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「 広告スパイラルから脱却せよ」大手企業の会社員の私が地方創生スタートアップを始める理由 <第2回 >

先日より、大企業勤めの私が、なぜ地方創生スタートアップを始めるかを執筆し始めました。今回は第2回です。最後までお読みいただけますと幸いです。

魅力が埋没しているのはなぜ?

第1回では地方に眠る、土地の魅力を見つけることが難しいこと、しかし、そこには土地ならではの魅力が眠っている事を紹介した。私はこの事を確認したいと思い、市役所の職員さんへヒアリングさせていただいた。すると、回答は

・市のホームページにも掲載している
・SNSの公式アカウントでも発信している
・近隣の大都市では駅構内での告知活動も行っている

というものだった。どうやら、埋没させる気はないことは確かである。では、なぜ埋没していると感じるのであろうか?

余談ではあるが、観光招致であれば「東京」から!と思われるかもしれない。しかし、東京は交通の中心であるため、東京のお客さんを観光招致するということは、実は敵が多く効率が悪かったりする。伊豆からの視点で言えば、東京の顧客を引き込むには、中央道の山梨、長野、関越自動車道の埼玉、群馬、東北自動車道の栃木、海ほたるルートの千葉、新幹線では東北、北陸など、四方の強豪と顧客の取り合い合戦を繰り広げることになる。その事を知る伊豆の観光事業者は、横浜をターゲットにする。横浜の顧客は、近隣の観光なら逗子や鎌倉、もう少し遠出するなら伊豆といった塩梅だ。わざわざ混み合う東京を通過して、北関東へ抜けるということはあまり無い。だから大都市から伊豆への観光招致イベントは横浜で開かれることがほとんどで、伊豆のアンテナショップも元町・中華街にあったりする。(だから東京では、あまり伊豆の宣伝やイベントを見かけることが少なかったのか)

元町・中華街にある伊豆半島アンテナショップ「美・伊豆」

広告に傾倒しすぎるリスク

さて、ここで、お店で買う「商品」に関する購買行動について考えてみたいと思う。商品は知ってもらわないと買ってもらえない、そのために広告がある。従来であればTVCMが主であったが、2019年ネット広告がそれを上回った。これを見て「これからはネットの時代かぁ」と思われるかもしれない。しかし、恐らく着眼点はそこではない。総額を見てみると、2015年に3兆円だった広告費は、2019年には約4兆円に膨らんでいるのである。言い換えると広告費が4年で2割以上も上がっている。つまり、広告主は、TVとネット、顧客に届き易い方を選択しながら、今まで以上に広告費をかけていかないと効果が出にくい時代になっている。より、複雑に、より高額にである。私は観光業はこのスパイラルに飲まれてはいけないと考えている。特に地方自治体は、大企業のように潤沢な予算はない。集客のための広告に苦心するあまり、多くの予算を失ってしまっては、地元の魅力を発見・再発見したり、磨いたりという、そもそもの「商品力」を高める余力がなくなってしまう。後述するが、どんなにキャッチーな広告が光っても、詰まるところ顧客の印象に残るのは「商品力」である。ここは、なんとしてでも、増えゆく広告費に頼らない経営が必要だ。

出典:電通 2019年 日本の広告費

一般商品のマーケティング理論は観光では使えない!?

商品が認知されてから、購入されるまでの戦略立案では、しばしば『AIDMA』や『AISAS』というマーケティング理論を用いて、顧客の心理プロセスを追って戦略を組み立てることが多々ある。近年では、スマホでいつでも検索ができるため、オウンドメディア(自社サイト)での情報発信に力を入れるところも多く、購入後のシェアで更なる認知や好感形成を行うことも大事だ。私も企業の商品プロモーションで戦略を考える際は、この方法をよく利用するが、観光系の戦略を同様に考えた際、どうもピースが合わない。

