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死んだあとに素晴らしい世界が待っている…遠藤周作さんが遺した言葉 #5 「ありがとう」といって死のう
いつか誰にでも訪れる「死」。いざというときジタバタしないために、死とはどういうものなのか、どうすれば穏やかに逝くことができるのか、元気なうちに考えておきたいものです。終末緩和医療の最前線で働くシスター、髙木慶子さんの『「ありがとう」といって死のう』は、死を考えるうえでの座右の書になりうる一冊。髙木さんが看取ってきた人たちの実話に、思わず涙がこぼれる本書、その一部を抜粋してお届けします。
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「それがあんたの仕事だ」
作家の遠藤周作さんとは、生前、親しくさせていただきました。遠藤さんと初めてお会いしたのは、私が25~26歳の時です。
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旧軽井沢に聖パウロカトリック教会があるのですが、そこでの御ミサへ行った帰りに「マ・スール」と声をかけられたのです。
「マ・スール」とはフランス語で「マイ・シスター」という意味です。
遠藤さんがちょうど小説『沈黙』を書かれていた頃で、若い修道女にいろいろ尋ねたいことがあったようです。
遠藤さんは、一九九九年の六月に亡くなっているのですが、その二年ほど前、入院される前にお目にかかった際にこうおっしゃられました。
「マ・スール。お願いだから、死んだあとに素晴らしい世界が待っている、ということを多くの人に伝えておくれ。
あんたは、本を書くだろう。話もするだろう。だから、向こうの世界は素晴らしいよ、ということをね、オーバーにオーバーに語ってくれ」
これが遠藤さんからのお願いでした。遠藤さんは、ご自分がそのように書いたのでは、読者の方に「まゆつば」と思われると判断したのでしょう。
「あんたみたいな修道女が言えばみんな信じるよ。信じてくれるから、自分よりもあんたが言った方がいいよ」とおっしゃいました。これが、お褒めの言葉なのかどうかはわかりませんが、生前、何度となく、お願いされました。
遠藤さんが伝えたかったこと、それは「あの世については、人間が考えられる最高の想像力と幸せ感で考え続けてほしい」ということだったと思います。
「この世に死んだ人は誰もいないんだから、嘘でも誠でもいいじゃないか。死んでいくのはみんなつらいんだからね、もうありったけ飾った幸せな国を描いてあげてくれ。それがあんたの仕事だ」とおっしゃっていました。
「人間の最後の苦しみ」とは?
遠藤さんは生涯を通じて、お母様から学んだ信仰を大事になさった。にもかかわらず、彼の最期の最期の苦しみは「信仰」に関することでした。
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「果たして神は本当に存在するのだろうか」
これこそ本当の人間の姿。
私はこのように申したと思います。
「遠藤さん、大丈夫ですよ。神様は必ずいらっしゃる。お母様も必ず待っててくださいますよ。信じることですよ」
すると、遠藤さんは「あんた、いつも嫌なことを言う」とおっしゃいました。きっとお母様のことを持ち出されて照れ臭かったのだと思います。
死の間際、「神も仏もいないよ」と思いたくなる誘惑に自分がどう向かっていくか。私は、そこに人間の最後の苦しみがあるのではないかと思っています。
私は修道女です。修道女ですから信仰に生きています。修道女でいることは別にたいしたことではないのです。神様の恵みのみで生きていけばいいのですから。
ところが、最期の最期に「神様は本当に存在するのか」と心を揺さぶられたらどうなると思いますか。そこが一番の苦しいところだと思うのです。
遠藤さんは、作家として、信仰について、神について多くの著書があります。そんな彼でも、最期の最期に大きな揺さぶりがきたのではないかと思います。
でも、遠藤さんの最期は立派でした。彼は「神様に自分の霊をゆだねます」と言い残して、亡くなられました。
御臨終の場に私はおりませんでしたが、亡くなった後、奥様の順子さんにお聞きしました。
「周作が亡くなって、お医者様が『御臨終でございます』と言ったとたんに、周作の顔は光り輝いたんです。本当に見たんです。
光り輝いたその顔を見た時、私は『ああ、お母様に会えたんだ。神様に会えたんだ』と思いました。本当に安心しました」と奥様はおっしゃいました。
ご自身がおっしゃったように、きっと遠藤さんは素晴らしい世界に行かれたのでしょう。
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「ありがとう」といって死のう
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