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【極超短編小説】仕事とは

 仕事のため私は今日も地下通路を歩き出す。『鉄塔』地下の制御室へ向かうのだ。
 幅2500㎜、高さ2500㎜、断面が完全な正方形の地下通路は、完全な直線で制御室へ延びている。
 天井、壁、床はムラのない白色で、どこにも継ぎ目がない。天井には2500㎜間隔で照明が埋め込まれている。
 通路はとても長く、終点の制御室が見えないほどだ。



 私の仕事は私ひとりで行い、私にしかできない。ひとりの前任者から引き継ぎ、その前任者もひとりの前任者から引き継いだ仕事だ。
 無音の長い通路では背広の衣擦れと靴音だけが今日も同じリズムで響く。そしてこの一定のリズムは今日も私の心身を鎮静させ、頭の中での仕事の手順の確認を容易にする。



 制御室の入り口に到着。壁のコンソールで顔、指紋、静脈、光彩の生体認証が完了すると、扉がゆっくりと静かに開く。
 制御室は横幅400㎜、奥行き400㎜、高さ2500㎜。入り口正面の壁に制御盤が据え付けられ、その前には背もたれのない丸い座面の椅子が固定されている。
 私は椅子に座り、制御盤に向かう。制御盤にはデジタル時計が埋め込まれ、手元に青いボタンが一つと赤いボタンが一つ配置されている。


 デジタル時計が『23時58分』を示した瞬間、私は青いボタンを押し、続いて赤いボタンを押した。
 今日も仕事はトラブルなく完了した。
 


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