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挑戦をためらうのは「結果が出ること」を恐れているから

大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者として名を馳せた、アドラー心理学の第一人者、岸見一郎さん。そんな岸見さんの幸福論の決定版が、著書『成功ではなく、幸福について語ろう』です。アドラー心理学をベースに、仕事、恋愛、子育て、介護など、あらゆる悩みに答えた本書は、「人生相談」形式になっており読みやすさも抜群。そのうちのいくつかを抜粋してご紹介します。

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相談「生涯かけてやりたいことを見つけましたが、今の安定した環境も捨てがたく転職するべきか悩んでいます」

生涯をかけてやりたいことを見つけ転職を考えているのですが、それはまったく未知の分野で過去にチャレンジした方々が幾人か見受けられましたが、いずれも道半ばで頓挫しています。

しかし必ず人のためになることで私の中でやらない理由が見つけられないくらいです。失敗してでも挑戦する。そのような勇気があればいいのですが、私自身、転職回数が多く、今ようやく出世もあり安定した給与も手にいれたところで、また転職するのかと躊躇しています

ただ安定しているとはいえ、私生活では家族もなく人付き合いもまったくなく、人間的な生活や将来像を考えた時、転職して交流のある私生活を目指すべきでは、と考えてしまいます

これまで岐路に立つ度、相談相手がおらず独断で決めてきました。ご意見をお聞かせください。

(あお・医療関係・33歳・男性・大阪府)

お答えします

一見迷っているようですが、実は挑戦しないことを決心しているのです

「必ず人のためになることで私の中でやらない理由が見つけられないくらい」であれば、何の迷いもなく転職すればいいと思うのですが、実際には転職をためらう理由がたくさんあるのですね。

やらない理由は見つけられないくらいなのに、転職をためらっている。

一見、迷っているようですが、実は、挑戦しないでおこうと決心しているのです。

転職をためらう理由の一つは、失敗してでも挑戦するという気概がないということであり、さらに気概がないことの理由として、転職しようとしている分野が未知であり、過去に挑戦した人はいずれも頓挫しているということをあげています。

挑戦して失敗しないことはまずありません。そもそも、失敗しないようなことであれば「挑戦する」とはいいません

しかし、何事であっても挑戦しようとする人が絶対成功しないと思っていることはないはずです。仕事がうまくいくかどうかも、実際に始めてみないとどうなるかわかりません。たとえ、これまで挑戦した人が皆頓挫したとしてもです。

挑戦する人は、たとえこれまで誰一人成功したことがなくても、自分が初めて成功するという可能性に懸けるのです。

「働く目的」を考えてみる

問題は、あなたがなぜ挑戦しようとしないかというところにあります。

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挑戦しなければ当然失敗しません

やらない理由はないのにためらっているというような葛藤があるというより、挑戦しないことのメリットが大きいと考えているのです。

率直にいうと、結果が出ることを恐れているのです。挑戦したら結果が出ますが、挑戦しなければ結果は出ません。挑戦したら成功するかもしれないという可能性の中に生きるほうがいいと考えているのです。

ですから、転職して始める仕事が実際に達成困難かはあまり関係がありません。もっといえば、困難であるほうがいいのです。そのことを挑戦しないことの理由にできるからです。達成が困難なことだから挑戦しないのではなく、挑戦しないために、達成が困難だとされることに「挑戦しようとする」のです。「挑戦する」のではありません。

もう一つの転職をためらう理由は、転職すると今の職場で得られた出世と安定した給与を手放すことですが、一体何のために働くのかということを考えなければならないと思います。

出世し、安定した給料を手に入れるために働くのでしょうか。そういうものを手に入れようと思うことがいけないとは思いませんが、そのようなことは働いた結果得られることであって、それを得ることが働くことの目的ではありません

出世さえできれば、あるいは、安定した給料を手に入れるためなら何をしてもいいわけではないでしょう。

そのように考えると、転職後、「人間的な生活や将来像」を考えているというのであれば、それがあなたが働くことの目的だと考えてもいいでしょう。

転職しようとする仕事がこの目的を達成することを可能にするのであれば、迷わず新しい仕事に挑戦されてもいいのではないでしょうか。

あるいは、仕事をすることの目的がはっきりしているのであれば、新しい仕事に挑戦しないで、今の仕事をする中で、どうすれば「人間的な生活」を送れるかを考えてもいいのではないかと思います。今の仕事だから、そのような生活を送れないわけではないのですから。

著者の岸見一郎さんの「note」はこちらから