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人の気持ちはわからない。 それはとても自由なこと │ 雨でも晴れでも「繊細さん」#2

相談業を通して学んだことはたくさんあるのですが、特に知って良かったのは、「人の気持ちはわからない」ということです。

繊細さん向けのカウンセリングを始めた頃、「相手の気持ちがわかるから、それがしんどい」とご相談いただくことがありました。


「上司がこう答えてほしいって思ってるのがわかるから、意見を言いづらい」
「友達がこう思ってるだろうなってわかるから、しんどい」
などです。


たしかに繊細さんは、相手の表情や声のトーンなど、ささいな変化をキャッチします。
でも、その「わかる」はどこまで当たっているのだろう?

たとえば、「同僚が目立ちたがり屋で、なにかにつけ注目してほしいと思ってるのがわかる」というご相談があるとします。

ふむふむなるほど……とお話を伺っていると、実は相談者さん自身が「注目してほしい」と思っている、ということがあるのです。


これは投影と呼ばれるもので、本当は自分が思っていることなのに、まるで相手がそう思っているかのように感じられる現象です。
「あの人はこう思ってるんだろう」と思ったとき、それは投影の可能性もあるのです。


そんな中、繊細な友人が「あの人こう思ってるなってわかるから、しんどい」と言い出しました。
「友人よ、お前もか」と内心ツッコミ、「実際にはどこまでわかるんだろう?」と、こっそり実験。

ランチでおしゃべりしながら、頭の中で思い切り友人の悪口を言ってみたのです。
ところが、当の友人は楽しそうに目の前で話し続けています。


「相手の気持ちがわかるって言うけど、頭の中身は読めないんだ!」


文字にすれば当たり前の話なのですが、当時の私にとっては衝撃的でした。なぜなら私もまた「相手の気持ちがなんとなくわかる」と思って生きていたからです。

先ほど投影の話をしましたが、その頃「相手の気持ちがわかる」という相談がやたらと耳に入ってきたのは、その悩みを私自身も抱えていたからです。

「相手の気持ちがなんとなくわかる」と思うからこそ、「きっとこう思っているんだろう」と予測で動いてばかりで、「ねぇ、実際はどう思ってるの?」と相手に確かめてこなかった。
自分の「わかる」がどこまで当たっているのか、検証してこなかったのです。

友人とのランチのあとも、相手の気持ちはどこまでわかるのか確認を続けました。
繊細さんのお話し会(交流会)で、参加者さんに

「みなさん、相手の気持ちってどこまでわかります? 何割ぐらい当たるか確かめたことはありますか?」

とヒアリングしてみると、10年間一緒にいるというご夫婦(参加者さんが繊細さん、パートナーが非・繊細さん)でも

「8割ぐらいしか当たらない。怒ってるのかなと思ったら眠いだけだった」

とおっしゃっていたり、自分もパートナーも両方繊細さんだという参加者さんから

「察してよと思っているときはうまくいかなかった。言葉で伝えるようになってからうまくいくようになった」

というお話があったり。

繊細さん向けのセミナーを開催したとき、参加者のひとりにメモをみせて(「今日あったいいことを思い浮かべてください」あるいは「今日の朝ごはんはなんでしたか?」など)、

「みなさん、彼女が今、なにを考えているか当てられますか。彼女がどんな感情かはわかりますか」

とミニゲームをしたこともあります。

プライベートでは、夫が怒っているようにみえたときに「ねぇ、怒ってる? もしかして私があまりに料理をしないから?」と恐る恐る確かめたりしました(結果はハズレで、彼が怒っていたのは、彼自身の仕事のことでした)。


確かめれば確かめるほど、「相手の気持ちは正確にはわからない」のです。

怒っているのか喜んでいるのか、という感情まではそれなりに読み取れるけど、「なにを考えているのか」あるいは「なぜ今怒っているのか」といった頭の中身まではわからない。
そう知ることで、とても自由になったのです。


人間は、自分と相手をどこか同じものとして認識しているのだと思います。
ちょっと突飛 に感じられるかもしれませんが、「相手の気持ちがわかる」と思っている人は「自分の気持ちも相手にわかられてしまう」と思っている。

「あの人は私の気持ちなんて全然わかってくれない!」と怒る方もいるでしょうけれど、それも「わかってくれるはず」という前提があって、その前提が守られないから怒っているんですよね。

それまで私は「相手を悪く思っちゃいけない」と思っていたんですね。だって悪く思ったら、相手にもそれが伝わってしまうだろうから。

でも、どうやら頭の中身まではバレないぞと知った。
それによって──これを書くのはどうなのと思いますが──頭の中で自由に相手の悪口を言えるようになりました。

たとえば、友人とのおしゃべりでも「話、長いなぁ!」と思えるように。

気持ちを表に出すかどうかは別問題ですが、相手に対するイヤな気持ちやツッコミを、自分の中では抑えなくて良くなった。

すると、びっくりするほど人間関係がラクなのです。


「友達が楽しそうに話してるのに、話が長いなんて思っちゃいけない」と自由な気持ちを否定すると、「最後までしっかり聞かなきゃ」となってヘトヘトになりますが、「話、長いなぁ!」と思えるようになると「ところでさ」と話題を変えたり、「その話、もうおなかいっぱいだよ」と笑って伝えられました。

「寒い」と感じられるからエアコンの温度を調整できるように、「これはイヤだな」と自由に感じられるから、その先の選択ができるのですね。


相手の気持ちはわからない。
だから、知りたいときには聞いたらいいんだ。


自分の気持ちも、相手にすべてがわかられることはない。

だから、遠慮せずに自由に考えていい。

もしも相手に知ってほしかったら、口に出して伝えたらいいんだ。

そう思えたことは、まるで生まれて初めて思想の自由を手に入れたような、とても自由で力強い感覚でした。

◇次回は、あさって26日(月)公開予定です!◇

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