Re:逃走癖女神 ⒐有言実行 連載恋愛小説

「じゃ、今度はもっと呼吸合わせて。テイクツー」
気迫で空気がビリビリ震えることなんて、あるんだ。
見かけ倒しじゃないな、声優さんてすごいなあ、と都はしみじみ感じ入る。

数回合わせただけで、しっくりきた。ラジオと朗読の親和性だろうか。
さすがに生放送は緊張したが、何かあっても僕がなんとかします、と直前にささやかれて肩の力が抜けた。

***

お疲れさまです、と朔久さくが何かを渡してくる。
スポンサーのおもちゃ会社が作った、ガチャガチャ向け商品だ。
「サンプルもらったんで、都さんにも」
「え、カガミ美人ー。セツちっちゃ。かわいすぎ」

ミニフィギュアを机に並べ、都は腰を低くしてながめる。
「…今、ガキだな、って思ったでしょ」
「いえ。とんでもない」
半笑いになってますが。

フィギュア以外にも、精巧な作りの戦車や大砲なんかがラインナップされていて、ミリタリーファンも食いつきそうな仕上がり。
「人気出るといいなあ」

***

今回は、ヒロイン役の声優さんは不在だったのが残念だった。
「僕より売れっ子なんで、スケジュールとれなくて。ま、それもこの作品で逆転させますけどね」

養成所時代の同期だという、その人に対するライバル心を隠しもしない。
徹底的に自分を追いこんで有言実行するスタンスのようだ。
不敵な態度がせつそのもので、もう役に入っているのかと疑ってしまうほどだった。

「あ。反響きてますよ」
今の時代、リアルタイムで感想が本人に届くのがすごい。
「原作者、何者?ヒロインの声、この人でいんじゃね?…だそうです」
人が喜びそうなコメントを、あえて選んでくる。
「サービス精神すごいね…」
「なんのことですか?」

(つづく)
▷次回、第10話「朔久のぶっとんだ提案」の巻。


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