枕新作「サクラノ刻」プレイ後感想

 美少女ゲーム制作会社である「枕」の新作「サクラノ刻」をプレイし終えた。すかぢ先生本当にお疲れさまでした。そしてこの大作を世に出していただきありがとうございました。
 この「サクラノ刻」は同社前作「サクラノ詩」の続編にあたる。このシリーズは3部作を予定しているため、今作はシリーズ2作目にあたる。1作目が2015年10月に発売していることから、今作は7年以上が経過している。続編であるため、当然登場人物が重なる。この7年という時間経過が声優陣に与える影響は、素人目に大変そうである。このことはエロゲを愛しているVtuberである餅月ひまり氏も指摘している。同氏はまた、3作目が発売されるまでの期間が何年になるかが不明であるため、そのことについても声優陣を心配していた。完全に同意である。
 さて本シリーズは、幼少期に神童とよばれた画家が主人公である。1作目では学園から社会人までの展開を描き、本作2作目では学園の教員となった主人公を描く。主人公の親父は世界的な画家であり、シリーズ1作目で死亡する。この死に関わる一連の物語が後の展開に大きく影響を与える。この影響は様々な個人や組織の思惑を招き、とんでもないところまで波及する。本作2作目では、登場人物それぞれが各々の想いを胸に行動し、その想いをすべて受けた主人公が最後の舞台に立ち、あらゆる思惑に一定の決着をつけた。
 細かい描写を書き始めるとキリがないため是非プレイしていただきたいが、本作の大きな特徴は「想いの重なり」であると思う。
 ある事象に対し、登場人物それぞれの視点や感情を丁寧に描き、それが油彩のように重なっていくことで、俯瞰して観た物語の像が変わっていく。段々と厚みと色彩の豊かさが増していく感覚は終盤に近付くにつれて強くなり、物語完結時には一枚の壮大な大作の絵画を鑑賞したような充足感に満たされる。
 本シリーズはファンタジー展開もあり、徹頭徹尾リアルな人間ドラマというわけではない。しかしユーザーに繰り返し突き付けられるのは「理想に殉じる勇気」である。自分が抱く理想或いは夢を実現させるために何を犠牲にできるか。本気で理想に到達しようとする本作の登場人物の姿は、夢破れたすべての人間の精神に突き刺さる。また、挫折についても克明に描写されている点も印象的である。自分を圧倒する存在と対峙したとき、積み上げてきたすべてが瓦解する感覚。それは自己の根本を否定されるような恐怖であり、これも多くの人が体験したものであろう。
 才能あふれる登場人物だけではなく、夢破れ平凡な日常を送るキャラクタたちもたくさんいる。当たり前であるがそういう人間が大半を占めるのが普通であり、そういった人物たちの目線も物語に深みを与えている。凡人も凡人なりに四苦八苦し、生きているのだ。
 取り留めない文章になってしまったが、本作はすかぢ先生の魂を巨大な絵画にしたような作品に仕上がっている。もちろんシリーズ作であるため、1作目と2作目をプレイしていないと全体像は見えてこないが、その価値は十二分にある。クリエイターの魂を感じることが出来る作品は非常に稀であり、そういった作品に出会えたことが幸いである。残りのエロゲ人生において、あと何回出会えるだろうか。少なくとも本シリーズは3部作構想であるため、シリーズ最終章を何年後かはわからないがプレイできるであろうと期待している。
 大手ブランドが姿を消していくエロゲ業界であるが、今でも名作は確実に制作されている。そういった名作と出会える喜びを噛み締め、私はこの業界が消滅するまでユーザーとして関わっていきたい。


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