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経営管理はスケジュール管理から…ビジネスハウツー満載の異色ファンタジーノベル #3 異世界コンサル株式会社

突然、異世界に転移した経営コンサルタントのケンジ。チートもなく、魔術も使えないケンジは、所属していたパーティーをクビになってしまう。やむなく「冒険者サポート業」への転職を決意したケンジは、現世での経験を活かし、まわりのパーティーの問題を次々と解決。頭角を現していくが……。

ウェブ小説投稿サイト「小説家になろう」で、部門別ランキング第1位に輝いた異色のビジネス・ファンタジーノベル、『異世界コンサル株式会社』。楽しく読めて、しかもためになる。そんな本書から、冒頭部分をお楽しみください。

*  *  *

(2) スケジュールを管理する


サラへの紹介料


翌朝、宿屋の1階で朝食の麦粥を啜っていると、サラが訪ねてきた。
 
「キンバリー達、どうだった?」

後でこちらから報告に行くつもりだったが、サラも行きがかり上、気になるんだろう。
 
「貧乏人相手の商売としては、まあまあだな」
 
俺はそう答えて、銅貨1枚を渡した。
 
「今回の謝礼だ」
 
「え、なんで? 私が払うんじゃないの?」
 
「報酬は銅貨3枚って言ったろ? キンバリー達からは成功報酬として銅貨4枚を受け取った。紹介してくれたサラには、紹介料として1枚払う」
 
「ほー……」サラの目が、銅貨の反射を映してか、なんとなくキラキラしている。
 
「まあ、他にも困ってそうな貧乏人がいたら、連れてきてくれ。キンバリー達にしたように、最初にパーティー運営を教えてやる。前金と成功報酬で一人あたり銅貨1枚。紹介者には成功報酬として銅貨1枚払う」
 
要するに、営業への紹介料だ。
 
「貧乏人は前金ありで、紹介は成功報酬なのには理由があるの?」とサラが尋ねるので説明する。
 
「ある。貧乏人は、手元に金がない。それに俺のことも信用してない。俺も相手を信用してない。だから半金だ。紹介者も、成功報酬じゃないと、いい加減な連中を紹介しかねない。だから、成功報酬にする」
 
「あんた、いろいろ考えてるんだねえ……なんで冒険者なんてやってたの? 学だってありそうじゃん」
 
「聞くなよ。根無し草だから、この街じゃ普通の商売はできねえんだよ。1等街区に入るには、バカ高い市民権を買わないとならねえしな」
 
ふーん……と、サラはイマイチ納得しない顔で頷いて言った。
 
「じゃ、あたし、もっと貧乏人紹介するね!」
 
と銅貨を握りしめて駆け出そうとする。
 
「待て待て。俺が案内できるのは、一日3組が限界だな。それ以上は、日程の調整をしないと無理だ」
 
「日程の調整って何?」
 
「そうだった……」

週の概念がない、この世界で


サラが首を傾げたのには理由がある。冒険者に限らず、この世界の連中はスケジュールという概念がないに等しいのだ。
 
暁の月、翠星の月、蒼の月、といった月の概念はあるが、週という概念がない。およそ、3日間を一まとまりにして、それを1つ、2つ、と数え、10個で1カ月となる。
 
だから、冒険者の連中は、昨日、今日、明日、ぐらいの感覚で生きているし、依頼内容も3日間を区切りにしたものが多い。
 
幸い、1年間の区切りは「新年の儀」や「麦播きの日」などが決まっているので、大体は理解できるらしい。
 
つまり、日本でビジネスマンがやっているような、1日を4つに区切って、5日間を20分割したスケジュールで打ち合わせや仕事を時間単位で調整して入れていく、などという概念がないのだ。
 
