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高井戸「矢吹」「慶珈琲」「美しの湯」

高井戸に自転車で行ってきた。

なんとなく最近はどこに行きたいということもなくて、行きたいところがあっても、また漫画喫茶の硬い床で寝泊りか…なんて思うと都心部でダラダラしていたい気持ちだった。

だかと言っていつもと代わり映えしない風景を眺めているのも嫌で、特に三連休なんていうのは家にいるだけで、どこか勿体ない気持ちになってしまうものだった。

その結果、自転車でも行くことができる距離感で、尚且つ気分転換できそうなスーパー銭湯があることが判明した高井戸に行ってみることにした。

最初に行ったのは「矢吹」という天ぷら屋だった。老舗の天ぷら屋で昼は特製天丼が1950円で食べられるようだ。

夜のコースは高そうだったがランチに2000円ぐらいだったら出せると思って店に行ってみた。

人気店なのかと思ったがピークを過ぎた13時頃だったせいか、先客は地元客と思われる親子だけだった。

照明暗めの厳格な雰囲気で今どきとは言いづらいが、その中でX(旧Twitter)やインスタグラムのQRコードが貼られているのが、どこか不釣り合いに感じた。SNSに精通した息子でもいるのだろうか?

大将はかなり気さくな方で、厳格な雰囲気とは裏腹に腰の低い接客だ。私のような一見でも居心地がよかった。

注文した特製天丼は蓋から天ぷらがはみ出したビジュアルが印象的な逸品だ。

蓋を開けて食べてみると、天ぷらとはこんなに美味しい食べ物だったのかと驚かされた。

甘いタレの配分も絶妙。エビ、かぼちゃ、かき揚げ、どれを食べても美味しかった。

エビの入った味噌汁も非常に美味で口直しに最適だった。

大ボリュームだったが胃袋の小さくなった私でも完食できた。

大将は客のお願いで親子と写真を一緒に撮っていた。なんともアットホームな店だった。

店を出ると「慶珈琲(ヨシコーヒー)」に向かった。

こちらは表参道にあった「大坊珈琲店」で働かれていた方の店だそうだ。

「大坊珈琲店」は当時は有名な店で、私も10年ほど前に一度だけ行ったことがあるが、その頃は20代前半だったので店内の厳かな雰囲気に飲み込まれ、味もよく覚えていなかった。

ただ美味しかったという記憶だけはあった。

この「慶珈琲」はマンションの1階のテナントの1つであり、目立った看板もないので地図を頼りに行ったにもかかわらず最初は通り過ぎてしまった。

店を見つけて入った途端にすごい緊張感だ。

客は一言も喋らずにコーヒーを啜っており、昼間でも照明暗めの店内はどこか異世界のように思えた。

カウンター席に通されてグァテマラ(800円)を注文した。

マスターがお湯を注ぐだけでも緊張感が走り、読書しようと持ってきていた小説のページを捲ることすら躊躇われた。

スマホを見るのはあまりにも不釣り合いな気がして、なんとなく鞄にしまってしまった。

提供されたコーヒーは苦くも甘く、飲みやすく、味わって飲もうと思っても飲んだ瞬間に次の一口が飲みたくなってすぐにカップに手をつけてしまった。

あまりにも格別な一杯。職場で飲んでいるスティック状のインスタントコーヒーは茶色い水だったのではないかと思わせるような、そんな素晴らしいコーヒーだった。

2人以上で来ている人もいたが友人と談笑をするような場所ではなく、コーヒーと対峙する場所な気がした。

充実した時間ではあったが私のような貧乏中年には分不相応な場所の気もをした。

ただし私は厚顔無恥なので、また行こうと思った。

店を出ると目的のスーパー銭湯「美しの湯」に向かった。

駐輪場も完備でありがたい限りだ。券売機で入場券を買うと脱衣所に入った。

都心部のスーパー銭湯なんて公衆浴場に毛が生えたような狭い場所なのではないかと疑っていたが、想像以上に広く、何より天然温泉なのに驚かされた。

内湯はジェットバスやリラックスバスも完備、しかし何よりすごいのが露天スペースで岩風呂は「上の湯」と「下の湯」に分けられており、日替わりのシルキーバスもあって風情があった。

サウナは遠赤外線サウナと縄文窯風呂(低温サウナ)の2種類だ。

遠赤外線サウナはテレビを見ながらダラダラできる丁度良い温度設定だが、3段目まで上ればしっかりと蒸される感覚があった。

水風呂は18度だったが冬のせいか実際の温度よりも低く感じた。

最初は外のベンチで整っていたのだが、陽が落ちるに従って強烈な寒さが襲ってきて、後半は内湯のベンチで整った。

縄文窯風呂は隠れ家的なシチュエーションもワクワクさせられたが、想像以上に居心地が良くて、中に15分ぐらい入って外の風を浴びるだけでも気持ちよかった。

そして手元にスマホのない場所だと色々と人生について考えてしまった。

特に困ったことのない生活なのだが、最近は1人での生活が楽しくて休みの日に人間と会う気がすっかりしなくなってしまった。

ただし、このまま誰の協力も得ずに独り者として生きていくのは難しいだろうなぁと思って、数少ない友達を大切にしなくてはいけないなという気持ちと、誰とも会いたくないという気持ちが矛盾してあった。

だから無理をしてでも定期的に人に会い続けようか、それとも無理をしてまで人間に会うことはなくて、今やりたいことをやり続けるうちに勝手に時間が解決してくれるような気もして、特に向き合わなくても良い問題な気もした。

こんな無益で結果の出ない考え事にも、きっと考える過程に意味があるのではないか、などと思った。

家に帰ればアニメ鑑賞と仕事に追われて自分のことを思い返すような機会もないので、週に1回ぐらいは銭湯で自分自身に思いを馳せてみるのも良いことだなと思った。

とにかく居心地の良い場所で長い時間ダラダラしてしまった。

地下の食堂ではカツカレーなども提供しているようで美味しそうだったが、腹が減っていなかったので家に帰ることにした。

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