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【読書記録】生きるぼくら/原田マハ

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第2回徳間文庫大賞受賞

いじめから、ひきこもりとなった二十四歳の麻生人生。
頼りだった母が突然いなくなった。
残されていたのは、年賀状の束。
その中に一枚だけ記憶にある名前があった。
「もう一度会えますように。私の命が、あるうちに」
マーサばあちゃんから? 人生は四年ぶりに外へ!
祖母のいる蓼科へ向かうと、
予想を覆す状況が待っていたーー。
人の温もりにふれ、米づくりから、
大きく人生が変わっていく。

Amazon概要より

冒頭から引き込まれる、不思議な文章!

「痛いような空腹」で主人公・麻生人生が目覚める場面から物語は始まります。
そこで彼が、今の自分とは全く異なる「ふつうの人間」へ想像を膨らます場面。この一文がなんだか私にはとっても印象的でした。

ふつうの人間は、どんなふうに眠りから覚めるのだろうか。窓の外の小鳥のさえずりとか、カーテンの向こう側が明るくなってとか、自然に目覚める人もいるだろう。目覚まし時計の鳴り響く音、タイマーセットした携帯電話のメロディ、テレビのニュースの声、香ばしい朝食の味噌汁の匂い、母や妻や子供、家族の声が起こしてくれるものだろうか。おはよう、朝だよ、早く起きて。学校に、仕事に遅れるよ。もうご飯できてるよ、さあ、起きて一緒に食べようよ。

P5

自宅に引きこもっているにしては、非常に豊かな想像力。
彼自身が見聞きしたことから想像を膨らましているだけではなく、もしや彼自身の回想なのでは、と思ってしまうような場面でした。

始めの1ページから、彼の生い立ちや経緯に興味が湧き、いっきに物語に惹き込まれる場面となっています。

1~2章では、人生が4年間の引きこもり生活をするに至った、痛々しい経緯が描かれていますが、ここはいっき読み必至です。
読んでいて辛いんだけど、どんどん先が気になる。
原田マハさんの文章に、時間を忘れるほど没頭している自分がいました。

壮大な自然を誇る蓼科、そこで暮らす人々

幼少期に多くの時間を過ごした蓼科に暮らす、マーサおばあちゃんに会うため、思いきって4年ぶりに外へ出た人生。彼を待っていたのは、壮大な自然の中で暮らす温かい人々でした。

自然豊かな地域、決して便利に暮らせるとは言えない閉鎖的な地域で、お互い支え合いながら生きてきた人々。
当たり前のように、よそからやってきた若者(人生)にも手を差し伸べる人々がいました。

裏を返すと、便利な地域であればあるほど、こういった人同士のつながりは希薄になりがち。暮らしやすさと住人同士の関係性は比例していそう。

米づくりを通して再生した主人公の「人間力」

物語前半で、人生は蓼科でマーサばあちゃんと暮らし、おばあちゃんの米作りを受け継ぐことになります。米作りの過程が丁寧に描かれている今作品。私達が炊飯器に入れて炊いている、あの状態になるまでに、いくつもの工程をへること、実に約1年間。

この間のお米の成長が力強く描かれていて、また現代の日本で米作りに携わる者の現状にも触れられており、その苦労や苦悩に胸が痛くなります。

米作りに携わることで再生していった人生。彼のこの1年間の成長も目をみはるほど。

学生時代のいじめ、4年間の引きこもりがあった彼ですが、それ以前に幼少期を過ごしていたこの蓼科という地で、人生はしっかりと人間としての土台を作っていたのだと思います。
だからこそ、引きこもっていた家から一歩踏み出すことができ、親切な人々を自分のもとに引き寄せることができた。

彼の「人間力」はきっと、この蓼科で培われたものなんですね。

日本の”主食”を生み出し続ける苦労と、そんな土地で暮らす人々の温かい暮らしに思いを馳せずにはいられない作品でした。

人生の背中を押した「母」の存在

人生が1人で蓼科へ出ていくきっかけをつくった母の存在。
引きこもりの息子を1人置いて家を出た彼女の不思議な決断。

人生の母は、どうして彼を置いて出ていくことができたのでしょうか。
彼が蓼科で再生することが分かっていたのでしょうか。

今は分からなくても、
私ももっと、子どもたちと長く過ごしていけば、このときの人生の母親の決断の意味が理解できるようになるのかな、そうだといいなと思い、本を閉じました。

この他にも、マーサおばあちゃんが患う認知症、血のつながらない妹・つぼみの存在など、簡潔には語り尽くせない、たくさんの要素が含まれていて、あらゆることを考えさせてくれるものでした。

ときには考えさせられ、ときには心温まり、感極まる場面がいくつもあった本作品。
気になった方は、ぜひ手に取ってみてくださいね。

読んだことのある方は、コメントで感想を教えていただけるとうれしいです^^

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