岸見一郎

哲学者(ギリシア哲学、アドラー心理学)。趣味は写真撮影(GR3)。仕事に疲れると、カメ…

岸見一郎

哲学者(ギリシア哲学、アドラー心理学)。趣味は写真撮影(GR3)。仕事に疲れると、カメラを持って出かけます。『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健と共著)の他、著書多数。

最近の記事

「よねさんはそのままイヤな感じでいいから」

2024年4月20日  先の日記に、 「もしもわれわれが彼の自尊心を増せば、勇気は自ずとやってくるだろう」(『子どものライフスタイル』) というアドラーの言葉を引用したが、子どもは課題に取り組まないためにあえて自分には価値がないと思おうとして自尊心を増すことは簡単ではない。あなたってイヤな人ねと、実際には面と向かっていわれることはないかもしれないが、人からそういわれたら落ち込むだろう。でも、やはりそうなのだと、そのようにいわれたことに納得し、自分についての評価を低くする根拠に

    • 偶然の出会いを必然にする

      2024年4月15日  週末は桜を求めて遠出した。歩けない距離ではないのだが。締切の原稿が山ほどあるのにカメラを持って歩いている場合かとふと思う。『悩める時の百冊百話』でもこんなことを書いた。 「ふと合理的に考え、計算してしまうと、こんなことをしていていいのかと思ってしまうと、生きる喜びは失せてしまう」 『悩める時の百冊百話』をめぐってインタビューに答えた番組の完全版はこちら。 本の読み方は人によって違うが、私の場合は今は知識や情報を求めてではなく、人生について考える時に

      • 子どもを叱るとどうなるか

        2024年4月12日  孫たちが幼稚園、小学校に通い始めた。小学校では初日に何やら悪さをしていた子どもたちが教室から追い出されたと聞いた。今もそんなことをする教師がいることに驚く。私が悪かったと泣く泣く許しを求めるような、教室から追い出されたら廊下に佇んでいる従順な子どもばかりではないだろうに。罰や脅しを使わないで子どもと接してほしい。  叱られたらどうなるか。いつも引いている言葉だが、アドラーは次のようにいっている。 「自分に価値があると思える時にだけ、勇気を持てる」(Ad

        • 親の絶望は子どもの勇気をくじく

          2024年4月8日  週末は好天に恵まれたが、今日は生憎の雨で肌寒く感じる。明日は小学校の入学式だが天気はどうなるか。喜ばしい門出だが、子どもも親もこれから起きることを予想することは難しい。順風満帆だと思っていた子どもの人生の行く手を遮るような出来事に遭遇することがある。その困難な解決するのは子ども自身だが、親に何ができるか、あるいはできないかを書いてきた。  アドラーが次のようにいっている。 「母親が自分のことで絶望していると感じれば、子どもは大いに勇気をくじかれる」(『子

        「よねさんはそのままイヤな感じでいいから」

          問題について語らない

          2024年4月6日  子どもが自分の課題を解決する援助をしてはいけないわけはないし、むしろしなければならないが、その前にしなければならないことがあることを親に理解してもらうのが容易でないことはあった。その一つが問題を問題にしないことである。  アドラーが子どものことでカウンセリングにやってきた親に次のようにいっている。 「今は勇気づけるしかない。彼の問題について語ることは勇気づけにならない」(『個人心理学の技術II』)  正確にいえば問題ではなく、親が問題だと思っていることだ

          問題について語らない

          この世界は私の世界だ

          2024年4月5日  今日は日経トップリーダーの原稿を書いていた。半年という約束で始めた連載が次号で75回目になる。  アドラーは、「常に共同体と結びついていたいと思うこと」(『性格の心理学』)、「所属感」(a feeling of belonging)について論じている。次号のエッセイでは、共同体の中に所属していると感じられるためには、共同体(家庭、学校、職場など)における自分の役割を見出し、それを果たさなければならないと書いた。  役割を果たすといっても、何かの行為によ

          この世界は私の世界だ

          人生の課題に向き合う準備

          2024年3月30日  28日はNHK文化センターの講義の最終回。これで毎月一回四年続けたことになる。講義をもとに二冊本を出した。  アドラーが次のようにいっている。 「勇気があり、自信があり、リラックスしている人だけが、例外なく対人関係の問題である人生のあらゆる問題に対して準備ができている」(『個人心理学講義』)  ここでアドラーが、「例外なく対人関係の問題である人生のあらゆる問題」といっていることには注意が必要である。アドラーは、この人生でわれわれが直面する問題はすべて対

          人生の課題に向き合う準備

          私的でない共同の劣等感

          2024年3月28日  先週は孫たちの父親がインフルエンザに罹患、孫たちを夜も預かることになった。二人で寝てくれるのだが、親から離れて眠る日が続くと夜中に起きて泣くこともあった。無事、また元の生活に戻れた今、無事に過ごせることがいかにありがたいことかがわかる。  一度、孫が講義中に部屋に入ってきた。大きな声を出すかもしれないと一瞬身構えてしまったが、その日使っていた鉛筆を返しにきたのだった。彼はそっと入ってきて画面をちらっと見て、声に出さないで「ありがとう」といって、またすぐ

