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アドラー心理学に見る「あがり症」の本当の原因とは?

大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者として名を馳せた、アドラー心理学の第一人者、岸見一郎さん。そんな岸見さんの幸福論の決定版が、著書『成功ではなく、幸福について語ろう』です。アドラー心理学をベースに、仕事、恋愛、子育て、介護など、あらゆる悩みに答えた本書は、「人生相談」形式になっており読みやすさも抜群。そのうちのいくつかを抜粋してご紹介します。

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相談「子どもの頃からあがり症で、人前でのスピーチや会議での発言など、本番で力が発揮できません」

仕事は好きで、やりがいも感じているのですが、会議などで発言するのがとても苦手で、それまで考えていたことが飛んでしまったり、頭が真っ白になってしまうことが多々あります。仕事の場以外でも、結婚式など人前で挨拶することもとても苦手です。

思い返すと、子どもの頃から本番に弱いタイプでした。

ただ歳を重ねるにつれ、このままではいけないのではないかと思うようになり、また人前でも緊張しないで話す同僚などを見ていると、なぜ自分はあんなふうに自然にできないのかとコンプレックスがつのります

どうやったら人前に立っても、普段と同じ力を発揮できるようになるのでしょうか。

(会社員・30歳・男性)

お答えします

緊張するのは悪いことではありません。でも、あなたの緊張には別の目的があるのです

あなたの緊張には、実は別の目的があるのです。

人前で話す時に、まったく緊張しない人はいないでしょう。

緊張することには目的があります。もしも緊張していなかったらうまく話せたのにといいたいのです。うまく話せなければ、そのことを緊張のせいにできるということです。

しかし、緊張しなくても、うまく話せなかったかもしれないのです。

他の人と比べているところも気になります。

緊張しないで話しているように見える同僚がいても、その人は緊張していないように見えるだけかもしれません。

緊張しないために普段から練習をしているかもしれないのです。原稿を書き、読み上げ、録音して後から聴き直すというようなことです。

どうして自分はあんなふうに緊張しないで自然に話せないのだろうかと上手に話せる人と自分を比べ、到底あんなふうに話せないと思えば、練習をしようとはしないでしょう。練習をしないために、無理だと思うともいえます

子どもの頃から本番に弱いタイプだったといってみても、本番ではない普段は力を発揮できるといってみても、他の人にはわかりません。他の人があなたの話を聞くのは本番でだけなのです。普段なら、本番でなければ緊張しないで話せたのにというのは可能性の中に生きることです。もしも本番でなければ緊張しないでうまく話せるというだけなら誰でもできます。

もしも本当に本番でなければうまく話せるのなら、本番でも本番でないと考えて話せばいいのです。

上手に話そうとするのをやめてみる

本番と普段との違いを考えたらどうすればいいかわかります。本番では上手に話し、よく思われたいのです。しかし、そんなことは思わなくていいのです。

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大切なことは上手に話すことではなく、正しく話すことだからです。人をうっとりさせるような名スピーチをしようと思っても意味がありません。

会議はスピーチコンテストではありません。結婚式でのスピーチは結婚する二人を祝福するためにするのであって、あなたが上手な話し手であることを披露宴に参加した人に印象づけるためにするのではないはずです。

私は講演の初めに「今日は緊張しています」とか「最初はうまく話せません」ということがあります。こういうことをいえば、上手に話さなければと思わなくてすみます。

さらに、話を聞いている人を信頼していないことも問題です。あなたはうまく話せない人を見ると嘲笑するでしょうか。しないでしょう。それなら、他の人もあなたが上手に話せないからといって嘲笑するはずはありません。

緊張することはそうそう悪いことではありません。緊張は常よりも力を発揮させます。若い頃、学生オーケストラに入っていたことがありました。ゲネプロといって、本番と同じように演奏するリハーサルをします。その時はさほど緊張していませんが、ゲネプロの時ではなく、緊張する本番の時のほうが明らかに実力を発揮できました。

もっとも練習の時に一度もできなかったところを本番だけ演奏できたことはなかったのですが、ミスをしないことがいい演奏ではありません。人前で話す時も同じです。緊張していても、自然ではなくぎこちなくてもいいのです。

本番で発揮する力というのは、上手に話すことではなく、的確に正しく話すことだからです。

著者の岸見一郎さんの「note」はこちらから