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図書館のリファレンスサービスで日常の疑問を解消した話

図書館のリファレンスサービスを利用したら予想以上に便利だったという話です。

リファレンスサービスとは

図書館のリファレンスサービスとは、個人の調べ物について、資料や情報を案内してくれるサービスです。図書館の体制にもよりますが、図書館の窓口、メール、ホームページ経由など様々な方法で問い合わせが可能です。

レファレンスサービスとは、調べたいことや探している資料などのご質問について、必要な資料・情報をご案内するサービスです。図書の所蔵の有無はもとより、関連資料のご紹介や他機関所蔵資料の探し方のご案内、新聞記事や雑誌記事、論文などの探し方もご案内しております。是非ご利用ください。

たとえば、所沢市の図書館ではリファレンスの問い合わせ事例を公表しています。子供の工作に関する質問から、動物の冬眠に関する質問までさまざまです。

ちなみにリファレンスサービスはあくまでも資料と情報の提供のため、人生相談には回答してくれないそうです(それはそうだ)。この注意書きがあるってことは、図書館に人生相談が寄せられることがあるってことなんですかね…。

ただ「人生について考える本」とか「お悩み相談本」を探している、と依頼すればリファレンスサービスの範疇に収まるのでは?とも思います。

リファレンスサービスを使って調べたこと

以下の3つの事例を調べるために、リファレンスサービスを利用しました。完全に個人的な調べ物なので、あまり参考にならないと思いますが…。

調べた事例①「実家」という言葉の由来

「実家」という言葉を聞いたときに、ふと「親の家が実家なら、一人暮らしの家は仮の住まいなのか?」と疑問を持ったのがきっかけで調べました。図書館のホームページに↓のような雑な文章で依頼を投げました。

「実家」という言葉の由来や、またその言葉の使われ方の変遷があれば調べたいと思っています。この疑問に答えるような本はあるでしょうか。また、そのような本がない場合、言葉の由来を調べる方法が載っている本を教えて下さい。

これに対して、リファレンスサービスの回答では辞書10冊、参考書15冊ほどを紹介してもらいました。一部抜粋します。

お寄せいただいたご質問に回答いたします。いくつか資料をご紹介しますので、予約や閲覧の参考にしてください。 
●辞書、辞典類 
・『岩波国語辞典』 西尾実/編 岩波書店 2019.11 813.1 ISBN:978-4-00-080048-8 
  *P651「実家」 「2広く、生家。父母の家。成人した子と親との別居がごく普通になった一九七〇年ごろから使われる意味。」という記述あり。
・『現代語古語類語辞典』 芹生公男/編 三省堂 2015.9 813.6 ISBN:978-4-385-13994-4 
  *P860「実家」 近世から実家という単語が使われているという旨が記載されている。
・『大辞林』 松村明/編 三省堂 2019.9 813.1 ISBN:978-4-385-13906-7 
  *P1209「実家」 「2民法の旧規定で、婚姻または養子縁組により他家へ入った者からみて、その実父母の家。現行規定では「実方」の語を用いる。」という記述あり。

資料の名前だけではなく「〇〇といった記載がある」と具体的に調べて教えてくれるのが手厚くてありがたかったです(どこまで手厚く調べるかは図書館によって微妙に違うかもしれません)。

簡潔に言うと「実家」という言葉は当初、お嫁に行った女性が生家を指して言う言葉で、進学・就職した人が生家を指して使う用例はごく最近になって使われはじめたようです。この変遷には、厳格な家制度の衰退や、大学進学率の上昇も関わっていて、調べていて副次的に知ることが多かったです。この時教わった資料はどれもめちゃくちゃ興味深かったので、いずれ別の記事にまとめたいです。

調べた事例②失血時の健康への影響

400ml献血をしたことをきっかけに、人間の体から血がどの程度失われると、どんな影響があるのか?という疑問に至ったのがきっかけです。

ネット記事では「血を抜くとデトックス効果がある」みたいな内容もあったのですが、信憑性が定かではなかったので、きちんと調べてみたいと思ってリファレンスサービスに依頼しました。

体から血が失われた時の健康への影響を調べています。体から血がどの程度なくなると、どういう影響があるか、説明している本があったら教えていただけますでしょうか。健康に良いのか悪いのか、量によるのか調べたいと考えています。医学の専門知識はないため、一般向けの本ですとありがたいです。

↓のような回答がもらえました。


回答内容:
お寄せいただいたご質問に回答いたします。参考となる資料を紹介いたします。
  〇辞典など
『血液学』安部英/[ほか]編 丸善 1985 ISBN:4-621-03018-3
『人間の許容限界事典』山崎昌廣/編集 朝倉書店 2015 ISBN:978-4-254-10273-4
  〇出血による症状が記載されている、生理学、循環器、輸血などの一般書
『生理学の基本』中島雅美/監修 マイナビ出版 2020 ISBN:978-4-8399-7219-6
『循環器のしくみ』阿古潤哉/監修 マイナビ出版 2021 ISBN:978-4-8399-7531-9
『とっても気になる血液の科学』奈良信雄/著 技術評論社 2010 ISBN:978-4-7741-4061-2
『今日の輸血』霜山龍志/著 北海道大学出版会 2006 ISBN:4-8329-7242-1
  〇出血量と症状、対処等が記されている救急医療等の資料
『簡単にできる!山のファーストエイド』悳秀彦/著 山と渓谷社 2014 ISBN:978-4-635-04384-7
『好きになる救急医学』小林國男/著 講談社 2016 ISBN:978-4-06-154184-9
『よくわかるみんなの救急』坂本哲也/編 大修館書店 2017 ISBN:978-4-469-26818-8
『ゼロからわかる救急・急変看護』佐々木勝教/監修 成美堂出版 2016 ISBN:978-4-415-32162-2 
『子どもをあずかる人のための救命マニュアル』日本小児蘇生研究機構/監修 学研メディカル秀潤社 2015 ISBN:978-4-7809-1176-3

