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2021年4月に読んだ本を振り返る

この記事では、自分が4月に読んだ本を振り返って、読んでよかった本をご紹介します。

4月に読んだ本

4月に読んだ本は14冊(小説が1冊、それ以外が13冊)でした。相変わらず統一感のないラインナップですね…。

FireShot Capture 065 - shikadaさんの4月読書まとめ - 読書メーター - bookmeter.com

読んで良かった本2冊

4月に読んだ本から、2冊ご紹介します。

1 幻獣ムベンベを追え

圧倒的に面白かったですね。一気読みでした。

1988年頃、幻獣「ムベンベ」を探しに、はるばるコンゴまで向かった早稲田大探検部の活動記録です。ムベンベは、一部の界隈ではネッシーと並んで有名な未確認生物だそうです。

ムベンベを見つけるための探検が本筋なのですが、そこに行き着くまでに学生たちが数々のハードルを乗り越えていく様子が読み応えがあります。

ムベンベについて書かれた和書が少ないため英語の書籍を探して読み、現地語のリンガラ語を独学し、資金や撮影資材の調達のために日本企業(ソニーとかニコンといった大企業)をスポンサーにつけ、コンゴ政府とも交渉して調査の了承を得る。学生たちの行動力が尋常ではないですね。

コンゴに到着しても、ムベンベが生息するテレ湖に行き着くまでが一苦労。原住民の訳のわからない儀式に付き合わされ、食料の移送をしてもらったら原住民に食料をちょろまかされ、メンバーがマラリアになり、ハチの襲撃にあい、湿地帯でテントが地面に沈む。ジャングルでカワウソやゴリラを狩って食料調達し、食料不足に対応する。特に原住民とのトラブルは読み応えがありました。1988年の頃ということを差し引いても、彼らは相当に原始的な生活をしていて、日本人が想像できないような掟やしきたりに沿って生きていることが読み取れます。

そうした数々の困難を一つ一つ解決し、やり過ごしていく著者のバイタリティには脱帽です。とても常人には真似できない。

余談ですが、調査メンバーの一人である田村が非常に気の毒でした。コンゴのジャングルの奥地でずっとマラリアに冒され、病院もないため治療されず、挙句の果てに仲間に「あいつは体質が弱いからマラリアなんかになった」と言われて絶望する始末。最終的には生還できたので美談になっているものの、いつ死んでもおかしくなかったと思います。40℃近い熱が出ていながら「やるっきゃないでしょう」と数十キロを踏破し、コンゴから帰国した後も離島でニホンオオカミなどの「幻の動物」研究を精力的に行うあたり、この人も著者同様、常人ではないですね。

2 人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

タイトルの疑問に対する様々な研究結果を紹介する一冊です。なお、本書は2017年に出版されており、コロナショックの影響は研究結果に含まれていません。

このことは個人的にもずっと疑問だったのですが、自分の中で納得できる理由は見つからず、賃金が上がらないのは「不況だから…?」程度の浅い理解をしていました。そうした自分の疑問に様々な視点から答えてくれており、示唆に富む内容で非常に面白かったです。

本書ではまず、21世紀の日本では人手不足と賃金低迷が両立していることを統計で示しています。これは一見、矛盾した状態です。

一般的な経済学では、人手不足=労働市場の需給が逼迫すると、実質賃金が上昇して均衡が実現する、とされます。たとえばアルバイトの募集でも、人が集まらなければ時給を上げて人を集めようとしますね。

また、少子化により若手労働者が貴重な労働力とみなされ、賃金上昇の方向に圧力がかかるという考え方もできます。こうした「人手不足なら、賃金は上昇する」ことが予想されるいっぽうで、21世紀の日本の労働市場ではその法則が適用されず、賃金がいっこうに上昇していない。これはなぜか?という問いが本書の主題です。

この問いに対し、22人の研究者が各自の専門分野での研究結果を示しています。一貫性はありませんが、幅広い視点から、人手不足に関わらず賃金上昇につながらない要因を解説しています。雑に要約します。「→」以降は自分のコメントです。

▼賃金が上がらない要因

①社会保障負担の増大
少子高齢化に伴い、健康保険料や年金保険料の負担は年々増大している。こうした保険料は、企業と従業員で折半して負担している。社会保険料率の増大が、従業員が受け取る賃金の上昇の余地を奪っている。
今後も少子高齢化がすすみ、社会保険料の負担が高まれば、人手不足かどうかに関わらず、賃金は引き上げにくくなる。
たとえば2010~2014年の間では、社員に対する賃金が0.3%の増加に対し、会社の社員に対する社会保障費の負担は6.8%増加している。

→軽く検索してみたら、たとえば月給20万円の社員に対しては、会社が月約3万円を負担している。月給30万円で、40代以上(介護保険料を負担)の社員に対しては、約5万円を会社が負担している。

