ロックダウンで売り上げがゼロに。映画館にしかなかった広告体験はどうなる。
1年半前にイギリスに来て、驚いたことの一つが、映画館での広告体験が充実していた事でした。
映画館の外壁や館内はに多くのデジタルサイネージが設置され、広告枠として販売されています。
(イギリスの代表的な映画館チェーン”ODEON”の外壁)
(映画館の中にサイネージが複数面設置されています)
シネアドも15分から20分(10から20社)程度流れており、日本の数倍売れているのではないか。と驚くほど広告が充実していました。
イギリスでは、ここ数年シネアドの売り上げが右肩上がりで成長を続けてきました。その理由と販売方法、コロナを受けての今後について書いていきたいと思います。
10年で急成長している映画館広告市場
2008年、Cineworld と Odeonという2大映画館チェーン(2つ合わせてチケット売り上げの約50%を占める)が共同出資し、Digital Cinema Mediaという会社を設立します。
両社の映画館広告で売り上げは拡大されていき、2012年にシネアドのデジタル入稿(デジタルシネアド)を行えるようになったことで、一気にそのビジネスが加速されていくことになります。
2019年には英国内のシネアドの市場規模は約140億円に到達し、額もそうですが成長比率を見ていると、メディアとしての存在感を増していると言えるでしょう。
若者に到達できる劇場内メディア
映画館(劇場内)のメディアの好調の要因を説明する前に、イギリスのメディアプランニングの構造について少し紹介します。
イギリスでは、シネアドを含む映画館広告はOOH広告ではなく”Cinema”として、OOHとは切り離されて扱われています。OOH広告代理店がCinemaメディアを取り扱うことはほとんどありません。
Cinemaは、テレビやyoutubeなどの広告と共に「動画メディア」としてまとめられ、プランニングが行われています。
例えば、広告主から「動画メディア」に4億円を用意するので、最適なメディアプランを考えて欲しい。という依頼が来た際に、代理店側はTV・インターネット・Cinemaを並列で検討し、プランニングします(この場合通常の屋外・交通広告は提案の外になることが多いです)
この場合に、Cinemaの強みとなるのが、若者をターゲットにできるという点です。
なぜ若者がターゲットになるかといえば、テレビの視聴時間が関係しています。グラフはイギリスの世代別の1日のテレビ視聴時間です。
44歳以下の年代では大きく視聴時間が減少しており、既に25歳以下だと1日1時間程度しかテレビに触れておりません。
一方で、イギリスの映画館は観客の44%が16歳から34歳と言われています。
若者を狙える動画メディア且つ、スキップされず確実に広告(メッセージ)を届けたい。という広告主のニーズに応えられることから、シネアドが使われるケースが多くなっているのです。
ブランドを育てる場所になる映画館
2019年の英国におけるシネアドのトップ10広告主を見ていきましょう。
マクドナルド/P&Gなど、顧客単価の高くないグローバルクライアントが上位にいることも少し驚きではありますが、ここで押さえておきたいポイントは、Apple/Audi/BMWなどの高級品ブランドがシネアドを活用していることです。
先ほども申し上げた通り、映画館には若者が多いわけですが、にもかかわらず高単価商材が告知している理由は、短期的なキャンペーンとしての出稿ではなく、ブランドコミュニケーションの接点だと考えているのだと思います。
90秒/120秒を使い、大きなスクリーン(非日常な環境)で、長いストーリーでブランドの持つメッセージを伝えることで、ブランドイメージを長期的に作る狙いが見えます。
(実際に過去流れていたAppleのCMです)
幅広い販売方法
簡単に、英国におけるシネアドの販売方法について紹介していきます。
英国最大のシネアド媒体社であるDigital Cinema Mediaのサイトを参考にしていきましょう。
【シネアド販売方法一覧】
・通常スポットCM
・ブロンズスポット
・シルバースポット
・ゴールドスポット
・年齢ターゲティング販売
・作品指定販売
・アルコール/ギャンブル商材向けパッケージ
・劇場/エリア指定販売
・接触人数保証販売
色々な手法がある中でも、個人的に面白いなと感じているのが、ブロンズ/シルバー/ゴールドと分けたスポット販売です。
ブロンズ/シルバー/ゴールドはそれぞれ放映される場所が異なります。
どうなっているのか?
映画上映までの流れと合わせて見てみましょう。
通常⇒ブロンズ⇒シルバーとCMの流れるタイミングが本編に近づいていき、ゴールドの場合は予告編と本編の間で放映されます。
料金はブロンズは通常スポットの15%増し、シルバーは30%、ゴールドは60%増しという設定です。
当然、本編直前になればなるほど、観客も増えますし、印象にも残すことができるので、効果が高くなるわけですが、ここを商品化として高く売る。というのは非常に良い設計です。
個人的な感覚としては、AppleやBMWなどがこのゴールドスポットをよく使っているのではないかなと思います。
ロックダウンによる影響とこれから
3月23日にロックダウンが発令され映画館は全て封鎖されてしまいました。好調だった映画広告業界も、出稿は勿論停止され、売り上げがなくなりました。
7月から映画館が再開したものの、席数は50%以下に制限されるなど、厳しい状況は続いています。
こうした逆境の中、映画館広告は少しずつですが立ち直りを見せていて、10月には1,500万円程の売り上げしか見込まれておりませんが、12月には既に発注されているものだけで、8500万円となっています。
イギリスではクリスマス期間に14日から20日間の長い休みを取るのが一般的ですが、今年は旅行に行くのも難しい状況なので、国内で過ごす人も増えそうで、映画にも注目が集まっています。
スクリーンを通した広告体験
ただ、映画館に来る人の数が、これまで通り右肩上がりに成長するかどうかは、コロナ影響次第になる部分も大きいので、既存のビジネスモデルだけでなく、”若者”や”画面の大きさ”、”同時視聴”、といった映画の持つ特徴を使った新しいアプローチが必要です。
イギリスのLuna Cinemaはコロナ以前からアウトドア・ドライブインシアター・スポーツのパブリックビューイングなどをビジネスに中心としており、英国内で広く認知されてきましたが、コロナにより注目が集まっています。
(https://thelunacinema.com/)
このLuna Cinemaにシネアドのトップ10広告主でもあるBMWが協賛するというニュースも出てきており、企業からのバックアップを受けることができるようになってきました。
今年はカウントダウンなど、リアルなイベントが難しい中で、大型スクリーンを通じた体験を演出する機会や期待は高まっていくのではないでしょうか。
ということで、今日はシネアドを中心とした映画館広告について書いていきました。
最後はイギリスの映画館で流れている動画が素敵だったので、こちらをシェアして終わりとしたいと思います。
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