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あたいの自己紹介 #1 ずる賢く幸せになる

はじめに

どうも。あたいもちぎ。

少し珍しい経歴を持つゲイ。

ずる賢く幸せになる 元ゲイ風俗ボーイの人たらし哲学 (3)

2018年10月頃から、Twitterで自分の経歴を赤裸々に明かしたアカウントを作り、ゲイ風俗やゲイバーで働いていた経験を基にした発信をしています。いわゆるインフルエンサーってやつです。漫画やブログがメインの活動内容ですが、コラムや対談などもしています。

そしたら活動を始めて二ケ月で数々の出版社様から声がかかり、なんやかんやあってエッセイやコミックスを数冊出版していただきました。昨今のエッセイブームや、LGBTムーブメントの機運に乗じることができたラッキーゲイなんですわ。おかげさまで様々なメディアや媒体でゲイ作家として活動させてもらってます。

だけどあたいという人間自体は、こうも注目されるまでは今までの人生のほとんどを狭いゲイ業界ばかりで生きてきました。

関わる人ほとんどがゲイ、もしくはゲイの世界に興味がある人たちだった。

平成も終わる頃、ようやくインターネットを利用した発信をし始めたことで、ゲイバーやゲイ風俗で出会えない人たちと交流し、たくさんの方々を相手にした活動を続けることができるようになったのです。こうした書籍という形でさまざまな境遇の読者諸賢に語りかけることができたのも、とっても光栄に思っています。現代に生まれてよかった〜。

さて、今まで上梓してきたエッセイや小説とは違ったジャンルの書籍となるので少々意気込んでいるけれど、書くことはすべて以前から後輩や同僚とともに考え抜き、業界を生き抜くために研鑽してきた処世術の数々です。

なので日記のように、覚書のように綴っていこうと思います。

とにかくまずは、一緒に本を作ろうと声をかけてくださった幻冬舎の皆様、めちゃくちゃあたいをサポートしてくれている担当さん、そして関係者の方々に感謝致します。

本題に入る前に、前提としてゲイバーはともかく、ゲイ風俗なんてニッチなお店には来店されたことがない人がほとんど──ていうか存在を知らない人が大多数だと思うの。

そもそもこの本はゲイ以外の人がたくさん読んでいるだろうし、しかもゲイ当事者でもみんなが風俗業界に慣れ親しんでいるわけでもないから。誰にとってもゲイ風俗はほとんど想像のつかないものだろう。そんな業界歴を持つあたいが、いきなり何かを経験則から語っても実感が湧きづらいかと思う。

だからまず軽く説明させてもらうわね。

ゲイ風俗は一般的な風俗で言うデリバリーヘルスのようなもの。

この業界のことをゲイの人たちは昔からウリセンという俗称で呼んでいるけれど、最近は出張ホストと言い換えて経営しているところもあるわ。ただしどの店でも女性の利用は禁止されてる。

若者をメインに雇っている店では18歳から30歳くらいまでの男の子が在籍しているわ。見た目はイケメンや男前に可愛い系、素朴系や筋肉質までさまざまよ。だけど普通な感じの子も意外とたくさん働いてる。べつに芸能人のような美貌の持ち主だけが採用されるわけじゃないの。

また、ゲイ以外にもノンケ(異性愛者)やバイセクシャルの男の子も働いているわ。

お客様も富裕層だけってわけじゃなく大半が普通のサラリーマンだったように、従業員も色んな子がいたけどほとんどが一般的な男の子。ゲイ風俗は特殊だけど、価格帯も性産業としては安くて落ち着いてるせいか、なにも浮世離れした人間だけがいるわけではないのだ。

ゲイ風俗の従業員はボーイと呼ばれる。

その多くは効率の良いバイトをするために入店し、日銭を稼ぐ若者だった。

昼職や学生をしている子ももちろんいたが、大抵の子が就活までの食いつなぎや、夢のための貯金を作ることが目的なので長期的に在籍する人間はそこまで多くはない。

仕事内容の方は風俗らしい短時間のプレイだけにとどまらず、デートや旅行にお泊まり、そして各自で部屋の清掃までこなす。性的な体力や気力もだけど、気配りできる要領の良さも求められたわ。

そして人気商売ゆえのボーイたちによる熾烈な争いももちろん存在した。だけど基本的にはサークルや部活仲間のような和気藹々とした雰囲気が店内にはあったので、おかげであたいは約5年間在籍してめげずに仕事に精を出せたのだ。

風俗に馴染みのない方からすれば、風俗という仕事は自由度が高く、特殊な技能やスキルが不必要な肉体労働に思えるかもしれない。だけど実際あたいが働いてみるとそれは少し誤解されているんだと気づいた。

