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緊急事態宣言 解除後の未来 前夜に語ろう

・コロナと暮らす社会を想像しよう

 飲食店の自粛要請も緩和がすすんでいる。人の出が街に戻りつつある。とはいえ、日常生活を送るなかでの身体感覚は、コロナ社会以前のそれとはやっぱり、違うものになった気がしている。私のそうした変化や近ごろ得た所感から、今後の社会はこうなっていくんじゃないかというのを、牛のようにのんびりと語ってみよう。

・近ごろの体験談

 今日、私は久々に開館した図書館へ足を運んだ。館内に入るとすぐ、貸出カードの呈示を求められ、カードのバーコードを職員さんが読み取る。入館者の情報を図書館で管理して、万一の際に追跡がしやすいためである。
 私はスーパーに普段ほとんど行かないので、新鮮味があったのだが、その受付の職員さんとのところから貸出カウンターまで、透明の(とはいっても、材質のせいで相手の姿が滲んだように見える)ビニールシートがあちこちに張られている。感染症対策ゆえ、という理解があっても、どこか厳めしい感じがしてサービスを受ける側は圧迫感さえ覚える。
 本を閲覧するにしても、一度手に取った本は直接戻すのではなく、傍にあるラックへ戻すようにとあって、こちらの何気ない行動が管理されている気がして落ち付かない。馴染みの閲覧スペースも、一ヶ所に座席が片づけられて、「ご使用できません」の張り紙とともに、テープでバリケードがなされている。調子が狂いに狂った私は、楽しみにしていた書架の物色もほどほどに、堪らずそれも切り上げて帰ってきた。

・対人対物の体験は宝玉のように

 感染症に気を遣いながら生活をする社会が構築されるならば、そうした対人サービスは贅沢なものになっていくんじゃないだろうか。そうした(間違いなく以前の価値観なら仰々しささえ感じる)対策設備を組むのは、一時的な対処法としてならば励行できるかもしれない。けれども、人間は中だるみする生き物だ。こうした労力に対価を求める人たちがそのうち現れやしないだろうか。
むろん、図書館の職員が利用者にお金を請求し始める、なんてことを言っているわけじゃない。たとえば、「最上級の感染症対策 実施済み」を売り文句に、一日数組限定で料理を提供する店が出てくる気がする。
 コロナの一件で、会議や営業がリモートで意外と済ませられることに気付いた人も多いだろう。人と会うと気負ってしまう私にとって、これは良い風向きにある。先月末に研究会関連の人たちとSkypeで意見交換会をした。その前にも後にも人と会うことがめっきり無くなった私には、そこでの会話が充分、生活の潤いになった。
 その体験を通して、人と直接会うこと自体がそもそも珍しいなんてことが、いよいよ当たり前になってくる予感がした。対人だけでない。ホンモノと対面できること自体が珍しく、貴重な体験になっていくのではないか。
 世界の博物館・美術館の展示室内をバーチャル・ツアーしてくれるウェブサイトが、話題になった。伊勢丹 新宿店の売り場を3DCGで再現し、商品を売り込む現場でさえも遠隔で体験できるようにする構想が、実装化され始めている。つまり、モノのテクスチャーに直に触れることが、日々のオンライン上での体験の割合に逆転されるのは間違いない。

・コロナ以前の暮らしはメンドーだった

 行動力のある人にとっては御理解いただけないだろうが、そうでない私のような人にとって、生のモノに触れるために自分の身体を駆動させて、そのモノがある空間を体験する行為は、とても大儀なことなのである。ところが、社会にここまでの制約・制限が加わって、直に触れる体験に障壁が有りすぎる今、テクスチャーを味わう体験は、「メンドー」なことから「キチョー」なことに転換するのではないか。
 これはキャンプに似ている。現代人が毎日、料理をするときに火起こしから始めていたのでは、不便さに辟易すること間違いなしだろう。でも、キャンプで火起こしをする体験は、(それすらイヤ! という人もいるだろうが)後々いい思い出にもなるし、上手く点かなかったときの試行錯誤が楽しい場合もある。
 日々、何かに直接アクセスすることは案外面倒くさいことで、そうしたことは偶のことでいいのではないだろうか。直に見て触れることが貴重なことになるならば、その逆張りで、テクスチャーにこだわって徹底的にそれを磨くことが、改めて評価されるかもしれない。パッと思いついた例として、職人の手業なんかが当てはまるのではないだろうか。

・おわりに

 この発想が、社会的なムーヴメントになるかはわからない。けれどもコロナの影響でこうした発想をした人間がひとりでもいるのだ。似たようなことを考えている人は、他にもわんさといるかもしれない。その発想をこうして文章化しておけば、面白い気がしたので書いてみたという具合だ。
 思いついたトピックはまだまだある。この記事にそれを全部書いたら混乱することは必至なので、今回はここまで。

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