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#2 「理想的な職場」なんてない! 正解より「納得解」を導き出そう

コロナ禍で、ますます新しい働き方が求められるようになった昨今。中でもシビアな立場なのが、もはや若手でもなく、かといって「逃げ切れる世代」でもない30代だろう。リクルートフェロー、杉並区立和田中学校校長などを歴任した藤原和博さんの『35歳の教科書』は、そんな悩める中堅ビジネスパーソンのための「戦略的な人生計画の書」だ。どう働き、どう生きるか? お金と時間をどう使うべきか? 心が奮い立つメッセージをお届けします。

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「正解主義」を乗り越える

成長社会で重視されたのは「正解」を導き出す力でした。IEA(国際教育到達度評価学会)のTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)型学力と言い換えてもいいでしょう。「読み、書き、ソロバン」の速さや正確さ、あるいは「正解」を暗記してテストで再現する能力を評価するもので、「情報処理力」を高めるものです。

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もちろん計算や暗記といった「情報処理力」は基礎として大切なのですが、それだけでは成熟社会に対応できません。新しい時代に求められるのは、「正解」ではなく、「納得解」を導き出す力です。

「納得解」とは、自分が納得でき、かつ関わる他人を納得させられる解です。成熟社会の構成員は「それぞれ一人一人」ですので、万人に共通する唯一の正解なんてありません。誰もが仕事や暮らしの中で試行錯誤しながら、自分自身が納得できる解を求めていくしかないのです。

この傾向は、OECD(経済協力開発機構)が始めたPISA(国際学習到達度調査)型学力に対応しています。PISAではそもそものルールを疑ってみたり、前例を否定的に見ながら問題にアプローチしたりする能力が評価されます。「情報処理力」に対して「情報編集力」と言っていいでしょう。

これからの時代に必要とされるのは「納得解」であり、「情報編集力」なのですが、学校教育で植え付けられた「正解主義」は思ったよりも強力です。なんとかこの呪縛を外さなければ、成熟社会を生き抜いていくことはできません。

実際に社会人になると、「1+2=3」といった明快な正解がある問いなど、ほとんどないことがわかるはずです。日常的に突きつけられる問題の多くには一般解がありませんし、今後そうした問題がますます増えていくことは確実です。

「本当の自分」なんてない

転職を繰り返す若者が増えています。

晩婚化が進んでいます。

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まったく関係のないように思える二つの傾向が、あるキーワードでつながります。それは「本当の自分」

以前、「自分探し」という言葉をよく耳にしました。本当の自分を探して、旅に出たり、仕事を変えてみたりするのです。

それでは、いったい「本当の自分」とは何でしょうか。今ここで現に生きている自分とは別に、どこかに「本当の自分」が隠れているとでも言うのでしょうか。はっきり言いましょう。本当の自分なんて幻想です

目の前の仕事はつまらなかったり、辛かったりします。その時に「こんな仕事をしている自分なんて、本当の自分ではない。もっと他に自分らしく、好きなことだけに熱中できるような職業があるはずだ」と考えるから、自分で選んだ職場を簡単に辞めてしまう。

客観的に見れば、その人にとっての「理想的な職場」などありません。本当の自分と同じで、あくまで幻想です。もし、理想的な職場が実現するとしたら、それはその人自身の力で現状を改革する努力を続けてきたからでしょう。それでも「問題はゼロ。ストレスはまったくない」という状態には決してならない。そんな状態になったとしたら、それは向上心を失ったという意味です。

なかなか結婚をしない人たちの多くは、「どうにもタイミングが合わなくて」と言います。これも本音でしょう。

ただ、その言葉の奧に、「きっといつか、私にぴったりの人に出会えるはずだ」という考えがある。運命の人。赤い糸で結ばれた相手。白馬に乗った王子様。言いにくいことですが、これもまた幻想です。

「本当の自分」も「理想的な職場」も「自分にぴったりの結婚相手」も、すべて「正解主義」の産物です。求めたらチーンと音がして、正解が転がり込んでくればいいのですが、そう簡単にいかないのが現実なのです。

だったら、「正解」ではなく「納得解」を探さなければならない。

今の自分が気に入らないとしたら、どうしたら弱点や欠点を克服し、変化していくことができるのか。辛いこともあるだろうけれど、その職場で自分を表現したり、成長のために学んだりすることはできないのか。目の前の相手のよいところを認め、ともに人生を歩んでいく可能性を見いだせないか。それらの問いに対して、「納得解」を見つけ出していけばいいのです。

幸せの青い鳥を探して旅に出たチルチルとミチルが青い鳥を見つけたのは、普段自分たちが暮らしている家の中でした。

幻想を追いかける時間があったら、まさに今、ここにいる自分自身をしっかり見つめてください

迂遠なようですが、それが「納得解」にたどり着くための近道なのです。