「民間外交で平和を」-"民意"と繋がり、民間から課題解決のサイクルを動かす
今回の記事のテーマは、言論NPOの活動の柱の一つ、「民間外交」について。
タイトルを見て、「民間外交って何?」と思った方もいると思います。私もそうでした。約1年前に言論NPOのインターンを始め、「民間外交」を知った時、言葉の響きは入ってきても具体的にどんなことをしているのか、1ミリも想像できませんでした。"そもそも外交って、政府の仕事じゃないの?" と疑問に感じたことを覚えています。
しかし実際には、民間でも外交において重要な役割を果たすことができるのです。民間、市民こそ、世界が直面する課題を当事者として考え、"外交"におけるアクターにならなくてはいけない。言論NPOの活動を通してそう感じるようになりました。
この記事を通して、言論NPOがどのように「民間外交」を進めているのか、その活動の実態に迫りたいと思います!
1. 「外交」は政府がするもの?!
皆さんが「外交」と聞いて思い浮かべる光景はどんなものですか?
首脳会談での握手、文書にサインする外交官の姿、
交渉のテーブルにつく各国のリーダーたち、国旗を背にした記者会見...
これらは多くの人がメディアを通じて目にする、外交の典型的なシーンだと思います。なんだか華やかな場面ばかりですよね。
ですが、実際の政府間の外交には多くの制約や課題が存在します。
その最大の制約が「世論」であることをご存知でしょうか?
〜世論の狭間で動けない政府間の外交〜
領土や国益に関するテーマは感情的な議論を引き起こすことが多く、メディアは対立や感情的な部分を強調して報道することが増えます。
そして、政府はこのような状況下で相手国に妥協的な態度を示すと、国内から大きな反発を受けるリスクが高まります。そのため多くの場合、政府は「受けの良い」発言や政策を選択する傾向にあり、あるいは世論を刺激しないよう慎重な行動が取られることが多いのです。
具体的な例として、2004年に小泉首相が靖国神社を参拝したことをめぐって中国で起きた反日デモがあります。
このときの日本でのメディア報道は、デモの背後にある中国の国民感情や日中の歴史、複雑な政治的状況を十分に説明しないまま、暴徒化するデモの映像を繰り返し放送していました。それは、日本人の中国人に対する不信感や警戒感を高め、さらなる誤解や対立につながったとの見方もあります。
そして、激しさを増す世論の狭間で、両国政府は衝突の根本的な解決に向けて全く動けませんでした。
政権基盤を揺るがしかねない攻撃的な世論を前に、地域や世界の課題解決のための作業が停滞してしまうことがあるのです。
さらに、政府は国家の威厳を守るという大義や国家間の利害関係など、あまりにも多くの制約を抱えています。政府だけで、国境を越えた課題を解決するということは非常に難しいのです。
では、一体誰が外交を動かし、国際社会の課題を解決することができるのでしょうか。
2. 「民間外交」の可能性
様々な制約によって、政府が積極的かつ効果的に問題解決に乗り出せない状況があることを見てきました。
では、一体誰がこの状況を変えることができるのか。
言論NPOの工藤代表は、そう問い続けたといいます。そして、はっきりとわかったのは、私たち市民が強くなれば社会を変えることができる ということ。ここでいう "強くなる" とは、国民一人一人が世の中で起きている様々な現象について "考える力を持つ" ということです。
つまり、日本や国際社会が抱える課題の解決を政府に任せて傍観者になったり、批判的・対立的な態度をとったりするのではなく、一人の市民として「どうしたら解決できるのか」を考え、意見を持てる社会に変えられないか。そうして、民間から解決に向けて動き出すことが、政府間の外交の土台になるのではないか、と。
そのような想いのもとで生まれたのが「民間外交」なのです。
〜"民意"と繋がり、民間から課題解決のサイクルを動かす〜
だからこそ、民間外交の"民意"との関わり方は政府間外交のそれとは全く異なります。
