僕に「宇宙の真実」を教えてくれたマリファナ体験
神の草・大麻で宇宙空間を体験、インドのビーチでLSDを一服、キノコの精霊と会話を交わす……。ノンフィクション作家、長吉秀夫さんの『不思議旅行案内 マリファナ・ミステリー・ツアー』は、自身の神秘体験を赤裸々につづったトリップ・エッセイ。ドラッグのみならず、音楽、舞踊、錬金術など、あらゆる神秘の核心に迫っています。知的好奇心が思わずうずく、本書の一部を抜粋してお届けします。
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酒やタバコとはまったく違う
僕は、十七歳の時、初めて大麻を吸った。今から二十年も前のことだ。その頃は、興味半分で、ただ気持ちがハイになるということで試していた。しかし、本当に知ったのは十九歳の時だったと思う。
ある先輩と再会したのがきっかけだ。その先輩は、僕よりもかなり年上の人で、その昔は地元では有名な不良だった。彼が同級生の兄貴だったこともあって、小学校の頃からの知り合いではあったが、僕にとっては、彼は近寄り難い存在だった。しかし、久しぶりに再会した彼は、以前の印象とはまったく違い、穏やかで思いやりのある人になっていた。
ある日、彼は大きな紙袋をもって現われた。その中には、ぎっしりと大麻が入っていたのだ。
「好きなだけ吸っていいよ」
彼の差し出すパイプには、かなりの量の大麻が詰め込まれている。
僕は、心おきなく吸った。咳き込みながらも吸い続けた。そして彼の言う通りに、床にあぐらをかいて座り、背筋をシャンと伸ばし、目を閉じて心を落ち着かせた。
彼は僕に問いかける。
「今、君はどんなイメージの中にいる?」
僕は、宇宙空間に浮かんでいた。あぐらをかいたまま、漆黒の空間に浮かんでいる。そして、僕の頭のてっぺんと尾骨のあたりから、ものすごい勢いで光が噴き出している。そのことを彼に説明すると、彼は頷きながら言った。
「それは、とてもいい。とてもいいイメージだ」
その時、僕は感じた。大麻は今まで経験してきた、酒やタバコやシンナーなどとはまったく違うものだと。そして、人間の根本にある宇宙感、宗教感のようなものが、そこには存在するのだということが、おぼろげながらわかったような気がした。
麻は人類にとって有益な植物
今振り返ると、その時から、僕の旅は始まったように思う。インドやアメリカや、海外に出かけるようになったのも、そこでやるなら違法行為にならないからだった。
その後、僕は、他の幻覚性植物にものめり込んだ。使い方もわからずに、ペヨーテやダチュラの実を食べて、救急車で病院へ運び込まれ、周囲の人間に迷惑をかけたこともあった。しかし、僕はあの時大麻と出会って本当によかったと、今でも思っている。
大麻を吸うと、本当のことを見極めることができる。掛け値なしで、宇宙の真実を教えてくれるのだ。初めは、こんなことをわかったのは僕だけだと思い、有頂天になっていた。しかし、レゲエやラスタの存在や、日本の神道のことや、インドのヒンドゥ教のことなどを知るたびに、僕はびっくりした。
僕だけじゃないんだ。
昔から、皆が知っていたことなのだ。
しかし、不思議だった。なぜ秘密にしているのだろう。時代や文化がまったく違うのに、なぜ密教的な扱いをする部分だけは共通しているのだろう。
その後、僕はメディテーションするようになった。すると、例えば大麻というきっかけがなくても、宇宙と一体化できるようになった。ナチュラル・ハイだ。大麻もLSDもマッシュルームも、その他の何も必要ではない。途切れることのない滑らかな意識と、自分の肉体がここにあればいい。
肉体を爪先から頭のてっぺんまで無意識のレヴェルでコントロールし、宇宙空間に浮かぶことができる。
僕はここにいながらにして、浮かび上がり、浮かび上がりながらも強烈に自分の肉体の輪郭と芯を感じることができる。それが、僕が今のところ到達した神秘を受け入れるひとつの形である。最善の方法なのかどうかはわからないが、いろいろな経験を経た結果、僕が選択した神秘との対話の方法なのだ。
ご存じのように、日本では大麻取締法により、大麻の栽培や吸引は違法である。大麻の吸引が、覚醒剤やヘロインなどのハードドラッグへのきっかけになるという指摘があるのも確かだ。
しかし、今や大麻は、アメリカ合衆国のいくつかの州や欧州の国々などでは、治療用や嗜好品として合法化されているところもある。
麻は、人類にとって有益な植物なのである。
殺されたジャマイカのラスタ・マン、かつてボブ・マーリィといっしょにウェイラーズに在籍していたピーター・トッシュは「解禁せよ!」と歌った。
偉い男だな、と思う。あんなに堂々と、そんなことを歌うとは。
僕も、ささやかなメッセージをもう一度述べさせてもらおうと思う。僕は、大麻の解禁を願っている。