余談ですが、このとき読んだ「人間の許容限界事典」が大層面白かったです。失血以外にも、人間が耐えうる限界を140のテーマについて調査してまとめた本です。

調べてみた結論としては、血液の3分の1程度が失われると命に関わるけれど、献血で抜かれる400mlの血は、成人男性の血(約5000ml)の10分の1以下程度であるため問題ないことがわかりました。

調べた事例③日本語の縦書きと横書きについて

「日本語は、縦にも横にも書ける珍しい言語だ」という文章を読み「なんで?」と思ったことがきっかけです。例によってネット上には断片的な内容しかなかったため、リファレンスサービスを使いました。

ここで調べた内容は、後に整理して、同人誌の記事として寄稿しました。

ちなみにこのときは、図書館のホームページに↓のような質問を投げました。ある程度下調べをしていると、具体的な質問ができて良いですね。

日本語の文章で、縦書きと横書きがそれぞれ生まれて普及した背景や、他の言語では縦書きと横書きの両立が難しい理由を調べています。XXX図書館の資料では、以下の本はすでに読んでいます。これ以外に分かりやすい資料があれば教えていただきたいです。
金田一春彦「日本語 新版 下」岩波書店、一九九八
高岡昌江「国語の教科書は、なぜたて書きなの?」アリス館、二〇〇一
石川九楊「縦に書け! 横書きが日本人を壊す」祥伝社、二〇一三
日本語学会「日本語学大辞典」東京堂出版、二〇一八
屋名池誠「横書き登場」岩波書店、二〇〇三
また太平洋戦争後に、GHQの占領政策の一環で、横書きは左から右に書くことに統一されたという話を聞いたのですが、根拠を確認できていません。GHQが日本語の表記に干渉したことがわかる資料があれば、合わせて教えていただけるとありがたいです。

このときの回答では本だけではなく、インターネットで得られる情報もかなり紹介してもらいました。一部抜粋します。

お寄せいただいたご質問にお答えいたします。(中略)
○インターネット情報
・文化庁 ~ 公用文に関する諸通知
<https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/sanko/koyobun/index.html>
*昭和27年4月に「執務能率を増進する目的をもって,書類の書き方について」「なるべく広い範囲にわたって左横書きとする。」とある。
・CiNii 日本の論文を探す
  日本の論文の検索サイト。一部インターネット公開しているものはWeb上で読むことができる 
<https://ci.nii.ac.jp/>
  論文検索に「横書き」と入れて検索すると、『横書き登場』の著者である屋名池誠の2003年の論文「横書きの成立--日本語表記のエポック」もヒットする。インターネットで公開されているため、本文も読むことができる。
  ・朝日新聞記事データベース 「聞蔵」
  契約しているXXX図書館の専用端末から見られる朝日新聞の商用オンラインデータベース。過去の記事等を検索できる。
  <https://database.asahi.com/index.shtml>
  *キーワード「横書き」で検索すると、古いもので1921年11月28日朝刊に「横書・横組・横読」との投書がヒットする。「元来、字は横書きにすのが世界の大法だ」等。
・国立国会図書館デジタルコレクション
<https://dl.ndl.go.jp/>
  *国立国会図書館がデジタル化した資料のうち、絶版等の理由で入手が困難な資料について、画像の閲覧等の利用ができるようになるサービス。インターネット環境があればどこからでも閲覧できるインターネット公開、契約している図書館の指定端末でログインした場合のみ閲覧できる図書館送信資料、国立国会図書館内限定で閲覧可能な資料の3種類あり。「横書」で検索すると、インターネット公開資料から『生命の日本字』山崎笛郎著 大正12年 日本時文社といった大正時代の横書きの資料がヒットする。また、明治時代の『幾何教科書』も、横書きで書かれていることが確認できる。

論文とか新聞記事、国立国会図書館のデジタルコレクションまでリサーチしてくれる点は本当に素晴らしいです。どこまで調べるかは他の問い合わせとの兼ね合いや、司書さんのスタンスもあるのでしょうが、これを素人がやろうとしたら大変です。

まとめ

リファレンスサービスの利用例について書きました。これ無料で使っていいのか?と感じるくらい良質なサービスだと感じました。自分が払っている住民税の一部は、リファレンスサービスのサブスク料金なのだと思えたくらいです。

仰々しい学術的な調べ物ではなくても、日常の疑問や困りごとを解消するために使っても良いんだ、と気づけたのが収穫だったかなと思います。今後も必要に応じて利用していければ。今回の記事は以上です。

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