見出し画像

住宅ローンを組むことは、不動産投資にレバレッジをかけるのと同じ #2 新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方

近刊『スピリチュアルズ』が話題を呼んでいる橘玲さん。少し前には、新書『言ってはいけない』も大ベストセラーになりました。そんな橘さんの初期代表作が、こちらの『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』。経済的独立を果たし、自由に、豊かに生きるためのマネー術を教えてくれる本書は、今ブームの「FIRE」を目指している人も必読でしょう。今回はその中身を、少しだけご紹介します。

*  *  *

ハイリスクな投資をしてきた日本人

日本人はリスクを取らないとよくいわれますが、これもまた大きな間違いです。日本人ほど、投資に対してリスクを好む国民もそうはいません

これはもちろん、パチンコや競馬に人気がある、というようなことをいいたいのではありません。

画像1

図6は、1971年を1とした場合の20年間の地価の動向です。この間、日本の地価は一貫して上昇を続け、5倍から8倍に値上がりしています。こうした右肩上がりの土地神話を背景に、戦後一貫して、日本人は不動産にハイリスクな投資を行なってきました

投資対象として考えるならば、不動産よりも株式の方が収益性が高いという意見もあるでしょう。TOPIXの基準値は1968年の100ポイントですから、89年の最高値2900ポイントと比較すれば、株価は同じ期間に約30倍にまで上昇したことになります。

しかし不動産投資には、株式投資にない大きな魅力がありました。それが、住宅ローンによるレバレッジです。

レバレッジは「梃子」の意味で、借金によって資産の運用効率を高めるハイリスク・ハイリターンの投資戦略をいいます。ジョージ・ソロスなどのヘッジファンドがこの戦略を多用したことで一躍有名になりましたが、基本は簡単です。

現物取引では、1000万円の現金で1000万円分の株式しか買えず、たとえ株価が2倍になったとしても、資産は2000万円に増えるだけです。

それに対して住宅ローンでは、20%の頭金で不動産を取得することができました。1000万円の頭金で、5000万円の土地が買えたわけです。これで地価が2倍になれば、資産は1億円に膨れ上がります。頭金は1000万円ですから、レバレッジの力で元本が10倍になったわけです。

商品先物取引など、特殊なものを別にすれば、このような大きなレバレッジのかけられる投資先は、日本では不動産しかありませんでした。そのうえ、戦後一貫したインフレと給与水準の上昇によって、借金の負担は年々軽くなっていきます。

下落スピードもそれだけ速い

不動産投資に5倍のレバレッジをかければ、資産価値が8倍に上昇することで、投資元本は40倍にまで膨らみます。このように、戦後の日本人にとっては、大きなレバレッジをかけて不動産に投資するのがもっとも合理的な選択だったのです。このような魅力的な投資先があるときに、わざわざ株式に投資する必要はありません。

画像2

戦後の日本人は、意識するしないにかかわらず、大きなリスクを取って不動産に投資したからこそ、世界有数の豊かさを獲得するのに成功したのです。日本人がリスクを取らないという俗説は、明らかに間違っています

しかし、バブル崩壊後の急速な地価下落で、この「勝利の方程式」が通用しなくなってしまいました。投資に5倍のレバレッジをかけるということは、資産価値が下がれば、5倍のスピードで元本を失ってしまうということでもあるからです。

90年前後に、1000万円の頭金で5000万円の家を買ったとすると、現在の資産価値は2500万円しかありませんから、1500万円の赤字です。「不動産は底打ちした」という業者のいつもの口車に乗って、2000万円の頭金で1億円の家を買えば、資産価値は5000万円まで下落し、赤字額は3000万円です。

ふつうのサラリーマンがこんなに大きな損失を抱え込めば、挽回することはほぼ不可能でしょう。一生働いてローンを返し続け、それでも返済が終わらず子どもにまで借金を引き継がせることを考えれば、自己破産してすべてを振り出しに戻した方がずっとマシという厳しい状況です。

最近の住宅ローン破産者の急増もまた、日本人が大きなリスクを取って不動産に投資した必然的な結果なのです。

追記:

2002年当時はレバレッジをかけた投資を行なうのはセミプロ級の一部の個人投資家だけでした。その後、FXの普及にともなって高いレバレッジをかけたハイリスクな取引が一般化します。

「マイホームの購入は不動産投資で、住宅ローンを組むのは不動産投資にレバレッジをかけることだ」というのは1+1=2と同じくらい簡単な理屈ですが、原著から12年たっても相変わらずほとんど理解されません。

◇  ◇  ◇

連載はこちら↓
新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 橘玲

画像3

紙書籍はこちら

電子書籍はこちらから

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!