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難病だと発覚した義母の話6

2016年5月〜

『話がある、集まってくれ』
義父に言われ、義妹の家に私と旦那は集まった。

『俺は前立腺がんなんだって。レベル4なんだって』

がっくりと項垂れた義父はそう言った。
駅前の泌尿器科で診てもらっていて、そう言われたのだと。

大きい病院の紹介状を書くから、どこの病院がいいのか決めてきて、と言われたが、どこがいいか?

そういった話だった。

数年前に義父の弟が前立腺がんで亡くなっていた。
まだ50代で若かった為、進行も速く、ガンの発覚から亡くなるまであっという間だった。

その義父の弟が診てもらっていた病院でいいんじゃない?
病院に関してはあっという間に決まった。

この話、もったいぶってもなんも何にも面白く無いから結論から書いちゃうと…ただの『がん疑い』の段階だった。
ただの、なんて言っちゃいけないか、実際に癌ではあったし。
『がんの疑いがあるから、大きい病院で診てもらってね』って話だったんだけど、義父は耳が悪いのと、数年前に亡くなった弟の事や、元からネガティブな方向に考えやすい思考回路…色んな要素が重なり
『俺は末期癌で弟と同じように亡くなるんだ』
としか考えられなくなっていた。

自分は末期癌なのだと信じて疑わず、最近、明らかにおかしい妻のことをよろしく頼む…
それを伝えるために私達を招集したのだった。

今の私達ならば、義父の言うことを鵜呑みにせず、ちゃんと確認していたかもしれないが、当時は私達も『マジか〜、末期癌…』と衝撃を受けた。

早急に義母の事もどうにかしなきゃいけない…という空気になった。

義父がいなくなったら、あの家に義母を1人では置いて置けない。

ちょうど『物忘れ外来』のある病院を探してみようと思っていたし、義母の夜になると活発になる珍行動を思えば、いざとなれば薬の調整などで入院をさせてくれるような病院が良い。

幸い、車で行ける範囲に2つ病院があった。
1つは自転車で行けるほど近い『認知症専門』の病院。
もうひとつは車で30分ほどの『心療内科専門』の病院。

どちらがいいのか…数日後にいつもの心療内科の受診がある。
先生に事情を話して、どちらの病院がいいのか聞いてみたい。
でも、義母の前で義父の病気のことは話したく無い…

そこで、私は病院に電話をして、本人抜きでお聞きしたい事があるので、診察の前でも後でも、なんなら別の日でも良いのでお時間を作っていただけないか、と聞いてみた。

まずはあっさりと『無理ですね』と言われた。
でも、こちらも引き下がるわけにはいかない。

本人と同居している父が癌になり、もしかしたら入院などする可能性がある事、いつも診察で先生に『寝ていますか?』と聞かれ、本人は『寝てます』と答えるけれど、ちゃんと寝れていない事、眠剤出されているけど、全然効いている様子がない事、そもそも、先生との診察で本人はちゃんとしている事を装っていて、何にもできていない事、せっかく家族が付き添っているのに、家族に何も聞いてくれない事、その辺の事がわかれば薬なり、対処なり変わってくるんじゃないのか?
その辺も含めて、別の病院の事を相談したいので!

一生懸命説明したが
『ご本人の了解が得られれば』なんて言われ
『だから、本人には知られたくないんです!』
『無理ですね』

受話器を投げたい衝動を抑え、お互いに無言の時間が少し流れる。
向こうも何も言わない。

あぁ、向こうからすれば、私ってきっとモンスターなのね、これってモンスターに対する対応なんだわ。
そう思ったら吹っ切れた。

『もういいです。紹介状はお願いすれば書いてもらえますよね?』
自分でもびっくりするぐらい低くて掠れた声が出た。

『そうですね、先生におっしゃっていただければ』
『それぐらいは伝えていただけませんか?診察が終わったら早く帰りたいので』
しばらくの沈黙ののち、
『わかりました』

そこで私は電話をブチ切った。
『よろしく』も言えなかった私は、やっぱりモンスターだったんだろうな。

5月18日 いつものクリニック受診日
ものすごくいい天気で、午前中に小学生の娘のバスケの親善試合を見に行っていた私はほんのり日焼けをしてしまった。

この日は旦那が休みで、旦那が義母を迎えに行ってくれた。
私も車に合流して、義母を見てギョッとした。

なんと日焼けするほど暑い日なのに膝ぐらいまでの長さのロングダウンコートをきっちりと着ていたのだ。上まできっちりとチャックを閉めている。

『お義母さん、暑くない?ダウンコート脱ごうか?』
暑そうにしている様子も無かったけど、さすがにこれは…
『うん?大丈夫よ』
にっこりと答える義母。
息子が迎えにきてくれたのが嬉しかったのか、義母はご機嫌だった。

本人が暑くないなら、このまま診察室に入るのもアリだな、と思った。
一目見れば異常な事に気がつくでしょ?

ところがそんなところには一切触れる事なく
『家事は出来ていますか?』
『食事は取れていますか?』
『夜は眠れていますか?』

呆れて笑ってしまうぐらい、いつもと同じ。
前回のモンスターな電話の事は聞いてないのかな?ってぐらい、いつもと同じ。

『眠れています』と義母が返事をしたため、そこは薬に関わる事だから
『毎晩、隣の部屋で動いている気配があるそうです』と伝える
『夜は寝たほうがいいですね、眠剤を出しておきます』
ほんと、バカにしてるよね。いつもといっしょ。
何この茶番。

さて、受付から聞いてないのなら、紹介状お願いしなきゃな…と思っていたら

『紹介状、ですよね?宛先はどこの病院になりますか?』
と聞かれた。
聞いてんのかーい!それでもいつもと同じ診察なわけね、へぇー。

結局1人で考えて悩んだ結果、実家の近くの方の『認知症専門』のH病院へ紹介状を書いてもらう事に決めた。

『はい、では結構ですよ』

この先生は、マニュアル通り(?)患者に聞くべき事を聞いた後、こう言って患者を退室させる。
この上から目線の『結構ですよ』が本当に腹が立つ。
私はえらいお医者様ですよってか?
義母は鬱になった2013年からこの先生に診てもらっていたわけだけど、3年間、本当に無駄だったねって思う。

私は確か4回しかこの先生に会わなかったけど、本当にひどい医者だったと思う。
むしろ医者じゃない。
なんか書いていたら当時の事を思い出してムカムカしてきた。
義母の世話をしていた6年間、本当にたくさんのお医者さんにお世話になったけど、1番最低な医者だった…いや、もう1人いたなぁ…
まぁ、それはもう少し先のお話。

ともかく、この相性の悪かった心療内科とは別れを告げ、2日後の5月20日、H病院を受診する事になったのだった。




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