攻撃的な世論を前に根本的な課題解決に消極的になったり、国家の威厳を守ろうとするばかりで多国間の協力を生み出せなかったり。そんな政府間の外交のみでは、地域の平和や国際社会の課題解決を願う"民意"とはどんどんかけ離れていってしまいます。
その一方で、民間による外交は、課題の解決を切に願い、平和な社会を望む国民の声をダイレクトに活かします。
言論NPOが毎年、何十項目にも及ぶ世論調査を行っているのも、"相手国がいけないんだ" といった単純な声ではなく、国民が真に抱く願いや不安、さらに、目の前の課題に対しどういう解決策を望んでいるのか、といったサイレントマジョリティの声を議論に反映し、解決策の方向性を確かにするためなのです。
解決すべき課題とは何か、何を目指すべきなのか、どうしたら解決できるのか。政府よりも先んじて民間から問題を提起し、議論する。
そのようにして集まった知見を強く発信するとともに、各国政府へ提案を行うことで、地域の持続的な平和を構築し、地球規模の課題を解決するための 流れを民間から生み出そうとしています。
では、言論NPOは「民間外交」によって具体的にどのようなことを実現してきたのか?
今回の記事では私たちの活動の一つ、 "北東アジアに平和をつくる" について取り上げたいと思います!
3. 「民間外交」で北東アジアに平和をつくる
〜北東アジア地域での対話不足〜
北東アジアには、米中対立や北朝鮮の核・ミサイル問題、台湾海峡での対立激化など、構造的な緊張関係があります。そのような不安定な要素がいくつもある中で、威嚇的な行動や偶発的な事故が取り返しのつかない紛争の引き金を引きかねません。
それにもかかわらず、紛争を回避するための危機管理の仕組み、”ガードレール” は機能しておらず、周辺国間の対話の仕組みすら存在していません。
例えばヨーロッパなどを見ると、ミュンヘン安全保障会議といった民間主導の国際会議があります。
この会議は、対話によって紛争を平和的に解決するために、欧州主要国の閣僚や世界各国の首脳・政府関係者が例年参加しており、民間主導でありながら、まさに「外交を動かす」舞台になっているのです。
一方でアジアを見てみると、課題解決への地域の連携は不十分であり、持続的な平和に向けた 多国間の対話の枠組みすら存在していません。
大国間の十分なコミュニケーションはなく、偶発的な事故が起きた際に話し合える環境もない中で、現場での緊張だけが年々高まっていく状況なのです。
そんな状況を変えるために、この地域の紛争回避や将来の平和につながる対話を誰かが生み出さなければいけない。
その歴史的な作業に、言論NPOは挑んでいます。
〜対話メカニズムをアジアへ〜
2013年、日本と中国との間で領土対立が表面化し、世界で紛争の懸念が高まります。その時、言論NPOが北京で合意したのが、「不戦の誓い」でした。
そしてこの「誓い」を北東アジア全域に広げるため、2020年には7年もの準備の末、アメリカと中国、日本と韓国の4カ国による「平和会議」を立ち上げました。
北東アジアの紛争をどのように回避し、この地域に持続的な平和を実現するのか。民間を舞台にした対話のメカニズムがアジアでも動き始めたのです。
私たちは、民間には特別な使命があると考えています。
共通の課題を抱えた時に、政府外交に一歩先んじて取り組み、その解決や解決のための環境づくりをすることです。
それが、言論NPOの「民間外交」なのです。
4. おわりに
最後に、民間外交についての代表工藤の想いをご紹介します。
いかがでしたか?
言論NPOの取り組みの柱である「民間外交」について少しイメージが湧いてきたでしょうか?
次回の記事では、今年の10月に行われた東京-北京フォーラムを振り返ります。インターンとして民間外交の現場を間近で体験させてもらった経験をお伝えできたらと思います。
お楽しみに!
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