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長谷部誠のナイトルーティン「1日30分、心を鎮める時間をつくる」 #1 心を整える。

ワールドカップ日本代表をつとめ、現在はドイツのアイントラハト・フランクフルトで活躍する長谷部誠選手。東日本大震災直後に刊行し、多くの読者に勇気を与えた著書『心を整える。』は、150万部突破のベストセラーとなりました。あれから10年、私たちの社会はふたたび大きな困難に直面しています。だからこそ今、読み返したい本書。中身をほんの少しご紹介します。

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この時間だけは譲れない

2010年の南アフリカ・ワールドカップ期間中、日本代表が拠点にしていたジョージのホテルには、選手のリフレッシュのために、いろいろな小道具が用意されていた。

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卓球、ダーツ、テレビゲーム……。また、ホテルはゴルフ場の施設内にあったので、もちろんゴルフもできる。このようなサッカーから離れた遊びが、選手たちの気分転換に一役買っていた。けれど、僕は何もやらなかった

それには理由があった。

一日の最後に必ず30分間、心を鎮める時間を作りたかったのだ。

大会期間中はチームとして行動するので、練習やミーティングのためにプライベートの時間が限られている日が多かった。みんなとわいわい騒ぐのは楽しいけれど、時間があまりない日に遊びに参加してしまうと、「心を鎮める30分」を作れない。

だから僕は、チームとしての行動が終わると、すぐに自室に戻るようにしていた。年下のチームメイトからは「ハセさん、付き合い悪いっすよ」と冗談交じりに言われたけれど、この時間だけは譲れなかった。

部屋に戻る。電気をつけたままにして、ベッドに横になる。音楽もテレビも消す。そして、目を開けたまま、天井を見つめるようにして、息を整えながら全身の力を抜いていく

壁の模様を見て、ひたすらボ~ッとしていてもいいし、頭に浮かんできたことについて思考を巡らせてもいい。大事なのはザワザワとした心を少しずつ鎮静化していくことだった。練習と緊張でざらついた心をメンテナンスしてあげるのだ。

ベッドに横になると寝てしまうのでは? と思う方もいるかもしれないけれど、僕は「寝よう」と自分で思わない限り、眠ることはまずない。大人になってから電気やテレビをつけたまま寝てしまったことはないし、昼寝のときには必ずカーテンを閉めきって真っ暗にするほどだ。

キャプテンとしての重圧

ワールドカップでは、開幕直前にゲームキャプテンを任され、自分は何をすべきなのか、正直戸惑った。当時26歳でメンバーのなかで中間くらいの年齢の人間に、はたしてゲームキャプテンが務まるものなのか。どう振舞うべきなのか。

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自分がゲームキャプテンになったことで、チームの雰囲気が悪くなるようなことは絶対に嫌だった。まわりに一挙手一投足、見られているというくらいの心構えで、ゲームキャプテンという役目を全うしようと思っていた。

しかし、僕は初戦のカメルーン戦と第2戦のオランダ戦では、後半途中で交代を命じられてしまった。キャプテンマークを巻いた人間が、試合途中でピッチの外に出るなんて自分のなかでは絶対にありえない。不甲斐ないプレーしかできない自分が本当に情けなかった。

迷い、葛藤、悔しさ。いろいろな思いが胸に去来し、大会期間中は気持ち的にギリギリのところで戦っていた。そんななか、唯一、心が休まるのは自分の部屋だけだった。

だからこそ、心を鎮める30分間が僕には欠かせなかった

この習慣を始めたのはドイツに移籍してからのことだ。

オフに帰国できるのは夏と冬の年2回のみ。夏は約1ヵ月、冬は約2週間。僕は短いオフの間に、ひとつでも多くの用事をこなそうと思って、帰国のたびに30分刻みの予定表を作っていた。

だが、これでは忙しすぎて心身ともに磨り減ってしまう。人に会って移動して、人に会って移動しての繰り返し。途中でクタクタになってしまい、頭がまわらず、会ってくれた人にも失礼なことをしてしまったこともあった。せっかく休暇で帰ってきているのに逆効果になってしまっていた。

そんなとき京セラの創業者、稲盛和夫さんの本にあった、次の言葉に出会った。

「一日1回、深呼吸をして、必ず心を鎮める時間を作りなさい」

まさに当時の僕に必要な習慣だった。それから僕は、帰国してどんなに忙しいときも、部屋でひとりになる時間を作り、スケジュールを詰め込みすぎないようにした。

ワールドカップの期間中、心を鎮めることは僕にとって大切な作業だった。この習慣があったからこそ、どんなに葛藤を抱えても、翌朝には平常心で部屋を出て行くことができたのだ。

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