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佐世保少年院名物、地獄の「カッター訓練」 #5 少年院で、大志を抱け

19歳のボクは、暴走行為と覚せい剤使用で逮捕され、少年院へ。そこは軍隊並みの規則と訓練が課せられる、オソロシイ世界だった……。吉永拓哉さんの著書『少年院で、大志を抱け』は、「刑務所より厳しい」と言われる少年院での体験をつづったリアル・ノンフィクション。次々と飛び出す「シャバ」では考えられないエピソードに、きっとみなさんも驚くでしょう。その中身を少しだけ、ご紹介します。

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楽しみだった「パン」の日

さて、午前中のプログラムはこれで終わり、一度、中間期寮のホールに戻ってから昼飯を食べる。

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ここで面白いのは各自に配られる麦飯の量なのだが、これは一人前130グラムと決められている。ホールでみんなが黙想している最中に、給食係が炊飯ジャーから飯を盛るのだが、この時、茶碗をいちいち計りにかけなければならないので、自分の分だけ量を多めに、なんてことはできない。

また、炊飯ジャーの中に飯粒が余ったとしても、これをきちんと人数分で割って少量ずつ分配することになっているので、小学校の給食のように、おかわりというものがない。

昼食は、週に2回、パンの日があり、このパンは、帽子としても使えそうなほど大きく丸く、かなり食べ応えがある。その日だけは先生の許可で、おかずをパンに挟んで食べることができる

九州の他の少年院ではこの食べ方ができないらしく、佐世保少年院の院生にだけ許された、うらやましい行為なのだそう。みんな欧米人のようにパンにかぶりついて、美味そうにほおばっていた。ただし、食事の際には、しょう油、ソース、ケチャップ、マヨネーズなどの調味料は、いっさい与えられない。

昼飯を食べ終えるとしばらくの間、休憩タイムとなる。しかし、部屋のベッドで寝そべったり雑談したりはできないので、この時間は読書にふけるぐらいしかすることがない。まったく楽しくないひと時である。

1時から再び作業が始まるが、午後のプログラムは、農芸実習以外にも、カッター訓練や座談会などが行なわれる。

まず、カッター訓練とは何か? 聞きなれない言葉だろうが、これはいわゆるボート漕ぎというやつで、海に恵まれた佐世保少年院がウリにしている名物訓練だ。この時間だけは施設の外にある波止場まで歩いて行ける。

そして、先生付き添いのもと、救命胴衣を着て12人で船に乗り込み、それぞれオールを手にして「イーチ、ニー!」と掛け声を掛けながら船を漕いでいくのだが、これが初心者だと息が合わず、船が左へ曲がったり、右へ曲がったりするので、なかなか前に進まない。

少年院側は、「カッター訓練は協調性を身に付けることができ、注意力と判断力を養える」と強調していたが、漕ぎ手にとっては単なるイジメにしか思えない。みんな手の皮がズルズルとむけ、血豆をつぶしながらヒーヒーとオールを漕いでいた。

お坊さんの話を聞くことも

一方でボクはというと、またまたWPWを理由にしてズル休みをしていた。と言っても、訓練には参加しなければならなかったので、一応船に乗り、船首に座っている先生の横で掛け声を掛けていればよかった。

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みんなが「イーチ、ニー!」とけんめいな顔で重いオールを漕ぐと、ボクが「ソーレッ!」と音頭を取る。それを延々とくり返すわけだ。この訓練は、施設近くの海で実施されるので潮風に当たれて気分がよかった。ふだん外の景色を見ることができないので(おお! これがリアス式海岸か。九十九島は見えんとかいな!)と、ひとりで舞い上がっていた。

もちろん他の人たちは景色を眺める余裕などなく、必死になってオールを漕がなければならない。きっと(なんで吉永だけ楽しとうとやって!)とハラワタが煮えくり返っていたに違いないが、ここではボクに手を出すことすらできまい。

次に座談会。これは施設内の体育館で開かれていた。少年院付近のお寺から和尚さんが来てくれて院生に談話を聞かせ、そのあとボクらに座禅を組ませ目を半開きにするよう指示する

和尚さんは「心を無にしなさい」と言うが、雑念だらけのヤンキーだったボクらにしてみれば土台無理な話で、頭の中は「無」になるどころか、女性の裸体ばかりが浮かび上がってくる。それに、達磨大師でもあるまいし、30分間もジッとしておくことなどできない。

背中や鼻の上など、いたるところがかゆくなってくるのでモジモジしていると、背後に和尚さんの気配がして肩に警策が当てられる。これは「今から活よ」という合図なので、背筋を伸ばして(よろしくお願いします)という気持ちになって心の準備をしておかなければならない。

すると、スパーンッと肩に警策が振り下ろされるのだが、「いてっ!」などと声を出せばあとで先生から大目玉を喰らうので、(チッ、このハゲが)とバチ当たりなことを思いつつも、合掌して頭を深々と下げなければならなかった

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少年院で、大志を抱け

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