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Re:逃走癖女神 ⒔苦くて甘い夜 連載恋愛小説

しばらく恋愛活動からは遠ざかっていたし、悪女呼ばわりされた高校時代もたいした経験はしていない。
果たしてまともに機能するのかなという、フラットな興味しかなかった。
アニメに関わったことで、何かをつかめそうな気配がしていた。
いつもと違う道を歩けば、今までにない言葉があふれてくるかもしれない。
そういう打算もあった。

これまでの言動をかんがみても、彼は一方的な行為はしなさそうではあった。
都の反応を注意深く観察し、試す。まさに実験の様相をていしてきた。

***

朔久さくの唇が、都の肌をさぐる。次はどこかと、無意識に息が詰まる。
予想外の動きをとられ、都の唇から甘い息がもれた。
「都さん、素直」
と言われたわけでもないのに、はっきりと聞こえた。
色気たっぷりに、ふ、と笑われ、対抗心に火が付く。

「フェアにいきたいから、ちゃんと最後までして」
紗英顔負けの男気を、変なところで発動してしまう。
律儀にお返しすべきはお返しする。相手が不完全燃焼なら、女がすたる。

大胆に攻めたりピンポイントに切り替えたりと、その緩急のつけかたに全面降伏したと認めざるを得ない。
掟により甘さ成分を極限まで排したはずが、その夜の余韻はとろとろに甘かった。
これはきっと源シェフの作品を心ゆくまで食したせいだと、都は理由を深く考えないようにした。

***

いいかげんに起きてくださいと、だれかが急かす。
「んんーおこしてー」
両手を広げ、抱っこを要求。
まぶたを上げると、そこに立っていたのは紗英ではない。
いつもの感覚で、やってしまった。

「あ。まちがえた」
「誰と間違えたんですか。どんな人?」
「どんなって、…元ヤン?」
面倒見が良くて、仕切りたがりで、頼りになる人。

「…って、紗英さんなんだけどねー」というオチまで、朔久は言わせてくれなかった。
都の手首を押さえつけ、体重をかけてくる。
「…あのう、これは…?」
「やっぱ起きなくていい」
渋皮栗ガトーショコラのお土産を朝食に食べる計画は、時間の都合上おじゃんになった。

(つづく)
▷次回、第14話「オッサンたちと歓喜の宴」の巻。


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