Re:逃走癖女神 ⒉彼女の弱点 連載恋愛小説
約束に遅れる男って、どうなんだろう。その時点で、ナイ気がする。
「ほら。コーヒーでも飲んで、もう少しだけ待ってもらって」
紗英の夫・住吉重忠は、界隈ではおそれられる凄腕プロデューサーだ。
が、今はその見る影もなく、大きな体を丸めて都に愛想笑いをしている。
新進気鋭だか若手実力派だか知らないが、仕事相手に対する敬意に欠ける。
帰ります、と言い放ち、都は会議室を出た。
重忠が追いかけてくるのは予想できたので、機先を制する。
「冗談ですよ。お手洗いです」
トイレを通り過ぎ、都はエレベーターに直行する。
待っていたかのように、扉が両側に開いた。
***
「あ…すみません」
正面衝突する勢いで飛び出てきた男が頭を下げ、走り出した。
なんとなしに目線を向けると、相手は急ブレーキをかけ振り返る。
直感的に、都は閉じるのボタンを押した。
「椎葉都さん、ですよね」
瞬間移動でもしたのかと思った。
彼は肩でドアをこじ開け、荒い息を整えようとうつむいている。
「ちがいます」
微動だにせず即答する、その落ち着き払った態度が、かえって認めたことになってしまったようだ。ぬかった。
***
平身低頭でひとしきり謝罪したあと、園田朔久は一歩踏みこんできた。
「出てください。下りるんで」と都。
「渇きませんか、喉」
今この瞬間、水分を欲しているのは、そちらさんでは?
不審がるなというのが、無理な話だ。
「パフェ食べませんか。打ち合わせのあと」
たべる、と自動的に答えてしまったのは、紗英以外の人間とまともに交流してこなかったツケだろうか。
表情ではわからなかったが、釣れたな、と思われた気がする。
(つづく)
▷次回、第3話「攻めたプロジェクト」の巻。
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