

 上から順に並べてみましょう。

英 nightingale
独 Nachtigall
蘭 nachtegaal
瑞 näktergal
典 nattergal

 どの単語も同様に前後二つに分解できますね。前半は「夜」、後半は強動詞 gala (OE galan, OHG galan)「鳴く」の語幹と同じです。合わせて「夜に鳴く者」といった感じでしょうか。

 ですが、それぞれ違う部分もありますね。その中でも ①英語の -ng- の部分と② スウェーデン語の -kt- とデンマーク語の -tt- の違いに注目してみたいと思います。

 まず英語の nightingale の語形。2つ目の -n- ってなんだろう?と思いませんでしたか?私は思いました。この -n- は中英語期に第一音節に強勢のある三音節語の真ん中の音節で -g- の前に挿入されたようです。 messenger も(部分的にですが)同様の変化を経た例になります。

 次にスウェーデン語とデンマーク語の比較。ノルド語では一般に西ゲルマン語より子音の同化が進んでおり、 -kt- はイタリア語と同様 -tt- になります。ですが、この同化が起きたのより後の時期の借用語だと事情が変わります。借用元の言語に倣った形になるわけです。それがスウェーデン語の näktergal です。中低ドイツ語 nachtegale からの借用とされます。一方、デンマーク語やノルウェー語では nattergal ですね。これは単なる借用ではなく翻訳借用したものと考えると分かりやすいです。「夜」はデンマーク語で nat 、ノルウェー語で natt でしたね。また、スウェーデン語でもデンマーク語でも見られる -r- についてですが、これは古い属格に由来すると考えると納得しやすいです。

 まあ実際の所、古い用例を見るとスウェーデン語で -tt- になる場合、デンマーク語で -kt- になる場合、また前成分と後成分をつなぐ要素が母音のみの場合と色々あるようです。そのような色々ある形の中で生き残ったのが今現在の形ということになりますね。

カバーの画像はWikipediaからです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?