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”地上の”ロケットビジネス:世界の「商業スペースポート」がアツい

この記事は

◆筆者:宇宙輸送(ロケット)のスタートアップで働いている人
◆対象:商業スペースポート(=商業宇宙港)ビジネスの概況を知りたい方
◆内容:(日本以外の)世界のスペースポートの状況をまとめる

※宇宙ビジネスに関する記事を毎月投稿する「#まいつき宇宙ビジネス」シリーズ:2024年7月分

はじめに

ロケットビジネスと聞くと誰もが「ロケットによる宇宙輸送サービス市場」を連想します。もちろんそれで正解です。
ですが、今回は宇宙輸送サービス市場と密接に関連する、民間ロケット会社が出てきたことにより新たに生まれた市場 「商業スペースポート」 について考えたいと思います。

ロケット開発・宇宙輸送サービス提供のグローバル競争と連動して今後盛り上がっていくと思いますので、ぜひ本記事でキャッチアップしてみてください。


定義・分類

混乱を生まないように、まずは本記事における言葉の定義から。

  • 打上げ射場(以降 単に「射場」):特定の事業者 or ロケットのためだけに整備された ”クローズド” な打上げ施設。

    • 例:種子島宇宙センター

  • 宇宙港 または スペースポート(以降「スペースポート」で統一):複数の事業者・ロケットのために整備された ”オープン” な打上げ施設。

    • 例:北海道スペースポート

また、ざっくりと分類すると下記のようになります。

  1. 垂直離陸専用

    • 軌道上打上げ対応(Orbital)

    • サブオービタル打上げ対応(Suborbital)

  2. 水平離陸専用

  3. 垂直・水平 両対応

射場なのかスペースポートなのか・どの分類に当てはまるのか、この整理で各取り組みをみていくと混乱しないのでおすすめです。

全体像

それでは世界の全体像をみていきましょう。

まずは、様々な業界レポートを発行している Bryce Tech より「Orbital and Suborbital Launch Sites of the World 2024」を引用させていただきます。
こちらは、あらゆる分類の射場・スペースポートが網羅されています。

出典 : Bryce Tech

そして、一般社団法人の Space Port Japan より「SPACEPORT MAP 世界地図」もご紹介。
こちらは文字通りスペースポートにフォーカスしている内容です。また、計画中のものも紹介されているのが特徴。
いかに世界中でスペースポートが注目されているのが伝わってきますね。

出典:Space Port Japan

本記事での対象

さて、これから具体事例を見ていきますが、これ以降この記事ではビジネスとして運営される 商業スペースポート のみを扱うことにします。(仮に運営主体が政府系でも、商取引で事業者を誘致しようとするモデルであれば含めます)

また、この記事では日本の商業スペースポートは取り扱わない こととします。(ここを期待してここまで読んだ方がいたらごめんなさい)
私の仕事上、密接に関わりがある or 間接的に色々な情報を見聞きしているため、客観的に書くのが難しいというのが理由です。公開情報だけで記事を書いたとしてもどうしてもポジショントークになってしまう恐れがあります。。。
言及しないだけで日本にも有望な商業スペースポートがあるので、気になった方はぜひ色々と調べてみてください。

まとめると、本記事の対象は「(日本を除く)世界の商業スペースポート」です。

なぜ商業スペースポートがアツいのか

過去に公開したこちらの記事から下記の画像を引用しますが、こちらからわかる通り、現在 超小型〜中型サイズのロケットにおいて多くの民間企業が新規参入レースを繰り広げています。

出典:過去記事 -「宇宙輸送ビジネス」の現在地 : 世界の軌道投入用ロケット比較・分析から

しかし、特に欧州に当てはまりますが、ロケットをつくる能力がある国が必ずしもロケットを打ち上げるのに適した場所をもつとは限りません
ビジネス上 需要の高い太陽同期軌道に投入するためには 南 もしくは 北に海が開けているのが好ましく、傾斜低軌道や静止軌道に打ち上げるには東方向が海に面している方が好ましいです。
さらに、人口密集地ではないこと、最低限のインフラはあることなどが条件になってきます。

