スウェーデン語の最大の辞典【SAOB】がついに完成
お久しぶりです。今回は、これまでも SO, Svensk Ordbok と並んで多く参照してきている SAOB, Svenska Akademiens ordbok の最終巻がついに本日2023年12月20日に完成・インターネット上でも公開されましたので紹介したいと思います。
※カバー画像にはこのリンク("Svenska Akademiens Ordbok, vol. 20-35", Author: Per A.J. Andersson)の画像を改変(トリミング)の上で使用しています。元画像と同様のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(BY-SA)となります。
SAOB とは
SAOB はスウェーデン・アカデミーが編集するスウェーデン語の辞書で、1521年以降のスウェーデン語(これを nysvenska といいます)に現れる全ての単語を扱っています。ただし個人名、地名などの固有名詞や方言などは対象外となっています。辞書の規模は見出し語にして50万語余です。
SAOB の大きい特徴としては、通常の辞書のような現行の主要な意味順でなく、その単語の(nysvenska における)歴史に沿って配列されているということが挙げられます。従って、ある用法がどれぐらい古いのかということや現在は使われていない単語や用法を確認することが可能です。
このように SAOB は学術的な用途に向いており、英語におけるオックスフォード英語辞典(OED, Oxford English Dictionary)やドイツ語におけるグリムのドイツ語辞典(DWB, Deutsches Wörterbuch)に相当するものといえます。
SAOB 編纂の歴史
SAOB は 1898年に第1巻が発行されて以降、編集が続けられてきました。2021年には第38巻が発行され、本日公開された第39巻で完成を迎えました。各巻は字母順となっており、最終巻である第39巻は Ä または Ö で始まる単語で構成されています。
※スウェーデン語では A~Z の後に Å, Ä, Ö が配列されています。
また、第1巻も無から湧いて出た訳ではもちろんなく、根拠を辿るとスウェーデンアカデミーの設立の時点で以下のように規定されています(ちなみに SAOB は以下のような古い文章を読解するときにも役立ちます);
デジタル化に関して、1997年には SAOB は Göteborg 大学によってデジタル化され、無料でインターネット上で利用できるようになりました。2011年には現在のプラットフォームに移っています。
SAOB の使い方
SAOB が歴史のある大辞書だというのは分かったと思います。それでは実際に SAOB を使う際にはどうしたらよいでしょうか。
アクセス
SAOB は紙書籍としても発行されていますが、その大部さから紙媒体での利用は非現実的であり、以下のプラットフォームのどれかを利用するのが現実的でしょう;
①は SAOL, SO と同時に検索できるのが魅力ですが、一方でワイルドカード検索を行った場合に10個しか候補が表示されない、また記事内でのショートカットができないという欠点があります。また、第39巻の内容はまだ反映されていません。
②は SAOB 単体ですが、ワイルドカード検索を行った場合も全ての候補が表示される、スクロールせずに記事の目的の場所に移動できる(下画像参照)などの長所があります。またフリーテキスト検索も可能です。SAOB の利用が主目的の場合は①より便利です。第39巻の内容も反映されていて、完成版の内容が利用できるのは現時点ではここだけです。
③は基本的には②の旧バージョンですが、特殊な条件での検索が可能(下画像参照)であり、学術的な目的で利用することがあるかもしれません。ただし収録されているのは T で始まる単語までで U 以降は含まれていません。
利用にあたって
SAOB では独自の編集方針を採っているため、全く事前知識(発音の表記、略記など)がない状態で利用しても正確に情報を得ることが難しいです。
そのため、以下の書籍が有用ですが、公式に pdf として公開されているのでぜひ必要に応じて参照してください;
Carl-Erik Lundbladh, "Handledning till Svenska Akademiens ordbok", Stockholm: Norstedts 1992.
また、1893年の序文も pdf 化されており、以下のリンクから読むことができます;
Inledningen till den tryckta versionen av SAOB 1893
SAOB 自体が歴史的な書籍ですから、一度読んでみてもよいと思います。
今後の方向
上で述べたように SAOB は100年以上前から編纂されていますから、若い文字の巻は古くなっており、新語が含まれていない、含まれている語彙の新しい用法が記載されていないなどの問題があります。また、途中でスウェーデン語の正書法が改正されていますので現在とは違う表記が辞書本文にも使われている部分があります。
2024年以降は以上の点を10年以内を目標として改訂していくとされています。なお、改訂版についてはオンラインでのみの公開となり、紙媒体での発行は行われないようです。また、資金面での不足により改訂版の編集が頓挫する可能性が報道されていましたが、Helge Ax:son Johnsons Stiftelse, Svenska litteratursällskapet i Finland, Kungliga Vitterhetsakademien, Riksbankens Jubileumsfond などが援助して資金を賄うようです。
最後に
私がスウェーデン語に興味を持ったのは数年前で、純粋に語学的な勉強以外にスウェーデン語史の勉強などをしてきましたが、SAOBの完成という歴史的瞬間に立ち会えて感動です。
みなさんもこの機にスウェーデン語を始めてみませんか?
参考
Kris för Svenska Akademiens ordbok: Riskerar att gå i graven
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