もう大丈夫
一度だけ、あきらが抱いてくれた。
私の方から、一方的にお願いした。
あきらは18才で結婚して、奥さんも子供さんもいる。
なのにただ、ごねるようにお願いした。
今は幸せに優しい旦那様と暮らしている。
一応、主婦してる。
この私がだよ。
今、あきらとあったらこう言うよね。
「笑っちゃうよ」って
そして「太ったなぁ」って
「いいの幸せ太りなんだから」
旦那様と知り合う10年前は、
あきらの面影だけで生きていた。
旦那様と知り合えて、やっとあきらの死を受け入れたみたい。
でも、会いたいよ。
もう亡くなって、ちょうど20年。
「あきら」と言葉にするだけで、ホロリと涙が溢れてくる。
「あきら、痛かった?苦しかった?」
「あきらのバカ」
「奥さんも子供さんも悲しんだんだよ」
「私もものすごく、泣いたんだから…」
妹のように可愛がってくれたね。
家出している私は行く場所がなかった。
あきらはあきらの実家に私をおいてくれた。
夜中、イヤな気分で「ハッ」と目が覚めた。
と同時に電話がなった。
おばさんが受話機を取る。
「れいちゃん」
「おばさん、どうしたの?」
「あきらが死んだよ。バイク事故だって」
言葉がでない。
「すぐにすぐに行かなきゃ」「まだまだ、生きてるよ」
平気でそう思った。
おばさんとタクシーで病院へ向かった。
身体が震える。
「運転手さん、早くお願い」
奥さんも来ていた。
泣き崩れるように、泣いていた。
私もなりふり構わず泣いた。
大声で。
奥さんが側へ来て、抱き合って泣いた。
「本当は、れいちゃんのことが・・・」
終わった。
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