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ヒッピーの聖地・ゴアで体験しためくるめくLSDの世界

神の草・大麻で宇宙空間を体験、インドのビーチでLSDを一服、キノコの精霊と会話を交わす……。ノンフィクション作家、長吉秀夫さんの『不思議旅行案内 マリファナ・ミステリー・ツアー』は、自身の神秘体験を赤裸々につづったトリップ・エッセイ。ドラッグのみならず、音楽、舞踊、錬金術など、あらゆる神秘の核心に迫っています。知的好奇心が思わずうずく、本書の一部を抜粋してお届けします。

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「自分の使命」がわかった

ひとしきり踊って外に出ると、海風が気持ちいい。ヤシの根元に寝転がって空を見上げると、真昼のように明るい月の光とヤシの葉のシルエットが絶妙にカッコイイ。

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「こんな幸せは、パーティじゃなきゃ絶対味わえない快感だよなぁ」とか、

「僕らは個体としてではなく、全体でひとつの命の塊をつくっているんだなぁ」とか、

「古代とか未来とかを超えて、宇宙は存在しているんだなぁ」とか、

「人間の幸せのひとつはやはり子孫繁栄かなぁ」とか、

「世界経済なんて言うけど、結局はこういう気持ちやDNAのエネルギーの流れにすぎないんだなぁ」とか、

「でもそれをわかりきっていて、経済とかを操って世界を動かしている奴らはあなどれねぇな」とかいろいろな考えが巡っては消え、巡っては消えていく。

人間っていうのは、面白いもんだ。精神を切り替えるだけで、新しい世界をその場に出現させることができるし、自分自身を違う世界へほうり込むことができる。このエネルギーの配分とか流れとか、科学とか神秘とか、西洋とか東洋とかをひっくるめて、何もかも改めて考え行動し、人類が生まれ変わる時期にきてるんじゃないだろうか。

「自分の中にあるそれぞれの宇宙を出し合って、この世で命の塊をつくる」

皆わかっていること、皆知っていること。でも、すぐに忘れてしまいそうになるこの気持ち。「大昔から、人間はこうしてエネルギーを手渡ししてきたんだなぁ」と、心から思う

夜空に七色のグラデーションがかかり、なぜかオーストラリアの民族楽器であるディジュリドゥの音が聞こえる。大地の鼓動が聞こえる。生命のうねりを感じる。そのヴァイブレーションが僕に、今バビロンの中で自分は何をすべきなのかを教えてくれる。

すべての生きる力、生きようとする命、心、エネルギー。そういう力に仕えてゆくこと、働きかけてゆくことこそ、自分の使命なのだ。それが自分の生きがいなのだということが、はっきりと見えた

夜が明けて感じたこと

少し冷えてきたので、たき火の前に座る。暖かい。とても暖かい。みんな集まってくる。炎の向こう側に、知った顔が見える。皆、笑っている。暖かそうに笑っている。

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夜明けが近いようだ。海が大地が、今はとてつもなく冷えている。だけど、この炎の輪の中は、とても暖かい。漆黒の宇宙の中に、頼りなげだけど実は力強く浮遊する暖かい光のカプセル。この炎の輪は、地球そのものだ

とても暖かい生き方、知恵。僕達人間は、太古の時代に、ゆるぎない真実を手に入れたのだ。

みんなで炎を囲んでいれば、暖かいということ。

そして、その暖かさは命そのものであるということ。

そして、この炎は、自らの手で始末しなければならないということ。

文明とは、人との思いやりの中から生まれたということ

そう思った瞬間に、浜辺でパーティの終わりを告げる花火が「パン、パッパンパン!」と乾いた音をたてて上がった。ピンクや緑の花火の向こうに、明け始めた空があった。

次の瞬間、僕は急いで炎のほうへ目を向ける。

最後のヤシの葉が炎の中にくべられる。縦に入れられたヤシの葉は、その油分でもって美しいシルエットの炎を浮かび上がらせた。僕はまばたきも惜しんで、さらに見つめた。この炎の、最後の炎の中に何があるのかを見極めたかったのだ!

鳳凰のように美しくはばたいた炎は、自らの背骨を焦がし、丸焼けになりながら朽ちていった。まるで、生贄となった聖なる牛の肋骨が音をたてて崩れ落ちるように、自らの炎に焼かれ、その中に消えていった。そして、その炎の中には、何も存在してはいなかった。

夜が明けた。

僕は満足だった。何も存在していないことを見ることができて、とても満足していた

帰り道、いっしょに旅をしてきた友人達とともに、小さな岬になっている小高い丘の上で、朝日を拝んだ。

「今まで、ともに歩んできた友人達に、愛する人に、本当に感謝します。ありがとう。僕らは、これからもずっとひとりで旅をしてゆくんだね。その道行で、また逢おう。いつまでも変わらぬ友情を信じながら」

そんなことをいつまでも思っていた。そして、パーティは終わった。

照れ臭い話だが、これが僕のゴアにおける旅の一部始終である。