【極超短編小説】タッチ
雲ひとつない空。容赦ない日差し。
太陽はもうすぐてっぺんに到達しそうだ。
歩き出して1時間ほどになる。僕は始めから彼女の数歩ななめ後ろ。二人の距離は変わっていない。
ふと風が通り過ぎて彼女の髪がフワッとなびいたり、時々彼女から煙草の匂いが流れ出たり、ずーっと彼女が鼻歌を歌っていたり。飽きない道程だ。
ただ彼女の鼻歌のボリュームが大きくなりすぎる前に、僕は彼女の後頭部にチョップを入れるようにしていた。
商店街を抜け、住宅街を越え、いくつかの街を過ぎ、橋を渡り、そして目的だろう鉄塔が近づいてきた。
朽ちたフェンスを乗り越え、鉄塔のすぐそばにふたりは並んで立ち止まった。ペンキが剥がれた、錆びた鉄塔の地肌にタッチしたのは、ふたり同時だった。
見上げると、鉄塔の先端はすでに紫がかった空の中に溶け込んでいた。
帰り道、僕が自分の鼻歌に気づいた瞬間、ななめ後ろを歩く彼女からキックをくらった。