あなたがスウェーデン語を学ぶべき五つの理由

突然ですがスウェーデン語を始めてみませんか?

スウェーデン語は主にスウェーデン王国とフィンランド共和国で話されているゲルマン語の一枝です。デンマーク語やノルウェー語と近縁ですが、フィンランド語とは言語の系統自体が大きく異なります。…といった情報を知っていても具体的にどのような言語かは知らないという方が多いのではないかと思います。今回の記事ではスウェーデン語を学ぶべき五つの理由を紹介します!

なお、他の言語への優越性を主張しているわけではないので、他の言語にも適用可能な理由もありますが、ご理解下さい。

理由① 多くの優れた文学作品がある

一般的には児童文学が有名です。3つ挙げるとしたら Lagerlöf の『ニルスのふしぎな旅』(1906-1907年)、Lindgren の『長くつ下のピッピ』(1945年)、 Jansson の『ムーミン』シリーズ(1945-1970年)になるでしょう。また、ノーベル文学賞を受賞した作家が計7名と多く、上記の Lagerlöf (1909年受賞)以外に Heidenstam (1916年受賞)、 Karlfeldt (1931年受賞)、 Lagerkvist (1951年受賞)、 Johnson (1971年受賞)、 Martinson (1971年受賞)、 Tranströmer (2011年受賞)がいます。古い時代に視点を移すと、スウェーデンは Rökstenen (9世紀)などのルーン碑文の数が多いことで知られます。他には Gustav Vasas Bibel (1541年)などの聖書を含むキリスト教関連の中世の作品も有名ですね。

なお、個人的推しは Tegnér の『フリチョフ物語 Frithiofs saga』(1825年)なのですが(このあたりはロマン主義に分類されます)、ツイートして共感が得られたことがありません…(笑)

論説的文章はともかく、文学は原語で読むことの意義が深いと思います。特に詩歌を読む場合に翻訳だと元の味わいは得られません。是非スウェーデン語を勉強して GVB や『フリチョフ物語』や『ムーミン』を読んでみて下さい!

理由② ゲルマン語は英語とドイツ語だけではない

英語以外に勉強されることが多いゲルマン語は群を抜いてドイツ語だと思います。私もまずドイツ語をやりました。

英語の歴史などを囓っていると、英語は外の言語などの影響を受けて語彙的にも外来のものが多いし、屈折も簡素化されて総合的言語から分析的言語に変わったということが印象に残ります。つまり、改新が多く『ゲルマン語らしさ』が失われたのが英語だという印象です。その上でドイツ語は現代英語と比して『ゲルマン語らしい』言語だという印象を受けると思います。

上記の印象は大筋では間違ってはいませんが、ドイツ語(、そして英語に残るドイツ語に似た部分)がゲルマン語の特色を体現していると考えると危険性があるのではないかと思います。つまり、ドイツ語や英語を、他のよく学ばれる印欧語(フランス語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、ラテン語、古典ギリシア語)と比較して、それらだけに見られる規則を見いだします;例えば歯音で始まる定冠詞を前置して定性を表すとか述語形容詞は性数によらず不変だとかですね。すると、言語の系統を意識している人ほどそれをゲルマン語の特徴だと認識してしまうのではないかと思いますが、それは必ずしも正しいとは限りません。

このような誤謬を回避するためにもドイツ語と英語が属する西ゲルマン語群とは別の枝である北ゲルマン語群の代表的な言語であるスウェーデン語を勉強することは重要であるといえます。また、英語とドイツ語しか知らないとどうしても2項対立的に考えてしまいがちになりますのでそういう意味でも、ある言語グループに属する言語を3つ以上知るというのは意義が深いと思います。その足がかりにまずはスウェーデン語を勉強してみましょう!

理由③ 豊かな方言がある

これについては今後の別の記事で語りたいですが vokalbalans という概念は(現代語の中だと)スウェーデン語とノルウェー語の方言のみに特徴的な現象ですが、標準語の形態の理解にも重要なので、ぜひ東ノルド語に興味のある方には知っておいて欲しいところです。スウェーデン語の方言を学ぶためにはスウェーデン語の標準語の理解は必須ですから、まずはスウェーデン語の標準語を学びましょう。
※古語も含めると古フリジア語の古い特徴を残す一部の方言にも見られます

理由④ 環境が整っていて入門しやすい

日本語で書かれた多くの一般向け書籍があります。大阪大学外国語学部の日本語で使える無料の学習サイトもあります。

以前の記事でスウェーデン語学習関連の日本語書籍を紹介していますので参考にしてみて下さい。

独断と偏見に充ち満ちた私のオススメ学習法は、①速習コース;上記の阪大の学習サイトを一通り見た後に『スウェーデン語トレーニングブック』をやるか、②じっくりコース;『スウェーデン語(世界の言語シリーズ12)』をしっかり読むか、です。

まぁ語学はやるかやらないかだと思っているので何でもいいと思います。英語の『Swedish : A Comprehensive Grammar』とか『Complete Swedish』とかもアリでしょう。 

辞書はお高いので最初は阪大の学習サイト/教科書の語彙集(紀要として公開されています)を使ってもいいかもしれません。著者の當野先生がその後アップデートして見出し語4800まで増やしていらっしゃいます。

辞書を紙で欲しいという方は『スウェーデン語辞典』、『Prisma’s Unabridged Swedish-English/English-Swedish Dictionary』、『Natur och Kulturs Svenska Ordbok』あたりが有力な選択肢かなと思います。またNorstedtの瑞英辞書が古本だと安価に手に入れやすい気がします。

上述のように、話者数1000万人程度の言語としてはスウェーデン語の学習環境は恵まれていると言えます。折角なので時間がある方は勉強しないと勿体ないかもしれません。

理由⑤ 優れた資料が無料で提供されている

言葉通りです。これだけ無料で使えるのは素晴らしいですね。

日本語で読めるもの

大阪大学関連のものとして、上記の語彙集、『スウェーデン語基本不変化詞動詞リスト』があります。他にも色々な大学のリポジトリサイトを探すと面白い物がありますが、いきなり使うのは難しいかもしれません。

現代語に関して

SAG, SAOB, SO, SAOL, KORP

スウェーデン語の古語/歴史/方言に関して

Svensk Etymologisk Ordbok, Söderwall の辞書, Schlyter の辞書, Svensk diakronisk korpus, Svenskt Dialektlexikon, SweDia, Svenska landsmål och svenskt folkliv

以前の記事も参考にしてみてください。

これだけのものが無料で公開されているというのは本当に恵まれていると思います。折角なのでスウェーデン語を学んでみましょう。

おまけ

スウェーデン語話者には意外に(というと失礼ですが)有名人も多いです。王族・政治家以外で個人的に印象に残っている人を挙げておきます;Celsius (1701-1744年), Linné (1707-1778年), von Fersen (1733-1810年), Ångström (1814-1874年), Nobel (1833-1896年), Rydberg (1854-1919年), Arrhenius (1859-1927年), Sibelius (1865-1957年), Sievert (1866-1966年), Svedberg (1884-1971年), Weibull (1887-1979年), Karlgren (1889-1978年), Cramér (1893-1985年), Klein (1894-1977年), Sjögren (1899-1986年), Thunberg (2003年-)。

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