          私的でない共同の劣等感

          代わりのない本

          2024年3月18日 『悩める時の百冊百話』で引用した本には古いものもあって今では手に入らないものもある。手に入らない翻訳は別のものに差し替えてもいいかと編集者に問われが断った。翻訳書ならどれでもいいと思われたのだろうが、翻訳書は誰が訳したかは重要である。新しい翻訳が必ずいいとは限らない。好みは多分に主観的だが、『カラマーゾフの兄弟』であれば原卓也訳がいいというようなこだわりがある。高校生の時に初めて手にしたのが原卓也訳であり、母の病床で母に読み聞かせたのもこの翻訳だったから

          代わりのない本

          読書が「経験」になる

          2024年3月16日  木曜日、三歳の孫が一人で泊まりにやってきた。一人で過ごしても平気なようだ。笑い始めると止まらない。生きていることが楽しくて仕方ないように見える。  私の息子も子どもの頃よく笑った。 「君は人から嫌われることがそんなに怖いか」  いつかこんなことをいっていたことをふと思い出した。大学生の時だったと思う。私のどんなところを見てこんなことをいったのかは思い出せない。この話を原稿に書くのであれば、その後に「ふっふ」とか「ふふっ」と付け加えるかもしれない。  椎

          読書が「経験」になる

          喜びは人と人を結びつける

          2024年3月13日 「僕の若い日の熱情は、学問と音楽と、そして、美しい人と一緒にいて話をしたり信頼し合うことだった」(森有正『バビロンの流れのほとりにて』)  この熱情はもちろん若い日だけでなく、歳を重ねてからも持ちたいし、実際持つことができる。 「灰色の陰鬱な日々に耐えることが出来なくてはならない。というのは、価値ある事が発酵し、結晶するのは、こういう単調な時間を忍耐強く辛抱することを通してなのだから」(森有正『砂漠に向かって』)  森有正のこの言葉は何度も引いているが、

          喜びは人と人を結びつける

          「なんにもどうでもかまわない」

          2024年3月11日  時折雪が舞う日があったり、暖かい日があったりして身体がついていかない気がする。 池田晶子が藤澤令夫の追悼文の中で、 「学問と人格とが、その覚悟において完全に合致した氏の姿は、本当に美しかった」(「哲学者 藤澤令夫さんを悼む 善く生きる」覚悟の美しさ」) と書いていることを紹介したが(3月5日日記)森有正が次のようにいっていることを思い出した。 「僕の若い日の熱情は、学問と音楽と、そして、美しい人と一緒にいて話をしたり信頼し合うことだった」(『バビロンの

          「なんにもどうでもかまわない」

          「哲学の名のもとに闘う」

          2024年3月6日  昨日、『悩める時の百冊百話』が届いた。これはじいじなのかと孫にたずねられた。今はこんなふうにカウンセリングをしていない。孫娘とは時々書斎で話すことはあるが。  池田晶子は「哲学者 藤澤令夫さんを悼む 「善く生きる」覚悟の美しさ」の中で、プラトンを読まない人にも届く、正しい言葉を語りなさいとずっと藤澤令夫に励まされたと書いている。私もそんなふうでありたいと思って生きてきた。 「正統的アカデミズムから、およそ縁遠い場所にいる」池田が『帰ってきたソクラテス』

          「哲学の名のもとに闘う」

          美しい人

          2024年3月5日  孫たちはすっかり元気になって、毎日きてくれる。オセロはもう勝てなくなった。「考えないで打ってるな」とよくいわれる。  もうすぐ『悩める時の百冊百話』という新しい本が出る。たくさんの本から引用したが、読書案内や書評ではなく、若い頃から読んできた本の中から心に残った言葉を引きながら人生の意味について考察した。取り上げた本は哲学書もあるが、小説やエッセイ、絵本、コミックからも引いた。外国語の本は自分で訳したり、翻訳から引用した。最近読んだ本もあるが、若い頃から

          やりきれない時はノートを書く

          2024年2月18日  その後、喘息発作は出なかったが、風邪を引いたと電話をかけてきたと電話をかけてきた孫がその後コロナ陽性であることが判明した。もう長く会えていない。  今日は講演会。毎月一回、今年は九年目になる。その時々で考えている古都を話したり、アドラー心理学の基礎理論について話したりしている。その後の質疑応答がメインなので短く切り上げようと思うが、話し始めたらいろいろと話したくなる。  今日は課題の分離について。人と人はつながっているというのがアドラーの考えだが、その

          やりきれない時はノートを書く

          書は捨てられないが

          2024年2月13日 『悩める時の百冊百話-人生を救うあのセリフ、この思索』(中公新書ラクレ)は校了。後は待つだけである。ネット書店では予約受付も始まっている。書評ではなく、本の中で出会った言葉から人生について考えたことを綴った。調べたら去年の二月から書き始めている。  昨日は一日中喘息の発作が出るのではないかという予感があった。はたして、夜中に呼吸が苦しくなって目が覚めた。久しぶりにメプチンエアーを使う。薬を切らしていたので近所の内科を受診したが、まさかの休診。そのまま少し

          書は捨てられないが