まず、仕事をこなしていく中で、歳上(特に団塊世代から上)の男性への接待術と、社会人として身につけるべき営業的なイロハがたくさん学べた。また、お客様に連れられて料亭だとか高級レストランやホテルを若いうちに利用できたことは経験としても貴重だった。マナーやしきたりを身をもって学べたのだ。

ゲイ風俗は料金が安く、お客様の数も少ない世界なので、いかにいろんなお客様に自分にゾッコンになってもらえるかが肝要なのだった。ここで学んだスキルや接待術こそが稼ぎ続けるための必須要素で、どちらかと言えば頭脳労働も多かったと感じる(あたいもお客様との会話メモや情報を手帳何冊分も書き残したもんだった)。

それに、店の裏側でもいろんな背景を抱えた子たちとの交流や繋がりで人間を深く知ることもあり、学校よりも貴重な出会いが多かったように感じる。そしてお客様のご厚意も大きく、ここでできたコネクションから店を出した子も何人かいたのを知っている。

ただのサービス業とは違った経験と未来を得られることがこの世界にはあった。

未成年で世の中をまだまだ知らないあたい含め若人たちが、普段関わることのない様々な大人と交流することによって、ちょっぴり大人の世界の酸いも甘いも知ることとなる。平たく言えば社会経験ってやつが意外と手に入ったのだ。

もちろんこれはお客様との巡り合わせも関係するので、みんながみんなとは言わないけれど。でも少なくとも、無為に時間を消費しようとせず先行きを見越したボーイほど、お金だけじゃないものを得てから退店するように見えた。貴重な10代20代の期間を、職歴に残せない空白の期間だけに終わらせないように画策していたようだった。

そしてそんな一風変わった業界で、たくさんの大人から有益なモノを学び続けた肝心のあたい自身は、なんの才能にも恵まれなかったただの平凡な人間なの。

見た目だって普段はゲイだと気づかれることもない純朴な男。あと有名なおねぇタレントのように女装だとかもしてないの。テレビにパーカー姿で出演するようなピュアなメンズ。ちょっぴりすけべなだけの一般男性。趣味で始めたSNS発信が作家活動に繋がっただけで、恥ずかしながら博学でもセンス豊富なカリスマでもない。誇ることでもないけれど。

それでもゲイってだけでなんだか特別に思えるわよね。世間でも芸術やファッション、お笑いや文芸などに秀でたマイノリティの方々が世間を賑わせているじゃない。だからなんとなく「ゲイの人っておしゃれで博識で、コメントとか秀逸〜」って思ってる人も多いかもしれない。

でもあれは《努力してきた特別な人だから凄い》ってだけの話で、ゲイが凄いわけでも、凄いからゲイってわけでもないのだ。

自己紹介も含めて業界をさらっと語ったけれど、とにかく言えることはあたいが普通のゲイ男性だってこと。

年齢だってまだアラサー。これを書いている今はもうゲイバーも辞めちゃって、しかも2度目の学生生活を始めちゃってるからね。まだまだ学ぶ身なのよ。

だからもし「なんかすごいオカマの人が人生観とかを説く本なのかな」「オカマさんの説教や毒が聞きたい」と期待してくれているのならゴメンなさいね。

この本の趣旨は教え導くものではなく、一人の人間が考え抜いて、生き抜いてきたことだけを綴るもの。読者のみんなと共に考えながら少し背中を押すことくらいしかできない。

その分、みんなと同じようなスタート地点から、一般的な視点や感性で特殊な世界を垣間見て、たくさんの優れた人物たちから色んなことを学ばせてもらったあたいが書き記すことは、これから何かに挑み続ける人たちにとって役に立つものになるのかもしれない。

いわゆる普通の人間が、どんな特殊な世界でも戦える術の一つになるようなものに。

なぜならあたいがゲイの世界で生き抜いてこられたのも、人間を見て、真似て、習い、跡を辿ってきたから。

《自分も上手く生きたい》そう願う人たちへの、ノウハウやテクニック習得の一助として執筆していきます。

さ、あたいの思いや所信表明はここまでにしといて。

じゃあもう少しだけ、あたいの経験則を語る前に、酒池肉林のゲイバーや、フェティッシュなゲイ風俗の実態だけじゃなく、あたいなりの分析も含めた《業界の在り方》を説明していくわね。なぜあの場所にプロが集まるか──そしてプロフェッショナルがなぜ育つのか、それをお伝えするために説得力のある解説だけ済ませておくわ。

◇ 次回は明日19日(土)公開予定です! ◇

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もちぎ『ずる賢く幸せになる』

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