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熱海ぶらぶら歩き


初めての熱海

 子供の頃から静岡県の下田などには海水浴で訪れたことがあったが、東京からほどちかい温泉地・熱海にはなぜか一度も訪れる機会がなかった。下田に行くよりも、はるかに近いというのに。行こう、行こうと思いつつ、いつどでも行けるという気軽さも邪魔していたのかもしれない。
 社員旅行の温泉地として栄えたのちに、一度は廃れた温泉街。それがいつの間にか復活し、今では若い人たちが結構訪れているという。確かにJR東海道線に乗っていると、旅行鞄や小ぶりのキャリーケースを携えた若い女性たちやカップルに出会うことが多い。大きなリュックサックやキャリーケースを持った外国人客も見かける。
 それほどまでに旅行客を惹きつけるとは、いったいどんな街なのだろうか。思い立った時に行ってみよう。

モデルコースから選択

 とはいえ、ガイドブックを持ちあわせていなかったため、インターネットで検索してみると、熱海市観光協会公式観光サイト「あたみニュース」というのを見つけた。ここでは、観光スポットの他、モデルコースが24件設定されている。その中から「来宮から始まる下り坂の熱海半日コース」というのを選んでみた。

熱海から下田方面にひと駅のJR来宮駅

 熱海駅のひとつ先が「来宮(きのみや)駅」である。人でごった返す熱海駅だと、ウロウロしてしまう。それよりは人の乗降が少ない駅のほうが、初心者としてはなんとなく心が安い。無人駅というのもひなびた温泉街に来た感じが出ていいではないか。
 熱海周辺はきつい坂道が多いのだが、「下り坂」というのは一つの魅力だったし、神社などをめぐりながら海岸線を抜け熱海駅まで行く半日コースというのも決め手になった。

駅から徒歩3分の来宮神社からスタート

 来宮神社は、JR来宮駅から徒歩約3分。熱海方面に少し戻る形で道なりに歩き、最初の信号を左に曲がるとすぐに神社の鳥居が見えてくる。ここは縁結び・健康長寿・商売繁盛・金運といったご利益があるそうだ。

来宮神社。熱海郷の地主の神として来宮の地に鎮座し、
来福・縁起の神として古くから信仰されている神社。

 が、なんといっても本殿のすぐ裏手にある2100年を超える樹齢の御神木、大楠が圧倒的な存在感を放っている。来宮神社の由来によると「古くからこのまわりを一周するごとに寿命が一年延びると伝えられ、廻った人は医者いらずといい、一名不老の楠とも呼ばれている」とのこと。昭和8年に文部省(現・文部科学省)より国定の天然記念物に指定されている。

樹齢2100年を超える御神木、大楠

 巨大な楠は幹周が23.9メートル、高さ26メートルもあるそう。幹のまわりを一周する人が続くので、一瞬立ち止まって写真を撮るのが精一杯。だが、楠の周辺にはいくつか撮影スポットがある。中でも立ったまま御神木を見られる「背もたれベンチ」が個人的には秀逸に感じた。少し後ろに傾斜しているベンチにもたれかかると、無理に見上げなくとも御神木を眺めることができるのだ。

海を目指しつつ来宮の街を散策

 神社においてあった「来宮神社ぶらりMap」を手に、海岸に向かってぶらぶらすることに。途中には、熱海温泉の神が祀られている「湯前神社」があり、その斜め向かいには「大湯間歇泉(おおゆかんけつせん)」がある。

749年(天平勝宝元年)創建の湯前神社。海底から熱湯が噴出し、甚大な被害を受けた漁民を悲しんだ箱根の高僧・万巻上人が薬師如来に祈祷。海中にあった泉脈(大湯)を熱海の山里へ移し「お社を建てて拝めば現世も病を治す、来世も幸せに暮らせる」と説いたと伝えられている。
湯前神社の斜め前にある「大湯間歇泉(おおゆかんけつせん)」
現在は配管故障のため、人工的な湯の噴出は休止中

 こちらは熱海七湯のひとつで、「昔は『大湯』の噴出が昼夜6回あり、蒸気を交互に激しい勢いで吹き出し、地面が揺れるようであった」と「あたみニュース」に紹介されていた。現在は5分毎に人工的に湯を噴出して当時の様子を再現しているとあったが、残念ながら訪れた際には配管の故障で見られなかった。
 桜の咲く頃や初夏のブーゲンビリアが美しい時期であれば、海を目指しながら川沿いに整備された道をのんびり散策するのも楽しそうだ。ちょうど訪れた日は日中の気温35度の猛暑日。普段からあまり汗をかくほうではないのだが、さすがに汗だくである。

観光客が心地よく過ごせる浜辺

 だが、海が見えて来ると心がぱっと華やぐ。砂浜に下りずとも海を眺めることができるデッキが海沿いにずっと設けられているのがうれしい。熱海海上花火大会があるからだろうか、デッキが3階層になっていて好きな高さから眺められる。海に突き出す形のデッキ(ムーンテラスというらしい)もあり、かなり充実している。

好きな高さから海を臨められるデッキ
広々としたムーンテラス。花火大会時には、多くの人でごった返すのだろうか。

 そのうえ、いたるところにベンチが設けられている。海水浴客だけではなく、海をただ眺めたいという人も、のんびりと過ごせるようになっている。それぞれのスタイルで思い思いに過ごせるようになっているのは、いい。あたみニュースによると「夜は、世界的な照明デザイナー石井幹子氏が手がけた日本初のビーチのライトアップで幻想的な景色が楽しめ」るのだそう。
 しかもゴミ置き場や、砂を落とすための足洗い場などもあった。海沿いには多くのホテルが建っているので、こうした宿泊客のためなのかもしれない。にくい配慮である。

少し見えにくいが、左側がゴミ置き場、右側の人が何人かいる場所が足洗い場

活気溢れる商店街

 浜辺で遊ぶ親子を眺めたり、海風にあたりながらさざ波の音に癒されたあと、帰路に着くことにした。
 駅の近くには、平和通り商店街と仲見世通り商店街という2つの商店街がある。どちらもアーケードがあるので、雨の日でも安心してぶらぶら歩きができるようになっている。商店街はそれなりの道幅があり、道の中央にはベンチも点在しているので、小休憩ができるのもうれしい。

そぞろ歩きを楽しむたくさんの観光客

 それなりに賑わっている観光地でもシャッター街になっているところもあると聞くが、熱海の商店街はどちらも盛況のようで、人がたくさん歩いていた。駅にほど近いことも、ひとつの原因かもしれない。
 熱海はさほど大きな市ではないが、まだまだ多くの見どころがある。これを機に、また訪れてみたい。そんな気持ちになった初めての熱海であった。

<参考URL>
あたみニュース
https://www.ataminews.gr.jp/



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