見出し画像

ミホさんが作ってくれたカレーで思わず号泣…阿佐ヶ谷姉妹の「姉妹愛」

現在、人気急上昇中の女性お笑いコンビ、阿佐ヶ谷姉妹。今年、文庫化された唯一の著書『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』は、異例の発売即重版が決まりました。最近まで、阿佐ヶ谷の小さなアパートでふたり暮らしをしていた二人。そのちょっと不思議で、心が温かくなる生活をつづった本書より、姉のエリコさんのエピソードをご紹介します。

*   *   *

突然、スランプが訪れた

エッセイが書けない時期がありました。

画像1

この本におさめられているエッセイは、ウェブサイトで連載をして、それをまとめたものなのですが、ウェブに上がるたびに、読者の皆さんの反応や感想などいただける事で、それを励みに何とか続けてこられたものでした。しかしながら、どうしても書けない時期がありました

お優しい担当編集さんにも、いろいろアドバイスをいただいたにもかかわらず、どうにも面白いものが書けません。みほさんも、もちろんスイスイ書けている訳ではありません。でも、自分なりのテーマを見つけて、等身大で自分のペースで書き進めています。一方どこか格好つけでそのまま書く事が出来ず、出来高ゼロでイライラだけする私。

「書けてないから、イライラしているんですよ。書いてしまえばいいんですよ」と、みほさんから当たり前の事を直球で言われ、「それが出来るのならとうにやっているんじゃ」と何弁かわからない言葉と共に心の中で舌打ち。もはやみほさんまで敵のような気がしてくる始末です。

みほさんは、エッセイを書くと折にふれ意見を求めてくるタイプ。「ここまで書いたんですけどわかりますかね」「これだと何か足りないですかね~」。2、3回目までは親身になって意見したりもしますが、こちらが全く書けていない時にアドバイスを求められる時程、切なく腹立たしい事はありません。

この人は、こんなに一行も書けていない私に何を聞いてくるのか。そして、人のアドバイスを上手く取り入れて、なに面白いエッセイに仕上げてくれてるのか。腹立たしい。自分が書いていない所為なのですが、悪い方にばかり、気持ちが向かってしまいます。

期限までに仕上げられず、現状も報告出来ぬままに2日が経ち、何とか書かなければと駅前の喫茶店に飛び込みました。荷物を置き、その店でよく頼むイチゴジュースとナポリタンを後先考えずに注文し、店の外に出て大竹マネージャーに電話しました。

大竹マネージャーは叱りも詰問もせず、「今どんな状態ですか?」と、私の書けないでいる理由を一緒に探そうと、優しく話を聞いてくれ、的確な意見やアドバイスをしてくれました。

喫茶店の前をうろうろしながら、時に泣き、時に笑い、雨の中50分近く話した結果、いっその事、今回の件をとにかくめちゃくちゃでもいいから書いてみてはどうですか、と言われました。そして、今の状態では書けないだろうから、とにかく今日はうちに帰って、落ち着いて、と言ってくれました。

泣きながら帰った私に……

喫茶店に戻ったら、冷めたナポリタンと水滴のたくさんついたイチゴジュースがテーブルの上に。好物のはずなのに、まったく食欲がわかなくて、申し訳ないけれど2、3口だけ食べたように形を崩して、喫茶店を後にしました。

画像2

情けない、44年も生きてきて、文章一つもまともに書けず、路上で涙している。こんなおばさんがどこにいるだろう。そんな事を思うとまた泣けてきて、肩も顔も濡れねずみ。久々の大雨の中、いい歳したおばさんの泣きっ面を見られないよう、人気のない道、暗い道を選んで、何とか家まで辿り着きました。

自宅のドアを開けると、すぐにカレーのいい匂いがしました。玄関先でゆるゆると靴を脱いでいると、みほさんに「なに、びしょ濡れじゃない」と言われました。

「ごめんなさい、すごい雨でね、台所でちょっと拭くので」。鼻声ながら、何とか平静を装って答えたら、「カレーは作りましたよ」といつものみほさんの口調。「あと、もし冷めてたら、そこのご飯、食べない分、冷凍庫に入れといて下さい」

見ると確かに、冷凍するためにラップに包んだご飯が、4つほど台の上にありました。まだ食欲もなかったので、4つすべてを冷凍庫に入れようと扉を開けた時。

目に入ってきたのは、バーモントカレーのルー。私の好きなバーモントカレーのルー。辛口派のみほさんが、普段は絶対買わないはずのバーモントカレーのルー。

みほさんが「今日のはこくまろと、バーモントの中辛です。甘口じゃないのよ、中辛だからね」と言ってくれているのを聞いて、嗚咽が止まりませんでした。

きっと、私が凹みまくっているのを察して、私が子供の頃から好きな甘いカレーの銘柄にしてくれたのでしょう。冷凍庫に残っていた、蒸しホタテとオキアミを使ったカレー。お肉は一つも入っていないけれど、コクと旨みと甘みの強いカレーの味。食欲がなかったはずなのに、ゆっくりゆっくりいただいて、ひと皿分を完食しました。

その後も、泣き、鼻をかみ、泣き。みほさんは、そんな私を見て「大人になって、こんな事でこんなに号泣してる人初めて見たわ」とちょっと笑っていました。そんなみほさんに、ありがたいやら、恥ずかしいやらで、何の言葉も返せないまま、寝るともなしにその日は朝を迎えました。

結局、その後も編集の方にご相談したりしながら、何とかかんとかエッセイを書き始めた次第です。恵まれた環境だと思います。ありがたい限りです。

嫌な事、苦手な事から逃げがちな私ですが、冷凍庫の奥に残るバーモントカレーのルーを時折見つけては、「はっ、甘い甘い、もっとがんばらないと!」と思ったりしています。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!