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さようなら、心の友 ~~40年間ありがとう

朝から真っ青な空が広がっている。雲ひとつない澄んだ初冬の空。こんな日なら、あなたとも気持ちよくさようならができそうだ。

ほぼ40年になるだろうか。出会ってからの日々が脳裏を駆けめぐる。
友人が一人暮らしのわたしの部屋に、あなたを置いていったあの日、こんなにも長くあなたとの日々が続くなんて思ってもみなかった。

わたしはすっかりあなたに依存し続けてきた。
心も体もあなたから離れられなかった。
あなたはわたしの友だった。
常にわたしを癒し、なだめ、励まし、勇気づけ、ときには画期的なアイデアを思いがけない形で運んできてくれた。煮詰まった頭を整理し、スッキリさせて、次の一歩を歩ませてくれた。わたしの大切で大事な相棒。
深緑でスリムな、爽やかさん。

そんなあなたと別れなくてはならないなんて、いまもって納得できているわけではない。けれども、生きるために、これからも自力で生活していくために、それが必要だ、いや必須だというのはたぶん、大方の人の共通意見だろう。

頭では理解できている。けれども、心がぐずくずと不平不満を漏らすのだ。結局、ほとんど1カ月の間ズルズルと、この日を先延ばしにしてきてしまった。

もう、限界かもしれない。ここでまた決断を先延ばしにしたら、わたしは一生、あなたと離れられないだろう。実際、過去には強い決意のもとに別れていたにも関わらず、思い出すことさえほどんどなかったというのに、気づいたときには縒りを戻していた。

泣く泣く別れ、もう絶対に合わないと誓い、わたしはあなたと離れたことの自由さえ感じていた。別々の道を歩み、もう一生交わらないつもりだったのに、あるとき急にあなたに合いたくて合いたくてたまらなくなった。
そんなことを凝りもせず、二度も繰り返している。

再び同じ過ちを繰り返さないとも限らないけれど、今度こそはと、わたしはわたしに言いきかせる。
死ぬよ。動けなくなってもいいの? 話せなくなるかもしれないんだよ。

青い空を見上げる。小春日和の柔らかな陽差しが眼下に広がる家々に降り注いでいる。
これが最後。ついに最後。最後の1本。

ベランダに出て、そっと唇を寄せる。この感触もこれが最後だ。
東京タワーを見つめながら、火をつけた。
おそるおそる吸い込んだ。
たった三口でクラクラしてくる。別れを前に、徐々に本数を減らしてきたおかげだろう。

さようなら。これで終わりね。
深緑でスリムな爽やかさん。KENT Sシリーズメンソール  タール1㎜g ニコチン0.1㎜g

こんなに軽いんだからさぁ、1日1本くらい、いいじゃんねぇ。大丈夫じゃね?
いやいやいやいやいやいや。。。。。
脳内で囁く誰かの声を打ち消すように、ピィッと鳴いて小鳥が3羽、飛んで行った。

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