メーカーの作る一般商品は、商品が「売れる」までが販売目標である。そして、販売目標である『Action(購入)』は多くの場合、店頭で行われ、その場で完結する。つまり、大枚を叩いて投資した広告戦略は、店頭で商品が売れることで成就されるのである。そのために、店頭では、POPなどを使い購買を後押し。刈り取りを着実なものにしていく。商品がシェアされる要因は、よほど「商品力」が優れているか、ニンジンをぶら下げるかで効果が変わる。(○○を買って、SNSでつぶやいてプレゼントをもらおう!キャンペーンなど)補足するが、コロナウイルスの影響で、この店頭販売の考えは、この先オンライン販売シフトなど、ある一定程度の変容が起こることが予想される。

観光の『売れる』≠『集客』

では、観光ではどうだろう。そもそも観光における「売れる」とは何であっただろうか。観光は商品といってもサービスに近い。お客様に『旅』という、最高の経験を提供できて(そこでお金を使ってもらうことで)「売れる」。体験と対価(売れる)がトレードオフの関係だ。では、広告や街頭イベントにはどう言った作用があるか。『集客』である。しかし、広告効果で顧客がその土地へ行きたいと思っても、その時点ではまだ何も体験していない。集客後は「刈り取り」にも力を注ぐ必要がある。前述した「売れる」とは顧客に最高の体験を提供することであるが、それは、個別の努力で成し遂げられるのだろうか?

特定の人気スポットだけが加熱しては持続可能性が下がる

「お客さんが来てくれるなら、いいじゃないか」と思われるかもしれない。しかし私が取材してきた自治体の中には、集客効果をあまり素直に喜べないという方もいた。例えば伊東市である。JR東日本の「is beautiful 伊豆」の広告を見て、伊豆に行きたいと思った方は多い思う。しかし伊東市から見るとこうだ。「多くのお客様は熱海で止まってしまう」「熱海から乗り継いでくれた人も、大半は伊東を通り過ぎて下田まで行ってしまう」と言う。伊豆への集客を企てても、顧客の目的地は2大観光地に偏ってしまうのである。大枚を叩いた広告もこれでは痛恨の極みである。しかし後述するが、この状況は、人気の2大観光地にとって、持続可能性を下げる懸念を秘めている。

広域連携は2度美味しい

顧客にとって最高の体験ができる場所どこか?それは、熱海や下田かもしれないし、伊東や伊豆高原、東伊豆、南伊豆なのかもしれない。その人にとっての最高がどこにあるかは、実際に体験してもらわないと分からない。さらに、ダイバーシティ化が進み、顧客の嗜好はますます多様になってきている。その中で「自分にとって最高な体験」これをマッチングさせることが、明日のファン=リピーターを作り出すことにつながる。自治体単位では難しい決断にはなるのだが、顧客からすれば隣の自治体は通過点でもあるし、行動範囲内である。下田を目指していても、途中東伊豆にある爬虫類の動物園「izoo」に立ち寄って遊ぶのは楽しいし、伊東に世界ジオパークが認定する壮大な景色があることを知れば、それも見に行きたくなる。すると、1日では回りきれないので、また伊豆に遊びに来たくなる。伊豆は広い。恐らく10年通っても飽きはこないだろう。しかし、もし顧客のひとりが、広告で伊豆に行きたくなり、人気、知名度から下田を選択し最高に満喫した(と思ってしまった)時「もう伊豆には行ったことあるから、もういいや」と、伊豆の全てを知ってしまったような気にさせてしまっては、将来の来客機会を失ってしまうのである。なので、近隣の自治体に塩を送ることで、その顧客がまた伊豆に戻ってきてくれるのならば、どんどんやるべきなのである。その時「やっぱり下田にも、もう一度行きたい!」と思わせるのは、地元の魅力をしっかり伝えた時だ。

伊東市にある「大淀・小淀」火山が海で冷え固まった跡がはっきりと見える。ジオパークの魅力が感じられるジオスポット

観光におけるマーケティング理論

広告による集客は「旅前」のサプリ

さて、ここで一般商品と観光の違いを、マーケティング理論に沿って考える。この理論は顧客の心理プロセスに沿って考えるべきものなので、私は電通の開発した「AISAS」にさらに2つの指標を加えようと思う。一般商品では「レジに行って買う」これがActionであり。第一目標達成だ。しかし、観光にあてはめるとActionは集客であり、この時点ではまだ交通費程度しか地元にマネーが落ちていない。旅行とは、日常の世界から飛び出し、非現実=感動を求めて行動することなので、顧客は観光地に到着後どれだけ多くの感動を体感し、持ち帰ってもらうかで、その観光地の評価が上がっていく。そしてそれに比例してマネーが動くのである。

ネットの情報は頼れるのか?