→労使折半の根拠法令は、健康保険法と厚生年金保険法。
http://www.tama5cci.or.jp/hp/yanagida/?p=7146

②賃金に対する規制の影響
一部の業界では、サービスの価格が規制されているため、賃金が上がりにくい。代表的な業界が医療・福祉系。診療報酬制度や介護報酬制度により、サービスの価格が抑制されているため、なかなか賃金が上昇しない。
(医療分野は医師や看護師といった有資格者の収入が高いために問題が顕在化していないが、潜在的には同様の問題を抱えている)
福祉業界では2000年代以降、雇用者数はほぼ倍増したにもかかわらず、賃金は低下している。介護報酬の改定は3年に1度のため、価格調整にタイムラグが生じる。また介護保険サービスの利用者が増加して財政状況が悪化すると、支出を抑制するために、国は介護報酬を低く抑えようとする。このため、利用者が増え、人手不足が深刻化しても、なかなか介護報酬が上がらず、賃金を上げられない、という構造的な問題が発生する。

→利用者目線では、安価で医療・介護サービスを利用できる利点はある。ただ、保育士や介護士のワープアっぷりは報道でよく目にするところ…。

③非正規社員の割合の増大
正社員に対する非正規社員の割合が増えたため、労働者全体の平均賃金は低下した。特に団塊の世代が退職後に正社員から非正規社員に移行するため、非正規高齢者の労働供給は過剰になり、賃上げの圧力が働かない。

→雇用のバッファとして薄給で非正規が使い倒されるのは根深い問題だと思う。官製ワーキングプアなどと呼ばれる、公務員の非正規雇用問題について書かれた本を見つけたので、それも読んでみたい。

④労働者の技能低下
2008年の金融危機以降、企業のOff-JTの労働者ひとりあたり支出額は、それ以前に比べて半減している。労働者自身による自己学習も、やはり2008年以降急減している。人材育成の機会が失われている。
⑤賃金には上方硬直性がある
一度賃金を上げてしまうと、リーマンショック後のような深刻な状況になっても、企業はなかなか賃金を下げる方向に改定できない。このため、企業は賃上げに慎重になる。事実、リーマンショック後の2009年でも、賃金表改定を伴うベースダウンを実施した企業は全体の約2%にすぎない。
人間の心理には、自分が得る価値が増える場合の喜びより減る場合の悲しみが大きいという「損失回避特性」がある。この特性によって、賃金が引き下げられることに対する抵抗感が強いのではないか。
⑥業務負担増大による実質賃金低下
価格競争や原材料費の高騰により、労働コストを削減したい場合、コスト削減圧力によって離職率が増え、人手不足が生じる場合がある。社員の賃金を額面上は引き下げなくても、一人あたりの業務量を増やして、それに見合う分給与を上げなければ、実質的には賃金を引き下げているのと同じ。

本書の内容で、賃金が上がらない要因が網羅されているわけではないでしょうが、数字の裏付けがされていて、かなり納得感のある記述が多かったです。こうして見てみると、賃金低迷は個人の努力の問題というよりは、複数の社会的要因による構造的な問題であることが読み取れました。

してみると、昨今の副業ブームなんかは、本業の賃金が上がりにくい状況での個人レベルの生存戦略なんでしょうね。もちろん、趣味の延長が自然と副業になっていることもあるでしょうが、「稼ぐこと」自体が目的の副業の話をよく耳にします。願わくは本業の稼ぎだけで生活費がまかなえて、十分な蓄えもできる社会であってほしいものですが、現代日本でそれを実現できるのは、一部の上澄みのエリートたちだけでしょう。

これは妄想ですが、一回くらいはお金がじゃぶじゃぶしてる好景気を経験してみたいものですね。自分が生まれる少し前にバブルが崩壊し、それ以来、日本経済はずーっと停滞モードであるように感じます。まぁそんな好景気は当面起こり得ないでしょうから、自己投資や家計改善、無理のない範囲での投資といった部分を着実にやっていくのが現実的なところでしょうが。

まとめ

「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」の紹介文がめちゃくちゃ長くなってしまいました…。思うに自分は、こういう社会構造を切り分けて解説してくれる本が好きなんですね。

世の中は数十億人の人間が好き勝手やっているために複雑怪奇で、スパッと理解・解決できる問題ばかりではないんですが、社会の仕組みや、それが個人に与える影響を一つ一つ知ることは、知的好奇心を満たすこと以上の効能があると感じています。社会構造の上流の部分、仕組みや力学を知ることで、自分自身の立ち位置も見えてくるし、個人の努力で変えられる部分とそうでない部分も区別しやすくなる。また安易な陰謀論に飲み込まれにくくなります。

もちろん本を一冊読んでも、素人に毛が生えた程度の理解に過ぎないのですが、地道に植毛活動を続けていければと。今後も、そのへんを意識して本を探していきたいと思っています。では、今回の記事はこのへんで。

最後までお読み頂きありがとうございました!