見出し画像

色気と秘密の匂い。 真面目という防御を解いて │ 雨でも晴れでも「繊細さん」#4

年下の友人とランチへ出かけたときのこと。

半年ぶりに会った友人は、ずいぶん色っぽくなっていました。
長い髪を肩の後ろにまわし、にっこりと姿勢良く微笑んでいて。いつもふんわり優しい人なのですが、その日は特別に、春の花が舞うような空気感でした。

友人は会社を辞めると決めたそうで、来週にも上司に告げるタイミング。
その話を聞いて、この華やかさは、転機を迎えた人の色気なのだなと思いました。


カウンセリングの場で実感することなのですが、仕事であれ人間関係であれ、「こうする」と決めたあとには、花が咲くように「その人らしさ」が外見に表れます。

制服のようにグレーのカーディガンを羽織っていた方が明るい服を着るようになったり、髪をうしろでひとつにキュッと束ねていた方が、ふんわりとパーマをかけたり。

無難な格好に守られ、奥に隠れていた「その人らしさ」が表に出てくるのです。


同時に、秘密の匂いもただよいます。
聞かれたら無防備に答えてしまうのではなく、信用できる人にだけ話すし、答えたくないことは「フフフ」と笑ってかわすことができる。

相手に対して何をどこまで出すのか、その判断がためらいなくできるようになるのです。
自分を出すと同時に、守るべきところは守る。

「その人らしさ」と秘密が相まって、匂い立つような色気になるのだと思います。


こうした変化は、はたからみると「ずいぶん変わったな」とわかるものなのですが、本人には自覚しにくいものです。
まわりに「雰囲気が変わったね」「きれいになった」と言われて「えっ、そう? そういえばそうかも……」となった経験のある方もいるかもしれませんね。


変化においては、まずは「感覚」が変わり、そのあとで「思考」が追いつきます。

感覚の変化は、選ぶものに表れます。

「なんとなく、これまで着てこなかった色の洋服に惹かれる」
「着心地のいいインナーがほしくなる」
「髪をピンで留めて、おでこを出そうかな」など。

ひとつひとつは小さなことでも、これまで選ばなかったことをいくつも選んでいると、それらが積み重なって目にみえるかたちになります。

たくさんの小さな変化を経て初めて「私、変わったのかも」と気づくのです。


変化は自覚しにくいけれど、外見や行動をみれば、内面の変化を推測できる。
私はこの法則を使って、自分の変化をみつけては楽しんでいます。

たとえば朝、紅茶を飲むとき。

「なんとなくこのカップがいいな」と選んだカップが真っ白でパリッとした雰囲気のものなら「おっ、今日はやる気なんだな」と思いますし、丸みのあるぽってりしたマグカップであればすこし休みたい気分。


仕事の方向性でも、「私はこれからどうしたいんだろう」と迷ったら、ここ数ヶ月の行動を洗い出します。

なんとなく着たくなるのは、カチッとした服か、ふんわり系か。

あびるように心理学の本を読んでいるけれど、特にどのアプローチの本を手にとっているか(同じ心理課題を扱う場合でも、様々な技法やアプローチがあるのです)。

最近、YouTube で○○さんと△△さんを見始めたけど、彼らのどこに惹かれているのか……。


手にするもの、みるものには「今の自分の感性」が表れています。

これからどうしたいのか、自分の本音がわからないときも、行動をみれば心を読み解ける。「なるほどこっちの方向へ進んでいるんだな」とわかるのです。


先日、取材で写真を撮っていただく機会がありました。日程は一ヶ月前ぐらいから決まっていたけれど、どうしても「これ!」という服が浮かばなかった。

私は手持ちの服が少なくて、「今の自分」にしっくりくる3〜4着をその季節のあいだずっと着るというスタイルなのですが、ついこの間までヘビロテしていた服がしっくりこないのです。
悪くはないけどベストじゃない。

「心境が変化してるんだな」と思ったものの、取材までにぴったりくる服をみつけられず、サマーニットに紺色のタイトスカートというシンプルな出で立ちで撮影を終えました。


それで、取材の帰りにふと洋服屋さんに立ち寄ったら、アロハシャツと目が合ったのです。テロンとした生地に目玉焼きがプリントされた、ゆるゆるのアロハシャツ。

画像2


試着して即決でレジへ。お会計をしながら、

「ああ──、今の気分って、こういう感じだったのか」

と胸を衝かれました。そりゃ仕事用の服がしっくりこないはずだ、と。
同時に、真面目さを脱ぎ捨てる時期がきたんだな、とも思いました。

真面目さは自分の性質でもあるけれど、「ちゃんとしないと困ったことになるかもしれない」という恐れからくる面も大いにあったから。

もっと色濃くのびやかに、心を表現したい。言葉にエネルギーを乗せたい。
そう望んだとき、真面目さを脇において心を開くことが必要になったのです。


心を開くことは、自分を守れることと表裏一体です。

「もっと心を開いたらいいのに」と言われた経験のある方もいるかもしれませんが、心を開くとはそう簡単なことではないのです。

心を閉ざしたのは、過去に大変な思いをしたからですね。怖さを知る人間が心を開くとは、「防御を解く」ということなのです。


心を開くには、世界への安心感と、自分を守れる力が必要です。


「あんなにひどいことはめったに起こらないだろうし、たいていの人は優しいものだ」

と安心・安全を体感できていて、

「もし大変なことがあっても、今の自分ならきっと大丈夫」
と自分の力を信じられること。

不当なことをされたときには、怒りの体感覚を──腹の底が熱くグラグラ湧き立つような感覚を──信頼して、怒れること。

いざというときに自分を守れるから、防御を解いて、心を開けるのです。

◇次回は、あさって30日(金)公開予定です!◇

連載一覧はこちら↓

武田友紀『雨でも晴れでも「繊細さん」』

0405修正書影

紙書籍はこちらから

電子書籍はこちらから

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!