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初秋の軽井沢・大賀ホールにて、河村尚子さんデビュー20周年ピアノ・リサイタルを観覧する


初秋の大賀ホールにて

「秋のまだ季候のいい時期に、本年三度目の軽井沢を再訪したい」、と思っていた矢先、ちょうど山猫好みのピアノ・リサイタルの案内がありました。
河村尚子さんデビュー20周年公演です。全国数カ所での公演の、千秋楽の前日が今回でした。
当日の軽井沢駅に到着すると、高原リゾートならではの冷たい雨…。
そんな中でも手堅く雲場池やハルニレテラスを観覧し、開場の1415の前にはホール入口にて待機しておりました。
開場後、サイン会参加権を得るために河村さんの最新記念アルバムCDを購入しました。

こちらのCD『20 -Twenty-』です。
SACDハイブリッド仕様で、クラシックピアノ通なら誰でも唸る秀逸な22曲の収録曲です。

開演前のステージ撮影は可、とのことでしたので、このホールの寄贈者である大賀典夫氏の奥様(大賀緑氏)が、昨年あたらしく寄贈されたという"Steinway&Sons ハンブルク製 D-274"にiPhone13のカメラを向け、本日のプログラムに期待が高まります。

Steinway&Sons ハンブルク製 D-274

予約したシートは、一階席2列目のほぼ中央。演奏者の姿と運指が間近に観覧できる好位置です!

前半~シャコンヌ、ノクターンから戦争ソナタまで

  • J.S.バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ BWV1004

  • ショパン:ノクターン第20番『レント・コン・グラン・エスプレッショーネ』嬰ハ短調(遺作)

  • ショパン:ノクターン 変ニ長調 Op.27-2

  • プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番『戦争ソナタ』変ロ長調 Op.83  

開演時間の1500。
漆黒のスラックススタイルに、腕が出ているお召し物で本日の演奏者・河村尚子さんがステージへ。
トップバッターは対位法技術を駆使したバッハの名作「シャコンヌBWV1004」を、後の時代にブゾーニがピアノ独奏用に編曲したものです。バイオリン編のものは昨年晩秋、新宿オペラシティホールで松田理奈さんによる迫真の演奏を拝聴したので、今回それがピアノになるとどのように印象が変わるのか聞き比べてみました。
弦楽器でも相当に高度な技術を要するトレモロ部を、鍵盤楽器で一つ一つ打鍵にて演奏するピアノになると、音に切れ目のないように更に難易度が増すことだと思います。しかし国内デビューだけでも20年のキャリアを擁する河村さんは、私の席から拝見出来る部分でも、相当な高速度の運指で弦楽器とほぼ同じレベルの切れ目のない滑らか且つ繊細な演奏に徹していらっしゃいました。
2曲目は、ショパンの悲しいほど美しい「ノクターン~遺作」。2000年代に平原綾香さんが「ノクターン」として、クロスオーバー作品に歌詞を載せたものをお聴きになった方も多いことでしょう。
この日の午前中、同じ軽井沢にある私にとっての聖地・雲場池に、7年間一途にお慕いし続けた大切な方への想いを葬ってきたため、思わず感極まりそうになりました。公演前のホールの外では、初秋の当地特有の冷たい霧雨が降っていたのもさらに、この情感溢れるノクターンの悲劇性を際立たせていました。

朝方に訪れた、初秋の雲場池。
これほどまでにショパンの「遺作ノクターン」が似合う情景が、他にあるでしょうか。

2曲目の同作曲者ノクターンは、若干明るさのある穏やかな曲調ながら、優美な舟歌のような情感のこもった作品でした。
そして、前半ラストの『戦争ソナタ』は、プロコフィエフの代表曲です。ウクライナ生まれ・ロシア育ちの彼が、第二次大戦での戦火をモチーフに編んだ作品。歩兵が進軍する様子、戦車が走破する様子、戦場で砲弾・銃弾が飛び交う様、戦車砲により建築物が破壊される様子などが不協和音等も多用しながら、見事に表現しつくされていました。
ウクライナ戦争はこのままだと三年目に突入してしまいそうですが、この戦争の一日も早い終結を願い、演奏者の河村さんはこの「一大国際観光都市」である軽井沢にこの作品を捧げたのでしょう。

後半:ショパン~即興曲・ソナタ2作品

  • ショパン:即興曲第3番 変ト長調 Op.51

  • ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58

河村さんの若干の御衣装直しの後、ショパンの美しくも情熱を秘めた、流麗な2作品。ゆったりめの即興曲が一作品演奏され、4部構成の鉄板ソナタが続きます。
最終演目の作品は、仏・ノアンでのバカンスにてショパンの永遠の恋人:ジョルジュ・サンドと共に過ごした日々に作曲された銘品です。持病の呼吸器系の疾患は進行していたものの、サンドの献身的・精神的な支えもあってショパンはこの時期に幾つものの名作を作曲していました。
「大切な人からの尊い愛のおかげで、重篤な疾病に負けずに歴史に残る作品を生み出す」という背景は、ハンディ持ちながらもある程度の文芸活動をこのnoteにて行ない、かつ恋人と巡り会うチャンスを探している私にも大変励みになるものであり、創作活動の原動力となり得るものでした。第4曲の最終楽章、緊張感と共に躍動感を帯びながら、フィナーレへと近づいていきます。
そして河村さんが演奏終了後、ピアノを弾いていた腕を高く掲げると、ホール内からは満場の拍手と、カーテンコール・アンコールを切望する観客からの熱気に溢れていました。

アンコール:デビュー20周年記念最新アルバムから

  • ドビュッシー:夢想

  • フランツ=リスト:愛の夢

  • リムスキー=コルサコフ:熊蜂は飛ぶ

小品ながらも知名度の高い鉄板ピアノ曲で、3曲もアンコールに応えて下さいました。アンコール曲に関しては河村さんご自身での解説もあり、『夢想』に関しては、最終的にベルガマスク組曲に追加されなかったことや、20年もの間のピアニスト・キャリアでの日独両国での音楽家生活などの興味深いお話しの数々を拝聴させて頂きました。

サイン会

閉幕後、CD購入済観客に特典としてサイン会が始まりました。他の方は購入したCDを開封し、そのCDのレーベル面とブックレットに書いて頂いておりましたが、私はこの初夏に地元でカスタマイズしておいた紙専門店で購入のサイン帖に頂きました。

読みやすい筆記体にて頂きました。
直販CDと同等か、それ以上の記念になります!

外では、もう軽井沢の宵闇が迫っていました。

宵闇迫る矢ヶ崎池の湖面に映りこむ照明。
軽井沢が錦秋のかがやきを見せる季節は、間近に迫っていました。


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