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【GENT'S STYLE】モノへの愛情を巡るエッセー「数寄者」連載第一回 前口上 by 沼尻賢治

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 モノを買い、所有するとはどんなことか。
 なぜ、モノが必要なのか。
 モノがある人生は豊かなのか。

 モノを愛するすべての人々へ
『ハリスツイードとアランセーター』の仕掛け人、編集者にして、モノ好きが高じて、オーダーメイドの帽子屋『ザ・マッドハッター・ニセコ』を設立した沼尻賢治氏によるモノへの愛情を巡るエッセー『数寄者(すきもの)』、始まります。

『数寄者(すきもの)』前口上 by 沼尻賢治
 
 最近、身の回りのさまざまな持ち物が20年、あるいはそれ以上経過していることに気づいた。「物持ちが良い」と言えば、それまでだが、別の理由がある。


 20年という時間、本人にとってはつい先日のことだが、実際はそれ相応の時間が経過している。たとえば、僕がクルマに熱を上げていた80年代。憧れの対象は60年代の英国車だった。同じく、エレキギターなら60年代のフェンダーだった。当時、就職したばかりの若造には、すでにどちらも容易に手が届く代物ではなかったが、80年代から望洋する「20年前のモノ」の魅力は良く覚えている。20年という時間は、一定の人にとっては、モノの価値を変換するには十分な時間である。

 僕にはマニアとか、Geekを自称できるコレクションの様なモノは無い。だが、それなりにモノ好きである。そのモノを好きになるには理由がある。この理由は僕の価値観、あるいは僕という人間に由来している。時にモノは僕自身に等しい。だから、世界的な革ジャンGeekに「僕たちは変態ですから」と仲間扱いされた時は嬉しかった。某人気スタイリストに「本当によく服買うよね」と呆れられた時は「良し!」と心の中でガッツポーズをとった。あるスキーバムと冬の北海道を巡っていた際、滑るのに良さそうな斜面を見つける度に歓声を上げていたら「沼さんも相当好きだよねぇ」と言われた時も嬉しかった。あるジャンルのスペシャルな馬鹿に馬鹿を認められることは、とても光栄なことである。

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