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Re:逃走癖女神 ⒒恋愛実験 連載恋愛小説

都は高2のとき、詩壇の芥川賞と呼ばれる賞を史上最年少で獲得した。
紗英と作った詩集だ。
詩で稼いだお金を母が持ち逃げし、男と消えた頃だった。

もともと母子家庭の家計を助ける感覚だったので、お金に関してショックはそれほど感じなかった。
賞金が入るまで待てばよかったのに…と思ったくらいだ。

今までさんざん我慢させてきたんだろうから、法律上は来年成人だし好きなことをさせてもいっか。
物わかりのいい娘は、仏のような境地に達する。

***

父親の名前も知らされていないし母の実家とも疎遠だったので、気づけば天涯孤独に。
昼間にひとりなのは、気にならなかった。
学校の図書室でしっぽり読書三昧ざんまいができて、うれしかったくらいで。

でも、あたりが暗くなると、とたんに心細くなる。
家に帰っても真っ暗で、ひとりぼっち。
夜な夜な男子と外で遊ぶくらいしか、気を紛らわす方法がなかった。

女子というのは、10人寄れば必ず2、3の小グループが形成される。
そして、他グループの女子と個人的に親しくするのがはばかられる、意味不明な不文律ができあがる。

都はそのナゾのシステムを毛嫌いし、単独行動を貫いた。
そうやってあきらかにはみ出ていると、どこからか男子が現れ友達になろうと言う。
女子とちがって、複雑さとは無縁の彼らの相手をするのは気が楽だった。

***

シニカルな語り口の天才少女がちょっと見ない間に豹変し、匂い立つオンナの詩を書くようになった。
「早熟の天才」から「恋多きJK詩人」へと、称号もすげ替えられた。

世間は拒否反応を示し、賞賛から一転、総攻撃を仕掛けてきた。
手のひらを返すように、尻軽オンナ扱いだ。
言葉に救われて生きてきたのに、言葉におとしめられる皮肉。
殴られた記憶というのは、心の中で思った以上にしぶとくくすぶる。

***

こわくて逃げたら悪いのかと、都は朔久さくに食ってかかる。
彼は同じ男子でも毛色がちがうと思い始めていたから、余計に反発を覚えた。

「才能があるのに闘わないのは、傲慢ごうまんですね」
何も知らないくせに、グサグサ核心を突いてくる。
如才じょさいのなさや腹に一物いちもつ抱えていそうなところ。もう全部が鼻につく。

売り言葉に買い言葉で、都は朔久の提案を受けて立つことに。
どうころんでも、恋愛にはならないと証明するためだ。
実験に臨むにあたり、ふたりは三つの掟を定めた。
1、キスはしない
2、避妊は絶対条件
3、好きになったら、負け

なんの因果で、闘争心をみなぎらせパティスリーミナモトを後にすることになったのか、当の本人にもよくわかっていなかった。

(つづく)
▷次回、第12話「朔久のおもてなし」の巻。



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