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「サマータイムミュージックの天下統一」を成し遂げた男、ジャック・ジョンソンは冬に聴くのがオツである。

「夏」というのは、待ちわびている期間が一番尊い。

海だ花火だ夏フェスだってワクワクしながら、冬のうちに新しい海パンや水着なんか買っちゃったりなんかしちゃって。

けど、いざやってくると「やっぱ暑ちぃ〜な〜」って思って、外に出ようとすると「熱中症が」「日焼けが」ってメディアに横槍を入れられて嫌気がさしちゃったりする。そして、冷房の効いた部屋でダラダラ過ごしていたら、いつの間にか夏は過ぎ去っている。

人はそんな「結局何もしなかった夏」が積み重なってオジサンやオバサンになっていく。

要するにあらゆるサマーソング、サマーミュージックというのは、結局夏の真っ只中には聴かずじまいで、「早く夏来ないかなぁ」「はやく海行きたいなぁ」と思っている時こそが実は聴き時なのである。

関東でも久しぶりに雪が積もった今年の冬は特に、人々のあたたかい春と夏への渇望が溜まりに溜まっているはずである。

そんな身も心もこごえるあなたにオススメなのなが「冬に聴くジャック・ジョンソン」 である。


サーフィンのメッカ、ハワイのオアフ島ノースショアで生まれ育ったジャック・ジョンソンは、幼少期からサーフィンに親しみ、高校生でquicksilverとプロ契約を交わすほどの実力を持つ将来有望なサーファーだった。しかし17歳の時にサーフィン生命どころか生命そのものを左右するほどのサーフ中の大怪我を経験。それを機にジャックはサーフィンの実働ではなく、音楽や映像制作へと活動をシフトしていくことになる。

カリフォルニア大学を卒業後、ジャックは24歳の頃にサーフドキュメンタリー映画『Thicker Than Water(シッカー・ザン・ウォーター)』を製作。監督、撮影はもちろん、作品内のBGMのほとんどをジャックが担当した。とりわけ注目を浴びたのはジャックが制作したBGMで、それにいち早く目をつけたG・ラヴ、そしてベン・ハーパーのフックアップにより2001年に1stアルバム『Brushfire Fairytales』を発表。全米でミリオンヒットとなる。
そして2005年発表の3rdアルバム『In Between Dreams』は全世界で累計500万枚以上(アコースティックアルバムとしては異例)を売り上げる大ヒットとなり、ジャック・ジョンソンは一躍「サーフミュージックの王」となる。
極東日本のド田舎、雪国の山間部の私の地元ですら、友人の間でCDが貸し借りされるほどの、社会現象に限りなく近い世界的ブレイクだった。

ジャック・ジョンソンが登場する以前の「サーフミュージック」というのは、ディック・デイルやベンチャーズみたいにエレキギターがチャンチャカチャンチャカ鳴っているのが定番だったのだが、本当のガチサーファー達が熱心にそれらを聴いていたかと言えば、だいぶ怪しかった。

ジャック・ジョンソンの音楽はアコースティックギターでのアルペジオと弾き語りを主体としたオーガニックなサウンドで、それまでのハイテンションなサーフミュージックとは真逆の、ミッド〜スローテンポのリラックスミュージックだった。

「週末に趣味程度に波乗りします」みたいな一世代前までのミュージシャンが作ったサーフミュージックというのは「ニセモノ」とまではいかないまでもある種の「虚構」だったのだが、ジャック・ジョンソンが日の目を見るきっかけとなった前述の『Thicker Than Water』にはジャックの友人であるケリー・スレーターやロブ・マチャドなど「ガチのプロサーファー」たちが出演しており、サーフミュージックの在り方について、「あ、こっちがホンモノなんだ」という認識が世界中に広まった。

現在の「サーフミュージック=オーガニック」というイメージは、すべてジャック・ジョンソンから始まったのである。

穏やな心で海と音楽を愛して生きているリアルなサーファー達のライフスタイル、人生観を体現するような音楽性は、テレビ時代からネット時代への移り変わりの過渡期だった世界中のせわしない人々への「もっとゆっくり行こうよ」みたいな啓蒙として大いに支持されたし、すでにそのライフスタイルの下にいたハワイアン支持層にも、ライトなレゲエ/ラヴァーズロック支持層にも「コレだよコレ!」と受け入れられた(もちろんジャック自身もそれらのトラディショナルミュージックから多大な影響を受けてそのエッセンスが彼の音楽に散りばめられていたが故でもある)。
3rdアルバム発表以降は、老若男女猫も杓子も「夏はジャック・ジョンソン」という触れ込みが世界基準となった。

そんなわけで、2月真っ只中、夏を待ちわびる全ての人へ、季節外れのジャック・ジョンソンをお届け。


Bubble Toes


Gone


Cocoon


Banana Pancakes


If I Could


Breakdown


Adrift


free(featuring Jack Johnson) / donavon frankenreiter



去年出したダブリミックスアルバムも最高だった。
リー・ペリーとマッド・プロフェッサーにいじくられて、名実共に「サマータイムミュージックの天下統一」を成し遂げたジャック・ジョンソン。


私も今年の夏こそは海に行こう。
サーフィン始めよう。

もう10年ぐらいそう言ってる。
まあ、それでいいのである。


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