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【読書記録】答えは市役所3階に/辻堂ゆめ

こんにちは!
年末が近づき、だんだんと慌ただしくなってきた12月下旬。
読書ペースも落ち気味で、書店へ行っても積読の存在が頭をよぎり、なかなか本をレジまで持っていけません・・・

思いっきり買って思いっきり読みたい、ストレスフルな日々を過ごしています~^^;

今回ご紹介するのはこちらの作品です。

コロナ禍がもたらした、幾つもの「こんなはずじゃなかった」。市役所に開設された「2020こころの相談室」に持ち込まれるのは、切実な悩みと誰かに気づいてもらいたい想い、そして、誰にも知られたくない秘密。あなたなりの答えを見つけられるよう、二人のカウンセラーが推理します。最注目の気鋭がストレスフルな現代に贈る、あたたかなミステリー。

Amazon概要より

コロナ禍の2020年、あのときどこかにいた、誰かの物語

2020年の、とある市役所で働くソーシャルワーカーのところへ相談へやってきた人々にまつわる短編集です。

2023年も終わろうとしている今、気づけばあの前代未聞の事態から3年が過ぎようとしています。

・ダイヤモンドプリンセス号での感染拡大
・飲食店に対する休業要請
・医療従事者やその家族への差別
・著名人の感染死

など、あのときの実際の出来事にも触れられていました。率直に、そういえばそんなこともあったなと、この作品を読んで思い返すことも多々あり、

あんなに大変なことが起きていたことを、既に忘れかけてた自分がいました・・・

この作品には、コロナによって人生を台無しにされてしまったさまざまな相談者たちが登場します。

これらもきっと架空ではなくて、あのとき、きっとどこかにいたであろう人たちのことを描いているんだと感じました。

あのとき自分は毎日何を思って過ごしていたかも、正直よく覚えていません。「大変」だったことに間違いはないんだけど・・・

長い長いコロナ禍をようやく乗り越えた現在ですが、決してあの出来事を風化させてはいけない、あのとき苦しんだ人たちが大勢いたことを忘れてはいけないと、この作品は教えてくれました。

「相談に乗る」とは?「カウンセリング」とは?

舞台となっている市役所で、市民の相談を聞くカウンセラーたち。
彼らが相談者たちの話を聞いていく場面が非常に印象的です。

「諸田さんがそう思うなら、それが正しいんだよ。もっと胸を張って、自分を信じてあげましょう」
肯定でも否定でもない、曖昧な言い方だった。奥の席で、正木も同意するように首を縦に振っている。
それを見て、やっと気づいた。
カウンセラーとは、答えを出さないプロなのだ。
自分の意見を決して言わない。世間の常識や、多数派の見解、物事の真理を教えてくれるわけではない。真之介と愛花、どちらが正しかったのかを示してはくれない。悩んだ末にここにやってきた、ありのままの相談者を受け入れ、そばに寄り添おうとする。だから、強い口調でたしなめたり、考え方を無理やり正そうと叱ったりすることもない。

P100

「つくづく思います。カウンセラーって無力だなぁ、と」
「晴川さんが以前、教えてくれたじゃないですか。カウンセリングとは、相談者が自分自身と対話する場なのだと。私たちはただ、彼らを映し出す鏡になればいい」
「ええ。限りなくピカピカに、いつでも磨いておきたいものですね」

P263

私がこれまで友人や家族に対してやってきた「相談に乗る」という行為は、相手の問題を解決しようと「答え」を出してあげることでした。

カウンセリングに詳しいわけではないので、専門家の行う正しいカウンセリングまでは分からないのですが、彼らがやっているカウンセリングは、話を聞いて寄り添う。あくまでここまで。

何か思い悩むことがあったとき、どうすればいいか分からなくなったとき、実は自分の心の中では答えが決まっているのかもしれません。

だけど勇気が出なくて、本当は誰かに背中を押してもらいたいだけ。
だから彼らに必要なのは、誰かに答えを出してもらうことではなく、今の自分に寄り添ってもらうことなのだと。

この2人のカウンセラーたちを見ていると、「相談者の悩みを解決する」ことではなく、「相談者が次の行動へ一歩踏み出す後押しをする」ことが本当のカウンセリングなのかもしれないなと思いました。

プロのカウンセラーたちまではいかなくても、身近な人がもし自分に相談をしてくれたら、今度は彼らに寄り添って、後押ししてあげられる、相手を映し出す”鏡”のような存在でいたいなと思います。

相談者たちの”ちょっとした違和感”

この小説、ここまで述べてきたような、ただ心が温まるだけの物語だけではないんですね・・・。

実はここに登場する相談者たちは、カウンセラーにも打ち明けることのなかった”ある秘密”を抱えていました。

カウンセラーの晴川は、相談者たちの”ちょっとした違和感”を見逃さず、彼らの秘密を突き止めていきます。

その”秘密”の内容が実に驚きと切なさに満ちていて・・・。

概要にも「あたたかなミステリー」とありましたが、相談者たちの真相に迫っていく部分は読み応えバッチリ。
「そういうことだったのか~」となること間違いありません!

こちらの作品、気になった方はぜひ手に取ってみてくださいね。
読んだことのある方は、コメント欄で感想を教えていただけるとうれしいです^^

今年最後の記事は、今年読んだおすすめ作品をピックアップして紹介したいですー♪

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