当然、スケジュール表もないし、ビジネス手帳もない。
 
手帳……売れるかな。ダメだ、資本がないし真似されるだけだ。
 
まあ、大商人などは感覚も違うのかもしれないが、農民あがりの冒険者は、基本的にその日暮らしの連中なので、「5日先の昼の鐘と夕の鐘2つの間に打ち合わせ」などと言っても困惑するか、酒を飲んで忘れるだけだろう。
 
この世界には機械式時計も存在しない。教会の鐘は、よくわからない不思議な力で刻を知らせてくれるが、高価なので街に1つあればいい方だ。
 
いずれにせよ、紹介者を確保する仕組みはできた。次は、依頼者を整理する「予約の仕組み」が必要になりそうだ。

紹介状兼予約票を作る


「サラ、数字はわかるよな? 冒険者の連中はどのくらいなら数えられるんだ?」
 
「そんくらいわかるよ! だって矢の数だって数えないといけないし! あんまり書けないけど……でも、農民だって税を数えるから、数えるだけはできるよ!」
 
「税はどうやって数えてるんだ?」
 
「なんか升と秤を使って、お役人様と村長さんが、数えながら大きい板に傷をつけるの。村の人みんなが、じっと見てるから誤魔化すのは難しいのよ!」
 
なるほどなあ……。数学的なものは普及してないが、生活に必要な数字は扱えるわけだ。農民にとって、税金の多寡は文字通り、命に関わる。真剣なのだ。
 
学問は限られた層にしか普及していないが、知恵は平等だ。農民に数字を読む素養があるのなら、その仕組みを応用するのがいいだろう。俺は木切れを取り出すと、ナイフで削って傷をつけ始めた。
 
「なにしてるの?」とサラが手元を覗き込んで聞いてくる。
 
あぶないって。手を切るだろ。
 
「紹介状兼予約票を作ってるんだよ。まず、四角い棒と三角の棒と丸い棒があるだろ? これが、今日、明日、明後日だ」と3種類の棒を見せる。

その中から1本を取り上げて、上、真ん中、下に分かれるよう薄く傷をつけた後、1カ所に大きく傷をつける。
 
「こうして、1日を3つに分ける。大きく傷をつけたところが、その順番ってわけだ。朝飯後に傷をつけてみたわけだ」
 
最後に、棒の断面に小さな焼き印で印をつける。
 
「これで、3日分を3つに分けた予約票ができたわけだ。今度から、紹介者にはこの棒を渡してくれ。四角い棒が今日、三角の棒が明日、丸い棒が明後日だ。傷は、朝食後、昼食後、夕食前の3つだ。サラは、棒を渡したら俺の宿まで来て相手の名前を教えてくれ。残った棒を俺が受け取って、相手がいつ来るか確認する。それならできるな?」
 
「うーん……? 要するに、相手に棒を渡せばいいのね? □が今日、△が明日、○が明後日。上線が朝食後、中線が昼、下線が夕食前って説明して、残りを宿まで持ってくる」
 
サラが、俺の説明を繰り返した。そこまでわかっていれば、問題ない。
 
「そうだ。まあ、お前の依頼もあるだろうから、紹介する時にやってくれればいい」
 
「わかった! とりあえず行ってくる!」
 
そう言うと、サラは木切れを引っ摑んで駆け出していった。
 
俺はとりあえず、平板にナイフで四角く線を引いてスケジュール表を作り始めた。

「異世界に来てまで、スケジュール表を作るとは……」と少し哀しくなって呟いてしまった。

この節のまとめ

経営管理はスケジュール管理から

スケジュール管理の仕組みや手法は世間に溢れています。スケジュールを管理するということは、ビジネスのプロセスを管理することと同義です。自分なりの方法でスケジュールを管理できるようになりましょう。
 
起業当初の個人事業主にとって、スケジュール管理とは稼働率管理であり、回転率管理であり、利益率の管理でもあります。
 
スケジュール表から毎日の売上を逆算できるように経営のツールとして活用しましょう。
 
もし経費ばかりかかって売上が立たない予定で一杯ならば、それはスケジュール管理に失敗しているのです。

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