現在スマホで調べた情報で、観光地を巡るという行動は一般的だ。では、その時顧客はどう行動するか考えてみよう。

おすすめ10選だとか、TOP5など、ユーザー目線で観光地の目玉を羅列してくれているサイトは多くある。初めていくところの概要を知るにはとても便利なコンテンツだ。しかし、ある程度詳しいリピーター客の立場で、改めてこのおすすめスポットを冷静に眺め直すと、不自然な点に気付く。途中寄り道したらもっと楽しめるスポットがあるのに!自然を満喫するなら、ここも寄って行ったほうがいいのでは?史跡を巡りたいのならここも!など,,,

情報サイトのジレンマ

前述のサイトは、ビジネスモデルの都合上、PV数(いかに多くの人がページを見たか)で広告費を稼いでいるため、より多くの人の目に触れるよう、観光情報が総花的で八方美人だ。詳細情報は、みる顧客が絞られてくるため、掲載量を増やすと、情報過多による弊害で、分かり易さが低下するので、積極的に情報が増やせない。そのため、顧客は情報を深掘りしようと思うと、個人のブログやSNSを頼って探し出す必要があり難解になる。いきたい場所がすぐに見つからないというのは、時間のある旅前ならば耐えられるが、いざ旅中で探そうと思うと苦痛であり、興醒めする。

リピーターこそ、サスティナブルな運営の要

集客のために膨大な広告費をかけ続けるスパイラルから脱する手段は何か?私は、リピーターを作りと、ファン拡大による地道な関係式構築が、サスティナブルな運営の要だと感じている。観光事業者の方からすると「そんなことは分かっている」そう感じると思う。なので、あえて言い方を変えてみるが、リピーターを増やすための地元情報の発信のために、充分な施策は行えていますか?恐らく、集客のための広告に多くの予算を投じざるを得ず、地元の魅力磨きのためにお金を使うことがなかなかできないのではないだろうか。二律背反ではあるが、旅中での体験をより良いものにする施策に、もっと傾倒できる基盤がなければ、いつまでも、広告による集客に頼らざるを得なくなる。

一度、真剣に地元の魅力を発信することに全力になってみよう

リピーターと持続的な運営環境を築いていく、このことを優先に考えるのであれば、一度、広告より先に、地元の魅力発信をどうしていくべきかを優先して考えてみてはどうだろうか?広告には集客効果があるが、それ以上の効果は期待できない。ならば、ファンを増やす目的で、地元の魅力の伝え方、地元を好きになってもらう方法を考える。ファンはまた来たいと思ってくれるので、広告に頼らずリピートしてくれれる。あとは何年、どの頻度で継続してリピートしてくれるかで、サスティナブルに経済が回転する。

ファンは地元住民へ

本当に好きになってもらったのならIターンしてもらっても良い。私の両親は大阪出身だが、東京で働き始め、伊豆へ移住した人間だ。30年近く前、当時はやはり地元意識が強く排他的で、非常に馴染みにくかったと聞いている。しかし、少子高齢化の影響で、昨今はUIターン招致活動を積極に行うなど、今ではとてもウェルカムな雰囲気が漂っていて、とても風通しが良い印象を受ける。コロナウイルスの影響で郊外移住希望者も増えるだろう。外から移住が入ってくれば、地元にもっとイノベーションが起こるはずだし、これからの地方のダイバーシティ化がますます楽しいものになると期待してやまない。

そうなることを祈って、私は地元の魅力を、多くの人に簡単に伝える手段を開発することに決めた。その事については次回お話ししたいと思う。

<第2回はここまで>

結論的になるが、現在の取り組みを下記URLにクラウドファンディングのプロジェクトとして掲載しています。是非チェックしていただけると幸いです。長文購読どうもありがとうございました!

前回のnote : 第1回「きっかけ」

次回:第3回は6月下旬公開予定で執筆中。週に1回のペースを目指し進めてまいります!

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