そこで登場するのが商業スペースポートです。ロケット会社を顧客として、競争的な宇宙輸送サービスを提供できる場としてスペースポートを訴求しているのです。
特に、自国のロケット会社ではなく海外のロケット会社を誘致しようとする動きが活発化しています。

最近の象徴的な事例を一つ。
アメリカの Firefly Aerospaceが、すでにアメリカ国内で打上げ実績のあるAlphaロケットを、2026年からスウェーデンのEsrange Space Center からも打ち上げると発表しました。Fireflyの発表の中では、欧州市場の顧客(衛星会社)とNATOの国々の安全保障に関わる宇宙ミッションに応えるためと明記しています。
つまり、商業スペースポートを利用することで欧州市場でのポジションを強固にしようというビジネス戦略を実行に移し始めたわけです。

このように、どのロケット会社がどのスペースポートから打ち上げようとしているかは各社の戦略を反映した動きですので、ぜひロケット本体の開発と合わせて注目してみることをおすすめします。

ロケット会社からみた評価軸

せっかくロケット会社で働いているので、ロケット会社が商業スペースポートを評価する際にどのような評価軸が考えられるかを想像して、列挙してみます。(所属組織の見解ではなく、個人の感想です)

なお、重要性が高いと思われるもの順にしており、括弧内には「何によって決まるか」を付記しています。

  1. 投入可能な軌道・傾斜角(立地場所そのもの)

  2. 確保可能なローンチウィンドウの頻度や期間(ルール・法規制・地元との関係)

  3. 立地国の法規制(立地国の姿勢)

  4. 必要な自己投資金額(スペースポートの設定)

  5. 立地国のサポートの充実度(立地国の姿勢)

  6. 立地地域のマーケット規模・状況(市場の状況)

  7. 交通アクセス性(立地場所そのもの)

  8. 自社の生産拠点との距離(立地場所とロケット会社の拠点)

こうして整理してみると「立地場所そのもの」ももちろん大事ですがそれだけでは選ばれることは難しく、スペースポートと立地国が協力していかにロケット会社を誘致できる環境を整えられるかという官民連携による競争であることがみえてきます。

注目プレイヤー

では、世界の商業スペースポートの注目プレイヤーをみていきましょう。

まずはビジュアル1枚にまとめました。
基準は明快で、軌道上打上げで民間ロケットの誘致に(ほぼ)成功しているスペースポートを取り上げています。

一つずつ簡単にみていきましょう。


1.  Mid-Atlantic Regional Spaceport (MARS)

2.  SaxaVord Spaceport

3. Andøya Spaceport

4. Esrange Space Center

5. Whalers Way Orbital Launch Complex


いかがでしょうか?
ロケットを打ち上げる能力がない国でも、政府や民間が整備するスペースポートで市場のリーダーの一つになっているところもありますね。
個人的には、オーストラリアが広大な国土や立地の優位性を生かして活発に動いていることに注目しています。

余談

最後にちょっとした余談を2つ。

政府が整備する自国の民間向けスペースポート

今回はビジネスに絞りましたが、政府が自国の産業を促進するために民間向けのスペースポートを新設 or 既存の射場に場所を新たに確保する動きも出てきました。これはこれで重要な動きです。

地域への波及効果

言わずもがなのためあえて触れていませんが、政府がスペースポートを建設を後押ししてロケット事業者を誘致するモチベーションとして、スペースポート周辺への経済効果があることを忘れてはいけません。観光・教育 などの実利が地域にもたされるため、水面下で世界各国でかなり数のスペースポートの計画が検討され、動いています。

まとめ

今回は以上です。

ロケットとスペースポート、この2つの市場の動向が今後世界の宇宙業界にどのような影響を及ぼしていくのかとてもワクワクしませんか?
また、前述の理由のため泣く泣くご紹介は避けましたが、日本の状況も中々アツいです。
世界各国が官民連携してこの競争的な状況に向かっていますので、日本も海外と競える状況になればいいなと個人的には考えています。
ぜひご注目ください。

Written by Genryo Kanno : https://genryo.space/

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